第288話 考えていました



「......とか、そういう妙なことを考えておる顔じゃな。」


「......そ、そんなことないよぉ。」


魔法を使って掘った穴......というか部屋でリィリさんとナレアさんが喋っている。

ここに来るまでは少し様子がおかしい気がしたリィリさんだったけど。

今は普段通りの様子でナレアさんと話している。


「それに何か最後の方おかしくなかった?いや、確かにケイ君には感謝しているし思う所もあったけどさ!なんか吟遊詩人が歌う唄みたいになってたよ!」


「いやいや、決意を秘めた表情をしておったのじゃ。恐らく似たようなこと考えていたに違いないのじゃ。」


「......。」


リィリさんが若干顔を赤くしながらナレアさんから目を逸らす。

あの感じは、遠からず似たようなことを考えていたってことだろうね。


「それとレギ殿......気持ちは分かるが、少し心を落ち着けるのじゃ。」


部屋の隅で腕を組んでいたレギさんが、壁から背を離して気まずげに頭を掻く。


「すまねぇ......少し神経質だったな。」


「まぁ、レギ殿が神経質なのは今に始まったことでは無いがのう。まさかリィリまでとはの。」


ナレアさんがほほほと軽く笑い声を上げると、リィリさんとレギさんが眉をハの字に下げる。

レギさんもリィリさんも普段から物凄く頼りになるし冷静だから、二人そろって取り乱すっていうのは初めて見た......ような気がする。


「二人がお互いを......いや、ここにいる全員を大事に思っているのはよく理解しているつもりじゃ。じゃが、目はしっかりと開かんとな。」


「耳が痛てぇよ。」


レギさんが耳に指を突っ込みながら地面に座る。

しっかりと成形した部屋はリビングって感じの広さがあるのだけど......家具がないからな......キャンプ用のロッキングチェアみたいなの作れないだろうか......?

いや、そんな凝ったやつを作るのは無理だな。

なんか足をばってんにして布張った椅子ならいけるかな?

っと......そうだ。

俺はお風呂場を作らねば。

この前作った岩風呂は中々良かったが......懸念通り風景がいまいちだったんだよね......。

今回は地下だから風景はしかたないとして......水槽を作ってクラゲとか入れたら面白いかな?

クラゲがいないけど......。

......しかし水槽案は悪くない気がする。

森の中にあった川か湖から捕ってくれば......今から風呂場を作って魚を捕って......いやちょっと厳しいかな?

でも水槽を壁に埋めた風呂ってやってみたい......出来ればクラゲで。

ん......?


「クラゲってこの世界にもいるのかな?」


「いきなり何を言っておるのじゃ。」


「......。」


しまった......思わず口に出してしまったようだ。


「こちらは真剣な話をしておるというのにのう......。」


「す、すみません。」


真面目な話をしているところに突然のクラゲ発言はどう考えてもおかしい......。


「なんで突然クラゲ?」


すっかりいつもの調子を取り戻した様子のリィリさんが聞いてくる。


「いや、お風呂に使いたいなぁと思いまして。」


「クラゲをお風呂に入れるの?」


「茹でるのか?」


リィリさんとレギさんが小首をかしげながら聞いてくる。

リィリさんはともかく......レギさんは偶に愛嬌のある仕草をして......いや、深くは言うまい。


「いえ......お風呂に入れるわけでは。」


後お風呂くらいの温度じゃ茹であがらないと思います。

もしかしたらレギさんは沸騰させながらお風呂に入っているのかもしれないけど。

......そういえば昔のアニメで自分の入っているお風呂でゆで卵作っている人がいたっけ......。

しかし、クラゲをリィリさん達が知っていると言うことは、クラゲはちゃんといるみたいだね。


「装飾......って言うとあれですが......観賞用ですね。」


「吊るすのかの?」


「吊るすの?」


「吊るすのか?」


「そんな内装あります?」


そんな黒魔術的なインテリアは嫌だ......いや、クラゲの干物を作っている漁村かな?


「お風呂場は湿気があるから干物には向かないと思うけど......。」


リィリさんは既に食べる方向に進んでいったな。


「いや、食べませんよ。観賞用って言ったじゃないですか......壁に水槽を埋め込んでそこにクラゲを入れておくのですよ。結構和みますよ。」


やったことは無いけど......でも水族館とかで、クラゲの水槽とかを無心で見るの好きなんだよね。


「「......。」」


うん、皆が理解出来ないって顔をしながらこちらを見ている。

これは是非とも皆にクラゲの水槽を鑑賞して頂きたい......。

海に行けば......いや、確か淡水にもクラゲはいたはず。

湖とか川にもいるって聞いた覚えがある様な......?

ファラに聞いてみよう。


「壁に水槽埋め込んでどうやって見るの?」


「......えっと、どうやってとは?こう......普通にお風呂に浸かりながら眺めるのですけど......。」


「「......?」」


「......?」


なんか未だかつてないくらい意思の疎通が上手く行っていない気がするな......。

これはクラゲがどうこうって話じゃないような......壁に埋め込むってところか?


「壁に水槽を埋め込んでしまったらどうやって覗き込むのじゃ?しかも風呂に入りながらじゃろ?」


「......覗き込む?あぁ、なるほど。もしかして水槽って木とか陶器とかで出来ている物ですか?」


「木じゃと思うが......ケイの言う水槽は違うのかの?」


やっぱりか、水槽と言うよりも桶って感じみたいだね。

確かに木の桶が壁に埋め込まれていて、それを鑑賞って言われてもピンとこないのは当たり前だ。

というか桶しか見えない。


「えぇ、僕の言っていた水槽はガラス張りですね。」


「なるほど......ガラスで作った水槽か。ふむ、確かにそれであれば壁に埋め込んでも鑑賞出来るのう。じゃが、相当高額になるじゃろうなぁ。」


「でもガラスって割れちゃわない?」


「普通のクラゲなら大丈夫じゃないか?毒はあるが物理的な攻撃はそんなでもないだろ?」


「間違ってクラゲ型の魔物を入れたらご愁傷様だね。」


......そうかクラゲ型の魔物っているのか......。

間違えて入れちゃったら大変なことになりそうだ。


「小さなガラス細工ならともかく、窓に嵌めるような平らなガラスは高級品じゃからのう。しかも結構簡単に割れてしまうし、修理も不可能じゃ。ケイがどのくらいの大きさのガラスを求めておるか分からぬが、この程度の大きさでもいい値段じゃぞ。」


そう言ってナレアさんが小さめの羊皮紙を荷物から取り出す。

テスト用紙より小さいな......アレでも高いのか......。

確か水族館に行ったときにあのくらいの小窓のような水槽にクラゲがいたと思うけど......どうせならでっかい水槽にぷかぷか浮かんでもらいたいな......。

前面だけガラスにしたとして......一枚だけでも難しいかんじだろうか。


「値段の方はさておき......一枚物の大きなガラスって難しいですかね?」


俺は両手を広げてこれくらいと表現してみる。

途端にナレアさん達の目がとても優しい感じに変わる。

ちょっと子供っぽかっただろうか......。

若干恥ずかしさを覚えて俺は咳払いをして皆から視線を外す。


「......僕の身長くらいの大きさがあるといいですね。」


「そこまで大きなガラスとなると......魔道国でなら作ることが出来ると思うがのう。」


......ガラスを買うのに魔道国までいかないといけないのか。

しかも輸送するとなったら......絶対割れる......。

ガラスは無理か......。


「......流石に難しそうですね。何か他に透明な素材ってありますかね?」


ガラスの代替となるような素材......アクリルとかプラスチック?

......アクリルって何?

後透明なプラスチックってどういうこと?

プラスチックって白いのでは......?

そう言えば眼鏡のレンズもプラスチックなんだっけ?

......プラスチックって何?

もはや元の世界の素材の色々がファンタジー素材に思えてならない。

あの身の回りに溢れていた素材ってどう出来ているの?

錬金術とか魔法じゃないの?


「ふむ......ガラスの代わりのう......そもそもガラスが高級品じゃからのう。そうそう代替品は無いと思うが......魔法でどうにかできないかのう?」


「魔法ですか......樹脂とか......?いや、天然の樹脂って透明じゃなかったっけ......。」


氷だと水温が不味いことになりそうだし、風呂場の温度もな......。


「樹脂というと琥珀の類かの?あれは透明......というには少し色がついておると思うが。」


琥珀って樹脂の化石だっけ?

なんか虫が入っていると価値が高いとか、謎の査定基準があったような......。

とりあえず宝石をガラス代わりにするのは無理があるよね。

水槽は諦めるしかないか......。

とりあえず、檜風呂をイメージだけで作ってみるか。

檜ないけど。


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