第383話 とりあえず仲直り?
何か、妙に疲れた様子のナレアさんが薪拾いから帰って来た。
どうしたのだろうかと思って声を掛けてみたが、物凄い目で睨まれて引き下がってしまった......。
保留されている事に対して自信が無くなって来た......そもそもなぜ保留なのだろうか......いや、いつまで保留......?
そんな風に悶々としているとリィリさんに呼ばれ、ナレアさんが少し離れた位置に移動していく。
二人で何やら話しているようだが......こういう時は聴覚強化を消しておく。
プライバシーは大事だ......。
少しだけ何を話しているのか気になる......なんかちらちらナレアさんが俺の方を見ている気がするし......。
俺はよこしまな考えを振り払う様にレギさんに話しかける。
「レギさんは魔道国に行ったことあるのですよね?」
「おう。と言っても護衛仕事でついて行っただけだしな。そんなに詳しくはないぜ?」
俺の質問にレギさんが軽く笑いながら答える。
俺は以前話を聞いた時の事を思い出しながら質問を続けた。
「確か王都が凄い発展しているとか?」
「まぁな、凄い街並みだぜ?だがまぁ......その辺の話は着いてからのお楽しみにしておいた方がいいんじゃねぇか?どうせ王都には行くだろ?」
「そうですね。神域がどこにあるか分かりませんけど、早めに見つかったとしても王都には行ってみたいです。」
レギさんの言う発展した街並みっていうのにはすごく興味がある。
「まぁ魔道国の案内はナレアに任せるのがいいだろうな。出身地らしいしな。」
「......そぉですね。」
「......そう言えば最近なんかお前らおかしいな?何かあったのか?」
自分でも分かるくらいのぎこちない返答に、レギさんが真剣な表情をしながら聞いてくる。
「いや......まぁ、何かあったかと聞かれると......無かったとは言いづらいような......。」
「はっきりしねぇな。何か問題があるなら早めに解決しとけよ?言ってくれりゃあ力になれることもあるだろうし、遠慮なく言ってくれ。」
「......ありがとうございます。」
俺はレギさんの心遣いにお礼を言う。
......ただ、レギさんはちょっとこの手の問題は得意ではないと思わないでもない。
なにせ数年間一緒に居たヘイルさんとエリアさん......昔のレギさんの仲間であり幼馴染でもあるお二人の仲に全く気付けなかったらしいし......。
三人で組んでいて、それに気付けないって......ある?
と言う訳で、男女関係の問題についてレギさんに頼ることは......まぁ、万策尽きた後に一縷の望みをかけて......みたいな感じになるかも知れない。
いや、失礼過ぎるか......。
そんなことを考えていたら、ナレアさん達の話が終わったのかこちらに向かってくるのが見えた。
既に野営の準備は終わっているので、そろそろご飯を作る頃合いだけど......俺はお風呂の準備でもするかな。
街道沿いではないけど、遠目から見て不自然じゃないくらいの丘を作ってその中にお風呂場を作るとしよう。
「あー、ケイよ。」
近づいて来たナレアさんから声を掛けられる。
ナレアさんから声を掛けてくるのはいつ振りだろうか?
思わず固まったしまったが......早く返事をしないと。
「えっと......はい、どうしました?」
「う、うむ。その、あれじゃな?そろそろ魔道国じゃな?」
「あ、はい。そうみたいですね。」
「「......。」」
ぎ、ぎこちない......!
そんな俺達のやり取りをみてリィリさんが肩を震わせているけど......ちょっと今はそっとしておいて頂きたい。
いや、違うか。
リィリさんがナレアさんと話してから声を掛けて来てくれたのだから、この状況はリィリさんのお陰か......ちょっと疎んでしまってすみません。
......というか、俺からも話しかけないと。
「えっと、目的の街はまだ遠いのでしょうか?」
「ん......そ、そうじゃな。ここからじゃともう少し北の方に向かわねばならぬ......妾達の移動速度であれば二日もあれば恐らく辿り着くじゃろうが。」
「それは結構まだ距離がありますね。」
シャル達の早さで二日かかる距離となると都市国家から龍王国の王都くらいまでいけるのではないだろうか?
まぁ、ナレアさんが言っているのは一直線に行くわけじゃなく、間で休みを入れたりどこかに寄ったりを入れた時間だと思うけど。
「うむ、そうじゃな。あー、ところで今日の風呂なのじゃが......。」
「あ、はい。今から作るつもりですけど。」
「そ、そうか。あー良ければ、あの果物を浮かべる奴にしてくれぬかのう?」
果物......あぁ、龍王国の森で作った柑橘系のお風呂か。
「あ、わかりました。あはは、結構気に入ってくれたのですね。」
「うむ。あの時も絶賛したと思ったがのう。」
「そうでしたね。分かりました。じゃぁ、種を持って行って今日はあのお風呂にしますね。」
「楽しみにしておるのじゃ。」
そう言ってナレアさんが、若干のぎこちなさはあるけど笑ってくれた。
うん、俺も少しぎこちなかったと思うし、お相子か......とりあえず、久しぶりに話せただけでも満足しておこう。
さて、折角のリクエストだから張り切ってお風呂を作るとしよう。
俺は荷物の中にある種を手に取って少し離れた位置に移動していく。
とりあえず丘から作らないとな。
果物の木も周りに埋めて育てておくか。
俺は頭の中で構想を練りながら野営地から離れていく。
視界の端でナレアさんの方に駆け寄っていくリィリさんの姿が見えた。
どんな話をしてくれたかは分かりませんが、リィリさんありがとうございます。
お陰様で久しぶりにナレアさんと話すことが出来ました。
このお礼は必ず......。
リィリさんへの感謝の念を抱きながら俺は歩みを進める。
「お主は何を言っておるのじゃ!一緒に入る訳がないじゃろ!」
ナレアさんの絶叫が聞こえた。
「これから妾達が向かうのは水門の街と呼ばれておる街じゃ。魔道国にある北の大河、その上流に位置する街で支流からの流入、流出量の管理をしておる。また治水について学びたい各国の技術者が学びに来る地でもあり、王都からは遠く離れておるが非常に栄えた街でもある。また過去の氾濫の影響で肥沃な大地が広がっており広大な農耕地にもなっておる。」
お風呂と晩御飯の時間も終わり、俺達はナレアさんからこれから行く街について教えてもらっている。
「東側は小さな山々が連なっており、そこからいくつもの支流が合流して大河となっておる。まぁ、山々といっても龍王国のように巨大な山がいくつもあるわけでは無いがの。山の方にもいくつか村や街はあるようじゃが、基本的に最上流の街と呼ばれておる。」
「やっぱりお魚かなぁ。」
もうリィリさんの頭の中には新鮮な魚しかいない様だ。
「ほほ。これからは川沿いを移動していくことになるからのう。魚には事欠かぬのじゃ。じゃがそれだけではないのじゃ。船による運搬能力の高さのお陰で様々な食材が集まっておる。かなり大きな街じゃからな、きっと色々な料理が楽しめると思うのじゃ。」
「よし!じゃぁ、そろそろ行こうか!」
「おい。」
ナレアさんの言葉を聞き、もう日も暮れたというのに出発しようとするリィリさん。
レギさんが突っ込みを入れるも全く意に介していない様子だったが、ナレアさんに落ち着くように言われて大人しくなるリィリさん。
「街には水路が張り巡らされておっての。街中での水運が発達しておる。後は水害がいつ起きてもいいように建物が高めに作られておる。二階に玄関がある建物もあったりするのう。」
「二階から出入りするのか?」
玄関が二階って外に出たら落ちる罠......?
「......何か妙なことを考えておりそうじゃが......外には階段があるからの?」
「「......あぁ。」」
俺とレギさんがハモるとナレアさんが呆れたような視線を向けてくる。
いや、だって......ねぇ?
俺とレギさんは顔を見合わせると曖昧な感じで笑った。
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