第206話 押し付け合い



案内された部屋で休んでいると扉がノックされる。

俺が誰何するとカザン君が返事をしてきた。

どうやらお爺さん達との話し合いが終わったみたいだね。

俺が部屋に招き入れるとカザン君が真剣な面持ちで告げてくる。


「お待たせしましてすみません、ケイさん。お爺様とエルファン卿の話し合いが終わりました。それで、今後の事ををお話したいのですが、今よろしいでしょうか?」


「うん、大丈夫......というか来てくれて助かったよ。」


「助かった......?何か問題でもありましたか?」


「うん、実はね。ノーラちゃんが玄関ホールで紹介してくれた時の件で、お母さんが後ほど話を聞かせて欲しいって言っていたから......いつ来るかひやひやしてたんだ。」


「......なるほど、そうでした。では私はレギさん達に声を掛けてきますので、ケイさんはここを絶対に動かないでください。」


「ちょっと、待とうか?カザン君?」


踵を返して部屋を出て行こうとするカザン君の肩を掴んで動きを止める。


「け、ケイさん!離してください!ここは危険地帯です!私の手には負えません!」


「そんな危険地帯に俺を一人で放置するのはこれから領主を目指すものとしてどうなのかな!?」


「領主だって人です!出来ることと出来ないことがあるんです!これは出来ないことに分類されます!」


「寧ろカザン君が説明するべきだよね!?口にしたノーラちゃんは妹さんで、問い詰めてくるレーアさんはお母さんでしょ!?」


「こういう問題はさっきも言ったように、第三者からやんわりと逸らして伝えてもらった方がいいじゃないですか!」


「いや、言ってはないよね!?」


目で伝えてきたけど......ってか、かなり正確に伝わっていたみたいだ。


「でも伝わっていたじゃないですか!お願いしますよ!」


「俺には荷が重すぎる......やはり家族間でじっくりと話し合うべきじゃないかな?」


俺がそう言うとカザン君が苦虫を嚙み潰したような顔になる。

まぁ、お母さんに女装してセンザの街に潜入しましたとは言いにくい......よね?


「......しかし......。」


「それに......ネネアさんはカルナさんに会っているんだから、遅かれ早かれバレると思うよ?」


俺がそういうとカザン君が膝をつく。


「そう言えば、口止めも何もしていない......。」


「事情を話してちゃんとカザン君の口から言う方が、お母さんとしてもいいんじゃないかな?」


カザン君がショックを受けている間に畳み掛けてしまおう。


「それも早い方がいいと思うな。うっかりとノーラちゃんが口を滑らしそうだしね。」


「た......確かに。私から言う方が余計な誤解を生まないですね......。」


「うん。そもそも、手配書が出回っているから安全の為に普段とはかけ離れた格好をしていただけなんだ。別にカザン君の趣味ってわけじゃない。どちらかと言えば、うちの女性陣の悪ノリって感じなんだから、カザン君に悪い点はないよ。」


だからお母さんにはカザン君からしっかり説明しておいてください。


「そ......そうですよね?仕方のないことでしたし......あの時はあれが最適な行動だったはずです。」


......他の変装でも良かったのではないかと思うけど......まぁ、そういう風に自分を納得させておいてもらった方がいいね。

若干現実逃避を始めたカザン君をさらに乗せるべく口を開こうとした瞬間、扉がノックされた。


「はい?どちら様でしょうか?」


「お休み中の所申し訳ありません、ケイ様。レーアです。今よろしいでしょうか?」


「「......。」」


しまった!

お母さんが来てしまった!

カザン君はそれなりに前向きになり始めてはくれたが......まだ少し早い......というかここで話をするのはやめて頂きたい!


「......はい、どうしましたか?今、開けますね。」


俺がドアを開けると優しい微笑みを湛えたレーアさんが扉の前に立っていた。


「申し訳ありません、ケイ様。実は、先ほどの......あら?カザン貴方も来ていたのですね。」


「はい、母様。皆さんをお呼びしている最中でして......。」


「そうだったのね。ではケイさんも......?」


「はい、これからお爺様と話をしていただくつもりですので。」


「......それでは仕方ありませんね。ケイ様、カザン、後ほどお話しを聞かせてもらえますか?この家を離れてからどうしていたのかを。」


「承知いたしました。お爺様との話は少し長引くかもしれないので......明日になるかもしれませんが。」


「えぇ、大丈夫ですよ。それはまでは......ノーラと話でもしていることにします。」


「「......。」」


それは色々と拙い気がする......。


「では私はノーラの所に行こうと思います。カザンも皆様をお爺様の所にご案内しなければならないのでしょう?」


「は、はい。」


「ケイ様、お疲れだとは思いますが何卒宜しくお願い致します。それでは、失礼します。」


そう言ってレーアさんは部屋から出て行く。

残された俺達の間に静寂が広がる......。


「......いや、それはまずくない?」


「非常にまずいですね......しかし、ノーラには母と一緒にいてもらいたいのも事実......。」


「......ナレアさん達に一緒にいてもらうのはどうかな?お爺さん......セラン卿との話は俺とレギさんが行けば大丈夫じゃないかな?」


......まぁ俺よりもナレアさんとかリィリさんが行った方がいいかもしれないけど......ノーラちゃんとレーアさんの傍にいるなら女性である二人の方がいいだろう。

というか俺が行くのは藪蛇だ。


「そうですね......その方がノーラも喜ぶと思いますし、ノーラが色々と口を滑らしそうになっても上手く誘導してくれそうですね。」


「うん、でも......問題はあるんだ。」


「問題ですか......?」


「俺と......カザン君には深刻な問題だよ......。」


「それは一体......?」


「あの二人は......間違いなく悪ノリする。」


「......。」


「その結果は......うん、悲惨な結果にはならないだろうけど......酷い目には合うだろうね......。」


見える......俺とカザン君が冷や汗をだらだらと流す向こうで、にやにやとこちらを見ている悪魔が二人......。


「それ......根本的に解決しないじゃないですか!?」


「そうかもしれないけど......調整はしてくれるはずだから......取り返しのつかない事態にはならないはずだよ......。」


即死は避けてられるはずだ......致命傷ぎりぎりくらいまでは追い込まれるかもしれないけど......ノーラちゃん一人だと即死させられる可能性があるからね......。


「わ......わかりました。ナレアさんとリィリさんにノーラの事をお願いしてきます。お爺様の所に向かうのはレギさんとケイさんにお願いしたいと思います。」


「了解、じゃぁ俺はレギさんの所に行って話を通しておくよ。ナレアさん達に話をしたら迎えに来てくれるかな?」


「承知しました。それではまた後程。」


カザン君と別れてレギさんの部屋へと向かう。

と言ってもレギさんの部屋は俺の隣なので向かうと言うほどの距離でもないのだけど。

俺は扉の前に立ちノックをすると、すぐにレギさんから返事があった。


「ケイです。レギさん今大丈夫ですか?」


「あぁ、入ってくれ。」


レギさんの招きに応じて俺は扉を開けて部屋に入る。

俺が用意してもらった部屋と寸分の違いもない部屋は、客間としては立派過ぎると思うのだけど......貴族の屋敷と言うのはこういう物なのだろうか?


「レギさん。今カザン君が来まして、お爺さんとの話が終わったそうです。」


「そうか。」


「次は僕達と話がしたいそうなので、後でカザン君が迎えに来ます。」


「了解だ。今後どうなるかは......セラン卿次第って感じか?」


レギさんは少し思案するように顎に手を添える。


「僕としてはカザン君の力になってあげるつもりですが......。」


「そうだな、俺も中途半端な感じにはしたくないと思っているが......関われるかどうかは、わからんな。」


一応エルファン卿と話をする前は俺達の事を頼りにしているって話はしてくれていたけど、当初俺達が考えていたものとは状況が結構違う。

カザン君の味方になる人が結構いる......というか組織だっている感じなので俺達の助けは必要ないかもしれない。

そのこと自体は喜ばしいことだけど、この先俺達がどう動くかは、セラン卿と......カザン君次第って感じかな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る