第319話 インターホン



俺達がカザン君達の家......領主館の前に辿り着くと当然の事ながら門番の方に止められた。


「そこで立ち止まり下さい。ここは領主館、用が無いようなら立ち去っていただきたい。」


この門番の方は初めて見るな。

まぁ、例え顔見知りであったとしてもその対応で正しいと思うけど。


「申し訳ありません。私はレギ=ロイグラントと申します。こちらには用事があって伺ったのですが、御領主様かその御家族の方にお取次ぎいただけないでしょうか?」


レギさんが俺達の前に出て門番の方へ申し出る。


「......レギ=ロイグラント?」


一瞬俺達の風体を見て訝し気な表情を浮かべた門番さんだったが、すぐに驚いたような表情になり俺達の事を見回す。


「申し訳ありません、レギ様。失礼ですがお連れの方々のお名前を窺ってもよろしいでしょうか?」


「えぇ。彼はケイ=セレウス。それからリィリ=ヘミュスと......。」


「妾はナレアじゃ。」


レギさんに続けるようにナレアさんが名乗る。

......そう言えばナレアさんのファミリーネームって聞いたことなかったな。

まぁ聞いたところで特に何もないけど......リィリさんとかは知っていそうだね。


「ありがとうございます。皆様のお名前は御領主様より伺っておりますが......申し訳ありません。私では皆様が本人であると確認が出来ません。すぐに確認出来る者を呼んでまいりますので、お待ちいただけますでしょうか?」


「えぇ、勿論構いません。お手数おかけしますがよろしくお願いします。」


レギさんがそう答えると敬礼をした門番の方が門の内側にいる人に声を掛け、その人が館の方へ走っていった。

インターホンとか無いからなぁ......ここみたいに大きな屋敷だと相当不便そうだ。

俺達は邪魔にならない様に門の正面から移動して、俺達の事を知っている人が出てくるのを待つ。

しかし、カザン君は俺達の事を何と門番の人に言ってあるのだろうか?

物凄く緊張した面持ちで待たせていることに恐縮しまくっているみたいなんだけど......大丈夫かな?

門番さんの為にも早く来てくれると助かるけど......誰が来るのだろうか?

流石にカザン君が門まで出てくるとは思えないけど......ノーラちゃんも同様だけど、リィリさん達が来たって聞いたら止める人達を振り切って飛び出してきそうだ。

いや、名前だけで本人かどうかは分からない......その状態でノーラちゃんを接触させる程、領主館の警備は緩くないだろう。

いくらノーラちゃんが飛びだそうとしても全力で止める筈だ。

もしかしたら領都に入った時点で、トールキン衛士長辺りは把握している可能性はあるけど......。


「こういう大きな家の場合、来客への対応とかはどうするのですか?」


「どうする、と言うのは何を聞いておるのじゃ?」


俺がナレアさんに問いかけると当たり前のことを聞き返される。

そりゃそうだ、唐突にもほどがある。

そう思い俺が謝罪しようと口を開きかけたところで、ナレアさんがにやりと笑う。


「......まぁ西方であれば魔道具を使うのう。」


......俺は一体どうしたらいいのだろうか?

いや、これは俺が聞きたかったことに対する答えだろうしお礼を......おかしくない?


「なにもおかしくはないのじゃ。」


「......。」


俺はもう駄目かもしれない。

仙狐様並みに会話が成立しちゃってるし......。


「気にしなくていいのじゃ。」


「......気にしますよ。」


心を閉ざす魔法とかないかなぁ......。


「ほほ、あればいいのう。」


俺が両手で顔を抑えながらうずくまると、門番さんがぎょっとしたように身じろぎをした。

......不審な行動はよくないね。

俺は全力を持って足に力を入れて立ち上がる。


「それで先程の話の続きじゃが......。」


何のことは無いようにナレアさんが話を続ける。

正直、もうその話はどうでもいい気がします。


「普通はこのような場所に約束も無しに訪れる者はいないのじゃ。なので客人が到着したことを知らせる簡易な魔道具を使うのが当たり前じゃな。」


......なるほど。

そりゃ普通は約束とかするよね......。

だから来客を知らせる魔道具は単純なものでいいと。


「不意の来客、不審者等いくつかの分類分けはされておるのじゃが、合図の仕方でどういった者が来たか知らせる感じじゃな。じゃが今回の場合は、人が直接行かねば話が通しにくいと言う訳じゃ。」


「なるほど......ありがとうございます。」


「うむ。因みにケイのいた所ではどんな感じだったのじゃ?」


「えっとインターホンというものがありまして......。」


先程考えていたインターホンの事をナレアさんに説明する。

まぁ、外のボタンを押したら家の中で音が鳴って、カメラで外を伺いながら話が出来るってくらいしか言えることは無いけど......。

あ、遠隔で鍵や扉を開けられるってのもあるか。

以前から俺のいた世界の道具を魔道具で再現するために、ちょこちょこそう言った話をナレアさんは聞いて来ていたけど......幻惑魔法でこんな感じって見せたり出来そうだよね......もうちょっと練習を積めば......。

ナレアさんと喋りながらそんなことを考えていると、館の方から二人の人物がこちらに向かって来ているのが見えた。

一人は先程走っていった方で......もう一人は確か......レーアさんの侍女の......ネネアさん......だっけ?

何度か顔は合わせた事はあるけど、あまり会話する機会は無かったのでいまいち自信がない......。


「あ、ネネアさん!お久しぶりです!」


門を開けて出てきたネネアさんにリィリさんが満面の笑みで挨拶をする。

ネネアは俺達の顔を見て笑みを浮かべた後、綺麗なお辞儀をする。


「リィリ様、ナレア様、レギ様、ケイ様。門前でお待たせしたことを深くお詫びいたします。」


ネネアさんがそう言うと門番の方々も深々と頭を下げる。


「気にしなくて良いのじゃ。約束も無しに突然現れた妾達が悪いのじゃからな。寧ろ手間を取らせて悪かったのじゃ。」


「御厚情誠にありがとうございます。それではご案内させていただきます、皆様こちらへどうぞ。」


そう言ってネネアさんが先導して俺達を門の中へ招き入れてくれる。


「本日、カザン様は御公務で館を離れられておられます。日暮れ頃にはお戻りになる予定ですが......皆様の御来訪をお伝えしたら取り急ぎ戻ってこられるかもしれませんね。」


少し笑いながらネネアさんが教えてくれる。


「ほほ、礼を逸した訪問とは言え、流石に公務の邪魔までは出来ぬのじゃ。だからカザンには妾達が来たことは伝えないで欲しいのじゃ。」


「そうだねー、多分レーアさんも賛成してくれると思うけど......。」


「うむ。まぁ、最終判断はレーア殿に任せるとするのじゃ。それで良いかの?」


「承知いたしました。後ほどレーア様にお伺いいたします。」


言葉遣いは非常に丁寧なネネアさんだけど......ナレアさん達と同じように微妙に悪戯な笑みを浮かべている。

アレはカザン君驚く様が見たいって感じだろうな。

レーアさんもノーラちゃんもノリノリで参加しそうだ。

まぁ、勿論俺も参加するのだけど。

どんな風にびっくりさせるのが一番いいかと考えながらネネアさんについて行くと、突然館の二階の窓が勢いよく開け放たれた。

俺達が開け放たれた窓に注目していると、窓からぽーんと何かが飛び出した。

ってあれはノーラちゃん!?

二階の窓とは言え、天井が高いのでかなりの高さがある。

咄嗟の事だったが、俺達全員が駆け出した!

館までは距離があり過ぎる、いくらなんでもこのままでは間に合うはずがない......俺は全力で身体強化を掛けて地面を蹴った!

同時に思考速度も強化して、急激に上昇した身体能力に振り回されない様にしっかりと制御する。

際どいけど......これなら間に合う!

ノーラちゃんの落下地点に滑り込もうとして、いつの間にか俺の肩から飛び降りていたシャルが既にそこにいることに気付く。

シャルにぶつかる前に止まるか......それとも飛んでノーラちゃんを受け止めるか......。

思考の高速化によって一瞬にも満たない時間悩んでいると、シャルが身体の大きさを変化させつつ跳び上がりノーラちゃんを背中で受け止めた。

非常に鮮やかな救出劇だ......俺は速度を緩めシャルの落下位置を避ける。

音もなくシャルが地面へと降り立つと、その背中より少しだけ宙に浮いた状態のノーラちゃんと目が合った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る