第317話 目指すは西
仙狐様に加護を貰ってから数日。
俺達は神域で仙狐様の眷属達と幻惑魔法の練習をしながら過ごした。
爪牙の三人だけではなく、霧狐さんや他の眷属達とも手合わせをして、その中でどうやって幻惑魔法を使って行けばいいかを試行錯誤していった。
お陰で実戦形式で魔法を試すことが出来、魔法技術の向上は中々の物だと自負している。
とは言え......思考の高速化や並列思考を駆使しても、あまり複雑な幻惑魔法を俺は使うことは出来なかったけど。
......まぁ、爪牙の三人よりは上手に使えるかな?
俺の事はさて置き......ナレアさんの方は凄かった。
この数日で霧狐さんも舌を巻くほどの成長を見せたナレアさんは......天地魔法という攻撃手段もあり、かなり手の付けられない強さになっている気がする。
もしかしたら仙狐様がナレアさんを眷族に誘ったのは、幻惑魔法との相性の良さを感じたからかな?
まぁ、俺もナレアさんはなんとなく幻惑魔法と相性が良さそうだと思っていたけど......予想以上だと思う。
因みにナレアさんとは模擬戦をしていない......というかナレアさんから模擬戦をしない様に避けられている。
恐らく幻惑魔法を使った戦闘に慣熟してから俺をぶっ飛ばそうとしているのだと思う。
最近ナレアさんとの模擬戦の戦績は六対四で俺がやや優勢って感じだったから......ここで一気にひっくり返すつもりなのだろう。
幻惑魔法の練習をしていた最初の頃は色々とお互いアイディアを出し合っていたのだが、ある時を境に急にそう言った話をしなくなったことから考えても、切り札的な物を編み出しているのかもしれない。
正直神域にいる間に一度くらいは模擬戦を挑まれると思っていたのだけど......ナレアさんはそのつもりはなかったようだ。
と言うのも俺達は今日仙狐様の神域を出て西へと向かう。
まずはカザン君達のいるグラニダに向かうわけだけど......まぁ、三日もあれば辿り着ける。
グラニダでは状況次第だけど少しゆっくりさせてもらって......それから龍王国、母さんの神域に顔を出してって感じかな?
出来れば俺がレギさんと出会ったあの街にも行っておきたい所だね。
『神子様。本当にありがとうございました。』
『皆様のお陰で技術を磨く大切さを知ることが出来ました。』
『次にお目にかかる時までに、更なる研鑽を積んでおきたいと思います。』
結界の傍まで爪牙の三人が見送りに来てくれていた。
この三人とは模擬戦の回数がダントツで多いこともあり、かなり打ち解けることが出来たと思う。
「おう。見送りに来てくれたのか?」
『レギ殿!度重なるご指導本当にありがとうございます!』
『レギ殿のおっしゃられる慎重さを絶対に忘れない様に精進いたします!』
『もうしばらく御教示頂きたかったのですが......遠き地よりご健勝を祈っております。』
レギさんめちゃくちゃ慕われているよね......。
まぁ、あの三人に戦闘の心得のようなものを教えていたし......師匠的に思われているのかもね。
実際、レギさんがあの三人の面倒を見るようになってからちょっと手強くなったんだよね......連携というか......お互いのフォローが上手くなったって感じかな?
恐らくレギさんが常々口にしている、慎重に、冷静にって言うのを心掛けるようにして視野が広くなったって感じじゃないかな?
魔術に関しても俺達と色々と意見を言い合うことでかなり上達したと思う。
『神子様。』
そんな三人とレギさんの様子を見ていると、傍らにいた霧狐さんが声を掛けて来た。
「霧狐さん。お世話になりました。」
俺が頭を下げると霧狐さんはかぶりを振る。
『仙狐様に命じられてことですのでお気になさらず。』
いつものように霧狐さんはそう言うけど......仙狐様の性格を考えると......『世話を頼む』の一言くらいしか霧狐さんには言っていないのではないだろうか?
初日の模擬戦については仙狐様の指示だったと思うけど、それ以降もずっと俺達の相手や幻惑魔法の指導をしてくれていた。
それがあったからこそ、幻惑魔法をある程度使えるレベルまで持ってくることが出来たと思う。
『神子様。仙狐様より伝言を預かっております......他の神獣によろしく頼む。足を止めるな。以上となります。』
他の神獣の方への伝言はともかく、足を止めるな......か。
仙狐様らしいシンプルさだ。
足を止めるなと言うのが魔法の研鑽の事なのか、俺の目的の事なのか......それとももっと別の事なのか分からないけど......うん、全てにおいて突き進んで行けばいいよね。
「ありがとうございます。」
お礼を言うと一度頷いた霧狐さんは俺から離れ、ナレアさんの方に近づいていく。
ナレアさんが幻惑魔法を使えるようになってから本当に仲がいいな......あの二人は。
まぁ、別れの挨拶だろうし邪魔をするつもりはない。
リィリさんは......レギさんの横で爪牙の三人と話をしているようだね。
うちの子達は......特に誰かと話すわけでもなくこちらを見ている。
結局グルフは外で同格の魔物と戦うことはなく、神域で仙狐様の眷属相手に何度も模擬戦を行っていた。
当然グルフは魔法を使えないので勝率はあまり高いとは言えない感じだったけど、仙狐様の眷属も下位の方達は爪牙の三人と同じかそれ以下の実力だったので、そこそこいい勝負だったように思う。
ファラは下位の方々じゃ相手にならないくらい強かった。
流石に霧狐さん相手だと厳しかったけど、中位の方々には結構な勝率だったと思う。
因みに、ファラは若干幻惑魔法を使いたがっている節があったから加護を貰うか聞いてみたのだけど......俺の眷属として他の神獣様の加護を貰うわけにはいかないと固辞された。
まぁ本人がそう言うのだから、俺も別に推し進めるつもりはない。
それとマナスは......凄かった......。
爪牙の三人との試合の時は結局最後まで出番のなかったマナスだけど......その後の模擬戦では鬼神の如き強さを見せた。
分裂と幻惑魔法の解除というコンボは、仙狐様の眷属達を大いに震え上がらせたのだ。
恐らくシャルを除けば、霧狐さんと互角に戦えたのはマナスくらいだろう。
俺と一緒に居る時、マナスはサポートとしてあまり前に出なかったけど、いざマナスが一人で戦いだしたら......幻惑魔法の使い手としては絶望を感じる戦いっぷりだったと思う。
俺が皆の模擬戦を思い出していると、それぞれの挨拶が終わったのか皆がこちらに近づいてくるのが見えた。
「待たせたようじゃの。」
「いえ、大丈夫ですよ。そろそろ行きますか?」
「うむ。」
「あぁ。」
「いいよー。」
俺は見送りに来てくれた眷属の皆に頭を下げる。
「お世話になりました。色々用事が済んだらまた訪問させてもらいたいと思います。今日まで、ありがとうございました。」
お礼を言うと皆が伏せの状態になる。
傅かれる感じはあまり好きじゃないけど、これも立場上仕方ないことだろう。
俺自身は欠片も偉くはないけど......これは俺の後ろにいる母さんに対する物だと納得しておく。
俺は皆に手を振ってから結界の外に進む。
この先の通路は巨木地帯に繋がっているらしい。
地上に出てしまえば後はグラニダに向かって一直線だ。
今までお世話になった人たちに挨拶をしながら西を目指すつもりだし、のんびりと行こうか。
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