第439話 お断りします
「......承知いたしました。確かにナレア様のおっしゃる通り、御身を大衆の眼前に立たせるのは良くないと思われます。」
冒険者ギルドに到着した俺達は、以前ナレアさんと二人で来た時にも通された応接室に案内され、マルコスさんと面会をしていた。
因みに俺はフード付きのケープを使って顔を隠しながらギルドに行ったのだけど......意味は殆ど無かった。
殴り掛かられることは無かったけど、敵意の視線はかなり集中した。
レギさんは顔を隠している俺の事を訝しげに見ていたが、ギルドに近づくにつれて増える敵意の視線にはすぐに気付き警戒を見せていた。
まぁ、事情を軽く説明するとため息をついた後、俺に向けられる視線は無視することにしたようだったけど。
「うむ。そういう訳でギルドには迷惑をかけるが、うまく処理しておいてくれると助かるのじゃ。」
「畏まりました。しかし、ナレア様以外の方々はよろしいのですか?レギ殿にとってはさほどではないと思いますが、他の方々にとっては名声を得るいい機会だと思いますが。」
「いや、他の者達も妾との関係を考えるとの。それに珍しいとは思うが、あまり名声を必要としておらぬという事もある。」
ナレアさんがそう言うと俺の方を見るマルコスさん。
いや、関係ってそういうアレではないですよ?
仲間としてってやつですよ?
「そういう事でしたら何とかいたしましょう。上級冒険者が二人とも不参加と言うのは頭が痛い話ではありますが。」
「ほほ、すまぬのう。じゃが、今回妾達はボスの攻略も直接行ったわけでは無いし、他の冒険者たちをしっかりと讃えてやって欲しいのじゃ。お主も別に前に出るつもりはないのじゃろ?」
ナレアさんがそう言うと、マルコスさんは雰囲気を変える。
「まぁ、な。俺はギルド長として、今回攻略に参加した冒険者を労う側として出席する。」
「そうであるなら、妾達はただの祭りを見にきた一般人として参加するのじゃ。厄介事はお偉方に任せるとするのじゃ。」
「はっ......気楽なもんだな。」
「羨ましいじゃろ。」
ナレアさんがにやりとしながらマルコスさんに言うと、一度鼻を鳴らしたマルコスさんは椅子の背もたれに体を預ける。
「今後の予定は何かあるのか?」
「一応やることはあるが、暫くは王都にいると思うのじゃ。なにかあるのかの?」
「いや、祭りの開催までは後一月ほどあるしな。あまり一か所にじっとしている事を見たことが無かったから、どうするのかと思っただけだ。」
「ほほ。まぁ、レギ殿は依頼を受けにギルドに頻繁に顔を出すと思うのじゃ。」
「あぁ、そう言えば聞いているぜ。あまり人がやりたがらない様な依頼を受ける上級冒険者が来たって、職員の間で噂になっている。」
「そうですか......。」
レギさんが若干顔を顰めながら相槌を打つ。
マルコスさんは、そんなレギさんの様子を面白そうに見ているけど。
「あまり新人の仕事を奪わない様に気を付けているつもりでしたが、ご迷惑でしたか?」
「いや?そんなことはないぜ?常に依頼が出されているような仕事ばかりだしな。寧ろやってもらえて有難いってもんだ。最近の冒険者は派手な仕事ばかりやりたがるからな。」
ダンジョンばかりに行く元冒険者のギルド長もいるみたいですが......。
「まぁ、上級冒険者は一風変わった奴しかいないからな。多分に漏れず不屈もおかしな奴ってこったな。」
マルコスさんの物言いにレギさんが苦笑しながら答える。
「私は先日まで下級冒険者でしたからね。そう言った雑事をこなしている方が落ち着くのですよ。それに街での冒険者の本分はやはりそこに住む人達との健全な付き合いですし、率先してそう言った仕事を受けたいのですよ。」
「たった二人でダンジョンを攻略するような奴の台詞とは思えねぇな。だが、口だけじゃなく実践してやがるからな......恐ろしい奴だな。」
「ほほ。妾の知る冒険者の中で一番清廉な人物じゃな。どこぞの国の巫女よりよっぽどのう。」
ナレアさんが笑いながら言うけど......何処の国の巫女さんの話だろうか......。
「引退したらギルド長になるんだろ?」
「......その予定はありませんが。」
レギさんがギルド長......?
......意外と似合う......いや、かなり適任な気がするな。
「そこのナレアは間違いなく向いてないが、不屈はギルド長に向いているだろ。それなりにやりがいはあると思うが......?」
先代魔王として魔道国のトップにいたナレアさんなら十分過ぎる程出来ると思うけど......あぁ、違うか。
出来る出来ないじゃなくって向いている向いていないかって話か。
「私には組織や人を管理するようなことは出来ないと思いますよ。一介の冒険者が一番合っています。」
「冒険者からギルド長になる奴は皆そう言うんだ。ギルド職員からギルド長になる奴は結構喜んでなるんだがな。」
「まぁ、冒険者は冒険がしたいからなるものですしね。引退後に言われたのならいざ知らず、現役中に引退後の話をされても、快く了承する者はあまりいないのではないですか?」
「まぁ、そうだな。特に上級の連中はほぼ首を縦に振らないな。中級辺りで堅実な仕事をしてたような奴が声を掛けられることが多いか?」
「お主は堅実から程遠い活動しかしておらなかったじゃろ。なんでギルド長になったのじゃ?いや、寧ろどうやってなれたのじゃ?」
「そりゃ、俺を推薦した当時のギルド長に聞いてくれ。何度も断ったんだが......押し切られてな。」
眉をハの字にしながらマルコスさんが言う。
当時のギルド長は中々押しの強い人だったようだね。
「まぁ、不屈は苦労性の気があるからな。押し付けられない様に気を付けるこった。」
「肝に銘じておきます。」
レギさんが物凄く神妙な顔で頷く。
確かにレギさんだったら、いつかどこかの冒険者ギルドを押し付けられそうな気がする。
「まぁ、やりたくなったらいつでも言ってくれ。いい加減、後進に譲りたいしな。」
いつか、というか......今この瞬間に狙われているようだ。
レギさんはマルコスさんに愛想笑いを返すと立ち上がる。
「そこは上手い事後進を育てんとな。それも上に立つものの役目じゃ。」
レギさんに続いてナレアさんも立ち上がる。
その言葉を聞きマルコスさんがため息をつきながら沈痛そうに言う。
「その為に我の強くねぇ冒険者ってのを見つけたら、こうやって片っ端から粉をかけてんじゃねぇかよ。」
「ほほ。我の強くない冒険者ならもう一人ここにおるぞ?」
そう言ってナレアさんが俺に笑いかける。
「ほう?」
続いてマルコスさんがにやりとしながら俺を見る。
「いや、我は強い方です。」
俺はマルコスさんに向かって笑顔で言ってみるが......効果は薄そうだ。
俺はそのまま逃げる様に応接室を後にして......フードを被りなおすのを忘れ、ロビーで相当な数の冒険者に睨まればっちり顔を覚えられる羽目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます