第390話 船上の戦い
甲板にいた乗客から悲鳴があがり、船員さん達は慌ただしく動き始める。
激突音もしたし、間違いなく何かがぶつかったと思うのだけど......座礁とかではないよね?
河は相当深いって聞いているけど......。
俺は手すりから顔を出し河を覗き込む。
船は停止せずに進み続けているし、座礁してしまったわけではなさそうだけど......。
その時何か大きな魚影のようなものとすれ違ったように見えた。
もしかして先程の鳥を逆に襲った魚の魔物だろうか?
魔物とぶつかっちゃったとかかな?
そう考えていると船を再び衝撃が襲った。
河を覗き込んでいたせいで危うく落ちそうになる。
「ケイ!身を乗り出すのは危険じゃ!」
「す、すみません!」
この状況で船から身を乗り出すって、怒られて当然だな......。
俺がバツの悪い思いをしていると甲板の反対側から悲鳴があがる。
声に釣られてそちらを見ると甲板に巨大な魚の魔物が立っていた。
......。
魚が立っているのである。
「あれは......なんですか?」
「魔物じゃな。」
『あれはシェルフィッシュです。』
俺の疑問にナレアさんとシャルが答えてくれるけど......違う、俺が聞きたいのはそうじゃない。
「魚が立っていますけど。」
腹びれと尻びれで垂直に立っているのだ......全体的にカサゴみたいに刺々した感じだけど......毒とかありそうだ。
「魔物じゃからな。」
魔物だったら立てるのか......。
後、肺呼吸なのだろうか?
「いや、落ち着いている場合じゃないですよね!?」
「うむ、じゃがまだ妾達の出る幕では無いからのう。」
ナレアさんがそう言うと同時に槍を持った船員さんが三名で魔物を囲む。
他の船員さんに先導されて甲板にいた乗客が船の中へと逃げ込んでいくと同時に、追加のシェルフィッシュが甲板へと飛び込んでくる。
乗客の悲鳴が大きくなり我先にと船の中に戻ろうとしているが、入り口で渋滞が起きていて避難が進んでいない。
槍を持った船員が何人か新しく出て来たけど......最初に囲んでいた一匹を相手にしている三人はまだ攻めあぐねている感じだ。
そうこうしている内にさらに追加の魚が甲板へと上がってくる。
「流石にまずくないですか?」
「そうじゃな......ちと数が多すぎる。」
シェルフィッシュという名の通り、随分と硬い魚のようだ。
さっきから船員さんが槍で突いても全然傷をつけることが出来ていないにも拘らず、魔物の数だけが増えていく。
既に甲板の上には四匹の魔物が飛び乗ってきている。
「上級冒険者のレギ=ロイグラントだ!俺が魔物の相手をする!」
俺達とは離れた位置にいたレギさんが名乗りを上げ、傍にいた傍にいたシェルフィッシュに斬りかかる。
いつもの斧は流石に持っていなかったようで、街歩きの時にいつも腰に下げている予備の剣を使っている。
レギさんが名乗りを上げると同時に、レギさんの傍にいたリィリさんも剣を抜いてレギさんとは別の魔物に飛び掛かった。
上級冒険者の名乗りを聞いて船員さん達が顔を輝かせる。
槍を持った船員さん達は必死に攻撃を続けているけど、やはり効果的なダメージを与えられていなかったので、レギさんの参戦は地獄に仏と言った感じだろう。
「ほほ、二人に任せておけば問題ないとは思うが......妾達も少しは働いておくかの?」
「とりあえずは大丈夫そうですけど......って、また増えましたね。多過ぎませんか?」
「まぁ、魚の群れと考えれば多いとは思わぬが。キリがないのう。」
ナレアさんが魔力弾を撃って上がって来た直後の魚を河へと落とす。
俺も続けて魔物を処理しようとしたのだがナレアさんに手で押しとどめられる。
「ケイ、待つのじゃ。人目があることを忘れてはならぬのじゃぞ?」
「あ、はい。そうでした。ありがとうございます。」
そうだった......今は俺達以外にも人が多くいる。
迂闊に魔法をバンバン使うわけにはいかないだろう。
......そう言えば身内以外の人が魔物と戦っている所を見るのは初めてな気がする。
船員さん達は体格も良く非常に強そうだったけど......シェルフィッシュに有効打は与えられていないみたいだ。
っていうか......どうしよう。
俺は人前でどうやって魔物と戦えば......?
俺が悩んでいる間にナレアさんは魔物に魔力弾を連続して撃って、次々と河へと叩き落している。
レギさんやリィリさんはシェルフィッシュを叩き斬っているけど......俺は腰に差しているナイフを見る。
普通の魚ならともかくあの大きさの魚を解体するには少々......いや、刃渡りがかなり足りない。
普段であればナイフを伸ばすところだけど......この魔道具は魔法を使った魔道具だ。
残念ながら衆人環視の中で使うのはちょっと危険だろう。
特にここは魔道国......魔道具最先端の国だ。
そんなところで未知の魔道具を使って目立つのは得策ではない。
となると強化魔法で魔物を素手で殴り飛ばす......いやいや、どう考えても目立つ。
ナレアさんも近接格闘ではなく、一般的な魔道具で戦っているのはそういう事だろう。
まぁ、魚らしく滑っとしている感じがするので、触りたくないだけの可能性も否めないけど......。
それはともかく、俺の方だ。
現在魔物に襲われている乗客は見た感じいない。
相変わらず船内に降りる扉の前は詰まっているけど、魔物はレギさんや船員さん達に抑えられていてそこには近づけないでいる。
俺が戦わなくても大丈夫かもしれないけど......レギさん達はともかく船員さん達はそこまで余裕がありそうな感じはしない。
今も追加で魔物が甲板に飛び乗ってきている以上、いつ均衡が崩れてもおかしくないだろう。
人手は多いに越したことはない。
しかし、弱体魔法もまずいよね......?
触れもせずに魔物を動けなくするなんて......いや、待てよ?
いつものように完全に動けなくするのではなく、船員さん達が相手をしている魔物を少しだけ弱体化させるのはどうだろうか?
それなら問題なく船員さん達でも魔物を処理できるだろう。
でも問題もある。
弱体魔法でこっそりと弱らせるのはいいけど、それで自信をつけて俺達が居ない時に今日と同じ感覚で魔物と戦った場合、大怪我をする可能性があるよね......。
そう考えるとほんの少しだけ弱体させるくらいに留めた方が良いかもしれないけど......それで意味があるだろうか......?
幻惑魔法、天地魔法もダメだ......どう考えても滅茶苦茶目立つ方法しか思い浮かばない......。
甲板の上で皆が戦闘を続ける中、すっかり足と思考が止まってしまった俺の足元に船員さんの使っていた槍が弾き飛ばされてきた。
「しまった!」
「下がれ!二人で抑えるから、早く武器を!」
「すまん!」
船員さん達の叫びが聞こえて来た方に目を向けると、手を抑えながら戦線を離脱する一人とその開いた穴をカバーするように動く二人の船員さんがいた。
これならいけるか?
俺は足元に落ちている槍を拾うと船員さん達の元に駆け込む。
「加勢します!」
声を上げながら二人の船員さんの邪魔にならない様にシェルフィッシュの左側から接敵すると、その勢いのまま手にした槍をねじ込むようにシェルフィッシュへと突き刺す。
弱体魔法を使ったので硬い鱗を貫いて槍が刺さった。
今までにないダメージを受けたシェルフィッシュは、尾びれを使って俺を打ち払おうとしてくる。
槍を引き抜きながら後ろに下がると、俺の攻撃を見た船員さんがシェルフィッシュの退路を塞ぐように立ち位置を変えた。
お陰で俺のいる側から攻撃がしやすくなる。
槍を構え直した俺はエラに槍を突き込み、続けざまに眼球を貫く!
槍ってちゃんと練習したことないから使い方は無茶苦茶かもしれないけど......弱体、強化魔法によるごり押しだ。
多少不自然かもしれないけど、他の魔法で戦うよりは目立たないだろう。
もう少しレギさんから槍の使い方を聞いておけばよかったかな......。
そんなことを考えながら槍を引き抜くと、支えを失ったシェルフィッシュが倒れた。
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