第179話 認めぬ
ある程度聞きたいことが聞けたので、とりあえず兵士の人はもう一度気絶させて転がしてきた。
「リィリさん......グルフをあんな感じに使うのは......。」
「うん、ごめんね。時間をかけるのもなんだから、ちょっとグルフちゃんにお願いしたんだ。後でちゃんと謝っておくよ。」
「分かりました......本来僕が尋問していたのですから、何かしら手を講じないといけないのは僕でしたね......すみません。」
俺が謝るとリィリさんはパタパタと手を振る。
「マナスちゃんにお願いしてシチューをかき混ぜてもらってるけど、味見もしないといけないからね。」
おどけたように言うリィリさんだが......気を使ってもらっているのは間違いない......筈だ。
「それにしてもグルフを人前に出して良かったのでしょうか?」
「まぁこの辺は情勢が不安定だからな。西方とは違い討伐隊が組まれるってこともないだろうし、ここはまだ街から離れているようだから混乱が起こるってこともないだろうな。」
なるほど。
冒険者ギルドがあって、国としての機能がしっかりとしている龍王国以西と比べると東方では情報も広がりにくいってことか。
例え先ほどの兵士が訴え出ても、他の四人は見ていないし混乱して幻覚でも見たと言われて終わるかもしれないね。
「それにしてもきな臭いというか......もう既に事が起こった後か......。」
レギさんがテントの方を見ながら呟く。
そう、既に事が起こった後......彼らは部下の反乱によって家族を殺されたらしい。
幸い彼ら自身は反乱を起こしたのとは別の部下の手引きによって街の外に逃げることが出来たらしいのだが......懸賞金を掛けられ、それとは別に追手も放たれたらしい。
追手であり、先ほど俺と話していたグラニダの兵は偶々あの二人を見つけることが出来たので部隊を離れて五人で懸賞金目当てに追いかけてきたらしい。
統率も忠誠もあったものじゃないね......。
まぁ報告もせずに追いかけてきたのなら追手はすぐには来ないかもしれないけど......あまりのんびりとしていられる状況ではなさそうだね。
「今まで以上に......東方の現実を見た気がします。」
「そうだな。」
レギさんも難しい顔をしているが深刻な感じはしない。
いやレギさんだけじゃなく、リィリさんやナレアさんもそうだ。
皆東方に来るのは初めてだ。
戦争......と言う物自体は経験したことはないかもしれないが、似たような話は西方であってもあることなのかもしれない。
「とりあえず、あの二人が起きたらこれからどうするのか聞こうと思います。」
「関わるのか?」
「分かりません。彼ら自身の言葉は一言も聞いていませんし。」
「聞いたらきっと関わるのじゃ。」
「聞いちゃったらもう無理だろうねぇ。」
そんなことないですよ......と口に出したいところだけど......自信はない。
「......彼らを助けるために飛び出したのはナレアさんの方が先でしたよね?」
「いや、妾はケイが飛び出したのを見てから追いかけたのじゃ。」
一気に飛び掛かったから確実とは言えないけれど......俺の後ろにナレアさんはいなかったはずだ。
「......皆さんはどうするつもりなんですか?」
先程からずっと俺の意見ばかりを聞かれているようなので聞いてみた。
「聞くだろ。」
「聞くよ。」
「聞くに決まっておるのじゃ。」
「......。」
即答で話を聞くと皆が言う。
「話すかどうかは相手次第だが......助けてやったんだから事情位は問いただしてもいいだろう?」
「事情を聞いたからって絶対助けてあげなきゃいけないわけじゃないし、ケイ君も言っていたけど相手が助けを求めるか分からないよ。」
レギさんとリィリさんの言葉を聞きながら竈を設置した場所に戻ると、身体を伸ばしたマナスがシチューをかき混ぜていた。
中々シュールな光景だが、美味しいご飯を食べられるのだから文句は無い。
マナスにお礼を言ってお玉を受け取りシチューをかき混ぜる。
「あの子達の体力は回復してあげているんだよね?」
「えぇ、彼らが寝ているのは恐らく精神的な疲労のせいだと思います。」
「そっかー、じゃぁとりあえず先にご飯食べちゃおうか。」
リィリさんが木の器を用意しながら言ってくる。
俺はシチューを火から下ろして器に注いでいく。
ナレアさんは水を用意し、レギさんはテントの方を見ている。
「レギさん、どうしたんですか?」
「あぁ、いや......目が覚めているなら飯でもどうだ?今なら温めなおす手間もないからな。」
レギさんが声を上げると少年が体を起こす。
「手当をして頂き、ありがとうございます。」
身体を起こした少年は警戒した面持ちながら最初にお礼を言ってくる。
「気にするな、成り行きだ。それより、見た感じ碌に飯も食ってなかったんだろ?そっちの子の分もちゃんとあるから食っとけ。」
そう言ってレギさんが少年を火の傍に呼ぶ。
呼ばれた少年は一瞬逡巡するような様子を見せたが、立ち上がりゆっくりとこちらに近づいてくる。
俺は皆にシチューを配った後、最後に少年に手渡す。
「......ありがとうございます。」
「熱いから気を付けてね。」
左腕はまだ痛いだろうから大丈夫かと思ったが、少年は膝の上に器を載せて右手でスプーンを扱って食べていた。
左利きじゃなくてよかった。
シチューを一口食べた少年は、人心地が着いたのか深く呼吸をすると食事を再開する。
そんな様子を見た俺達も食事を始めた。
シチューを食べ終えた俺たちは食後のお茶をのんびりと楽しんでいた。
少年も大分警戒が薄れたのか落ち着いた様子でお茶を飲んでいるようだ。
見ている俺に気づいたのか少年と目が合う。
そこで少年がはっと気づいたように慌てた様子で立ち上がる。
「申し訳ありません、皆様。助けて頂いた上にお食事まで......何とお礼を申せばいいか......。」
「さっきも言ったが成り行きだから気にするな。」
「うん、そうだね。あ、でももし良かったら話を聞かせてくれないかな?私はリィリ、よろしくね!」
「名乗りもせず、重ね重ね申し訳ありません。私はカザン=グラニダ=ギダラルと申します。」
頭を下げながら自己紹介をするカザン君が頭を上げるのを待ってから俺たちは自己紹介を続けた。
「......なるほど、皆さんは人探しを。」
「うん、俺の母の知り合いをね。黒土の森って所の近くに住んでいる見たいなんだけど、知らない?」
「黒土の森......聞き覚えがあるような......。」
「本当!?」
カザン君の返答に思わず前のめりになってしまう。
「あ、すみません。ちょっと思い出せないのですが......初めて聞いた気がしなくて......思い出せたらお話します。」
「ありがとう、助かるよ。」
まさか予定していた場所に来ていきなり手がかりが掴めそうになるとは思わなかったな。
カザン君が思い出してくれればいいけど。
「......一瞬の事だったのであまりハッキリと見えてはいなかったのですが、私達を助けて下さったのは、ケイ様とナレア様でしたよね?」
「えぇ、ナレアさんが先に飛び出しましたね。」
「いや、ケイが先に飛び出したのじゃ。」
何故かナレアさんが先に飛び出したことを認めない......いや、俺も認めないけど。
お互い譲れない雰囲気を感じたのかカザン君が少し気後れしているような気もする......。
「えっと......私は事が終わってから見たのでその辺はちょっと分かりませんが......もしかしたら妹が見ていたかも......しれませんね?」
「あはは、そこまで必死じゃないけどね?」
「うむ、ケイが素直に認めればいいだけじゃからのう。」
「「......。」」
「まぁそっちの二人は放っておいてくれ。」
「は、はぁ。分かりました。」
「実は追いかけてきていた奴等を生け捕りにしててな、軽く話は聞いているんだが......もし良かったら話を聞かせてもらってもいいか?勿論話したくなければ話さなくていいからな。」
「......。」
牽制し合う俺たちを無視して話を続けるようだ。
いや、俺もそっちの話が気になるのですけどね?
カザン君は少し表情を強張らせながら、ゆっくりと口を開いた。
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