7章 西への旅路
第318話 お土産
「活気あるねー。」
「うむ。見事な物じゃな。」
今、俺達はグラニダ領都のメインストリートを歩いている。
カザン君の凱旋パレードが行われた通りだ。
俺達がグラニダを発ってから一か月と少々といった所だと思うけど、リィリさん達の言う様に街は物凄い活気に包まれている。
俺達が領都を発った時はまだ食糧事情も完全には改善されておらず、徐々に活気を取り戻そうとしているって感じだったが......今のこの賑わいは都市国家にも勝るとも劣らない。
「グラニダは領内だけで経済活動を回せるほどに領土が広いからのう。正常に動き出したら回復も早いのじゃろうな。」
「なるほど......。」
俺はお上りさんのごとく辺りを見渡しながら相槌を打つ。
一度は冷え込んだ活気がわずかな時間でここまで回復するのはカザン君達の努力もさることながら、領都に......グラニダに住む人たちが一丸となって頑張った成果なのだろう。
しかし領都のこの様子を見ると、本当にグラニダの外との違いを感じる。
やせた土地に廃村......あの厳重に監視されている領境の内と外ではこんなにも世界が違う。
東方の地に......グラニダ以外の場所には知り合いもいなければ別段愛着もない。
正直荒んでいるなぁ、くらいの感想しかなかったけど......この違いは、グラニダの外の人達からしたら憎悪の対象となるのだろうね......身勝手な事だとは思うけど。
まぁ、羨むのは分かる気がするけど......それで戦争を吹っかけて奪おうとするのは......いや、外の人達からすればそれしか手段がないのだろう。
農耕をしようにも、土地は瘦せているし......今まさに食料が無い状況で開墾からやる余裕なんてないのだろうしね。
「結果、奪おうと襲い掛かってくる......か。」
「食料、そして何より水を奪い合う戦いは、古今東西絶えることなく続けられてきたからのう。」
俺の呟きにナレアさんがこちらを見ながら言う。
「なんだ?またケイは悩んでるのか?」
レギさんもナレアさんの言葉が聞こえたのか苦笑しながらこちらを見る。
「いえ、そう言うわけでは無いですよ。流石に見知らぬ人達の事を心配するほど慈愛に満ちているつもりはありません。ただ、改めて外との違いを感じまして。」
セラン卿のいたセンザの街、それに領都......どちらも最初に来た時は東の地で見た他所の街に比べれば活気はあったけど、どこか頼りなさみたいなものを感じた。
政情の不安定さやそれに伴う不安が蔓延していたのだと思う......誰だって先行きが不安な時に元気いっぱいと言う訳にはいかないよね。
でもカザン君達が政権を取り戻して、そういった不安を払拭したことで恐らく本来の......いや冷え込んでいた分、本来以上の活気で賑わっているのが今の領都なのだろう。
「歴代の領主やその周りで頑張っていた者達のお陰じゃな。いくらカザンやセラン卿達が必死に頑張ったとしても、短時間でこんな風に活気を取り戻すことは不可能じゃからな。」
「まぁ、今は祭りみたいな所もあるよな。この熱気が収まってからが本当の姿ってところだろうよ。」
「そうだねー、でも食べ物の値段とかもかなり安くなったみたいだし。大丈夫じゃないかな?」
リィリさんが店先に並ぶ食材や出店の料理を見ながら......いや、いつの間にか手にしていた焼き串を食べながらこれは一時的なものでは無いと言う。
......まぁ、俺が気にすることじゃないか。
カザン君に助けを求められたのなら別だけど......恐らくそういった、外交等のことでカザン君が俺達に助けを求めてくることはないだろうしね。
レギさん達の軽い感じも、そう思っているからだろう。
余計な事......って言うとアレだけど、俺達が気軽に首を突っ込んでいい話ではないという事だ。
「それにしても......ノーラちゃんにお土産を用意できなかったのがなぁ......。」
「そうですね......カザン君......というかグラニダの領主様には魔物の分布とか調べた物を渡せますけど......個人的な物は......微妙な味の果物とかですかね......?」
「うーん、私は嫌いじゃないけど......ちょっとノーラちゃん達にあげるのには向いてないかなぁ。」
強烈にすっぱかったり、青臭い感じの甘味だったり、口触りがとても刺々していたりと......一癖も二癖もあるような味わいの物しか見つからなかったからなぁ。
「ほほ。妾はノーラを楽しませられるものを手に入れておるからのう。」
楽しませるって多分幻惑魔法の事だよね......?
隠し芸って言うと不敬だと思うけど......うん、幻惑魔法はノーラちゃんが目を輝かせて喜んでくれるだろうな。
「うーん、ナレアちゃんはそれがあるけどなー、私も何かないかな......まぁ、グラニダについてから考えても遅いんだけどさー。」
リィリさんが頭を悩ませているけど......確かに領都に戻ってきてからじゃ遅すぎるよね。
俺は......幻惑魔法......はダメだな。
ナレアさんがやるだろうし......でもなぁ、そもそも買い物出来るような場所は無かったしなぁ。
「確かにそうですけど......僕もなにも用意していないのですよねぇ。」
「ケイ君はナレアちゃんみたいに新しい魔法があるじゃない?」
「いや、ナレアさんの二番煎じになりますし......見せてあげるとは思いますけど......。」
「うー、やっぱりケイ君も何とかなりそうだなぁ......ってことは私とレギにぃだけかー。」
「ん?俺は用意してあるぞ?」
レギさんが若干得意げにリィリさんに言う。
......いつの間に?
って言うか何を用意したのだろうか?
「えー!レギにぃずるい!」
「いや、ずるいってこたぁねぇだろ......しっかり用意しておかなかったお前が悪い。」
「そうだけど......やっぱりずるい。」
なんかリィリさんが駄々っ子みたいになっているな。
それだけノーラちゃんの事が可愛くて仕方ないのだろうけど......。
「お土産になりそうなものずっと探していたんだけど......これと言ったもの見つけられなかったからなぁ......。」
リィリさんにとってお土産は食べられるものってイメージが強いってのもあると思うけど......俺は俺でお土産は買う物ってイメージが強かったからな......。
正直、ナレアさんが言うまでそういった感じのお土産というのは考えもしなかった。
「ところでレギにぃは何を用意したの?」
「黒土の森で見かけた魔物を何体か......。」
「捕まえて来たの!?」
「なんでだよ......そんな物騒なもの土産に出来るわけないだろ。木彫りだ木彫り。魔物と親しくなった眷属を形どったものをな。」
そう言ってレギさんが背嚢から手のひらサイズの木彫りの狐を出した。
......凄い上手いし......しかも......。
「うわー可愛い!レギにぃは相変わらず器用だよねー!」
「ほー、これは見事じゃな。妙に丸っこいというか可愛げがあるが......。」
うん......レギさんの彫った狐はデフォルメされていた。
これならノーラちゃんも喜ぶだろうけど......。
レギさんがこれを作ったのか......。
俺は夜な夜な木彫りの人形を作っているレギさんを想像する......。
「何か言いたそうだな?ケイ?」
「い、いや......あれですよ。いつの間に作ったのかなぁと思いまして......。」
「......まぁいいか。その辺は開いた時間とか寝る前や夜番の時にな。小さいものだから気づかなかったか?」
そう言えば寝る前とかに何やらごそごそやっていたような気はするけど......流石に覗き込むのはね?
見てはいけないことの可能性もあったし......なので見て見ぬふりをしていたのだけど......くっ、見ておけば俺も何か思いついていたかもしれなかったな。
「......レギにぃ、これ私にも作ってよ。」
「あ?なんでわざわざ......?」
「作ってよ。」
「いや、だから......。」
「作って。」
「......お、おぅ。」
迫力に押されたのか、レギさんが返事をすると物凄く嬉しそうにリィリさんが笑う。
凄くいい笑顔だと思うけど......ノーラちゃんの事はいいのかなぁ?
まぁ、ノーラちゃんだったらリィリさん達が会いに来ただけで滅茶苦茶喜ぶと思うけど。
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