第384話 物騒な世界



「うわーこれは凄いね。」


「えぇ......予想以上です。」


俺とリィリさんが目の前の光景に唖然としながら呟く。

先日魔道国の国境を越えた俺達は、ナレアさんの先導に従い北の大河の上流にある街へと向かっていた。

街まであと少しといったところで小高い丘を登ったのだが、丘の向こうに広がっていたのは広大な穀倉地帯......そしてその先にあるのは今まで見た事無いくらいの巨大な規模の街。

そして予想をはるかに上回る巨大な河だった。

河には帆船がいくつも浮いており貿易が盛んな様子が見て取れる。

リィリさんがどれの事を凄いと言ったのかは分からないけど......まぁおそらく目に映った物全てだろう。

ナレアさんはこの街の事を知っていたみたいだし、レギさんは大河や魔道国の王都を知っているから左程驚いた様子は感じられないけど......王都はもっとすごいのだろうか?

この街はこの辺では最大の街らしいけど......正直この街だけで都市国家の三、四倍くらいの人口が居そうな広さだ。


「ほほ、驚いてくれたようで何よりじゃ。正直ここに来るまでは村ばかりじゃったからな。ここで初めて魔道国らしいところを見せられたかの?」


「いや、道中の村も魔道国の外の村よりかなり発展していましたよ?魔道具の明かりが夜道を照らしている村なんて初めて見ましたし。」


「ふむ、確かにあれはあれで魔道国らしい風景かもしれぬのう。」


そう......魔道国に入って最初に立ち寄った村には、道のわきに街灯が立っていたのだ。

街じゃないから街灯ではないのだろうかとか、しょうもないことを考えながら見ていたけど......そんなに新しい物ではないようで、しっかりと長い年月そこにあったのだろうなと言った感じだった。

グラニダの領都や都市国家の方でもそこまで街灯の数は多くなく、龍王国の王都でさえ、夜に出歩くのは自前の明かりが無いと危険だろうと言った感じなのに......魔道国は地方の村にさえ街灯が設置されているのだ。

これだけ魔道具が普及しているのであれば、確かに国主導で留学させて魔術を学んでもらいたいというのも頷ける話だ。

でも魔道具を広く普及させるには大量の魔晶石が絶対不可欠だしな......魔晶石の供給はダンジョン次第だ。

魔道国はかなり大きいみたいだからダンジョンも多いのかもしれないけど......他の国は自国での安定供給は難しそうだな。


「そろそろいくか?」


俺がいつも通り意識を別の場所に飛ばしていると、レギさんから声が掛かった。


「そうだねー色々楽しみだな。」


「とりあえず宿を探さねばのう、妾もあまり詳しくないのでな。」


「そうなんだ?じゃぁ街に着いたらそこからだね。」


街に向かって歩き出したナレアさん達の後を着いて行きながら、レギさんと会話を続ける。

前を歩く二人は二人で盛り上がっているしね。


「どのくらい滞在するつもりだ?」


「特に決めてはいませんけど......レギさんはギルドに行きますよね?」


「まぁ、そうだな。都市国家の方はもう完全にあの劇が広がっていてロクに仕事にならなかったしな。」


「小国家を抜けた時はあまり大きな街に寄りませんでしたしね。冒険者ギルドってある程度の規模の街にはあるのかと思っていましたけど......小国家の方には少ないのですかね?」


「あぁ。都市国家は一応街一つが独立しているからな。各街にギルドはあったが......小国家だとギルドの方も維持が大変みたいでな、主要な街にしかギルドはないんだ。」


なるほど......職員の人件費も馬鹿にならないだろうしな......。


「そういった地方は、離れた街から冒険者が派遣されるわけだが......対応が迅速とはならないからな......魔物が暴れたりすると被害が大きくなる傾向にあるんだ。」


「情報のやり取りが遅くなりがちですからね......そう言えば、僕が居た世界では、鳥を使って手紙を運ばせたりしていたらしいですよ?」


「鳥を......?大丈夫なのか?それ。」


「うーん、僕も詳しくは知りませんが、鳥の帰巣本能を使ったやり方だそうですけど......。」


「へぇ......色々考えるものだな。俺達でも出来るか?」


「どうでしょう......?魔物もいますし......道中で襲われて手紙を紛失する可能性は高そうですよね......。」


「いっそ魔物を調教して運ばせるのがいいかもな。」


魔物か......確かに賢い魔物は少なくないし、普通の鳥より頑丈だ。

手紙を運ばせるならその方が良いかもしれない。


「魔物って調教できるのですか?」


「あぁ。ほら、ワイアード卿が言っていただろ?魔物を軍で利用している国があるって。そういった魔物の調教を生業にしている奴らもいるんだ。まぁ、相当危険らしいが。」


「そうですよね......。」


軍用の魔物なんて基本的に戦闘で使われる類のものだろう。

荷運びや移動なんかは牛や馬をつかえばいいのだからね。

しかし、戦わせながら自軍は襲わないようにしないといけないし......どんな風に教え込ませるのか......。


「しかし、そう考えると......鳥系の魔物を調教して手紙を運ばせたりってのは、実用化されていてもおかしくないな。」


「なるほど......確かにそうですね。」


「一般人には無理な方法だろうがな。魔物の調教師なんて国に囲われるのが当然だろうし。」


「まぁ、そうでしょうねぇ......。」


魔物の調教なんて技術は他所の国に伝わっても何一つ良いことはないだろう。

いや、魔物の調教に限らず全ての技術は、他所の国に伝わっても自国の利益を損失するだけだ。

そう考えると、多くの留学生を受け入れ、自国の技術を他所の国に提供している魔道国はかなり異質な存在のように思う。

魔道国のトップは魔王らしいけど......恐ろし気な名前の響きに反して、その治世は他国のかなり先を進んでいるようだ。


「しかし、ナレアやアースが作っている遠距離通信用の魔道具が一般に普及したら、そういった地方の被害も減らせるだろうな。」


「派遣までの時間は半分以下で済むようになりますからね。ですが、そう言った利点もある反面、国家間での情報戦の激しさも一気に増すと思います。」


「国家間の戦いか......。」


「僕らの世界では遠距離で戦うのが基本ですからね......情報をかき集めて一気に叩くって感じです。」


「遠距離?弓はこっちの戦いでも使うぞ?」


「もっとずっと遠距離です。そうですね......ここからグラニダの領都を狙う感じでしょうか。」


「グラニダって......いや、流石に言いすぎだろ。ここから何日かかる距離だ?」


ここからグラニダまで......最短距離で行ったとして......何日くらいだろう?


「恐らく問題ないでしょうね。しかもその一撃で領都を消し飛ばせると思います。」


大陸間弾道ミサイルで狙うには寧ろ近すぎるくらいだと思う。

まぁ、どのくらい遠くまで狙えるのかよく知らないけど、大陸間弾道っていうくらいだから海を越えて届くのでしょう。

まぁ領都を一撃で消し飛ばせるかどうかは......多分問題ない筈だ。


「......冗談だろ?」


「残念ですが本気です。僕が元居た世界の戦争では、個人の武勇は何の役にも立ちません。個人では防ぐことはおろか、逃げる事すら出来ない速度と威力で彼方から攻撃が飛来してきますから......。」


「......恐ろしい世界だ。」


「この世界でも切っ掛けが生まれれば、百年程度でそんな時代が来てもおかしくはないですよ。ナレアさんはそういった技術の加速を危惧して、遠距離通信用の魔道具の扱いを慎重にしているって話をしていましたしね。」


「想像もつかねぇが......。」


「基本的な考え方は弓と一緒だと思いますよ?自分が傷つかない距離から一方的に相手を攻撃したいってことです。」


「一方的にって言ったって限度があるだろ......。」


「あはは、まぁ弓と同じであの世界では同じ射程の武器を相手も持っているわけで......撃てば撃ち返される、だから撃たない。そんな微妙な均衡で成り立つ世界です。」


「いや......破綻しているように感じるんだが......その理屈でケイのいた世界では戦争が無くなったのか?」


「普通にやり合ってますね。」


「意味が分からねぇ......。」


「僕もそう思います。」


......ところでなんで新しい街にこれから行こうって時にこんな話しているのだっけ?

俺とレギさんはナレアさん達の後ろを歩きながら物騒な話を続けた。


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