第440話 連絡がきた
祭りへの不参加をマルコスさんに伝えてから数日、レギさんは相変わらず毎日ギルドに顔を出して仕事に勤しんでいる。
ナレアさんとリィリさんは......恐ろしいことにお城に遊びに行ったりしているようだ。
お城って遊ぶ場所なの......?
いや、観光とかで見ることのできる場所を回っているだけかもしれないけど......一般開放日ってのがあるらしいしね。
でもナレアさんがいるからな......普段......というか普通の人達は入ることが出来ないような場所まで案内されていそうだよね。
因みに、俺は俺でナレアさんと魔術研究所に顔を出したりしている。
この前の空を飛ぶアイディア以外にもいくつか元の世界にあった物の話を適当に話していたら、ヘッケラン所長にいたく気に入られてしまったのだ。
とは言え、俺がヘッケラン所長に伝えたアイディアは、扇風機と冷蔵庫と鉄道のアイディアだ。
全部アイディアだけで具体的な事は何も話していないし、鉄道に関しては線路とトロッコだけといった体たらくだ。
にもかかわらず物凄く興味深げに話を聞かれ、非常に感心されたのはとてもバツが悪い感じはした。
横で聞いているナレアさんは俺の事情を知ってはいるものの、やはりヘッケラン所長と同じように興味深そうにしていたが......この辺りの話は全部ナレアさんには話した事が無かったと気づいたのは、研究所を出てから拗ねた様な口調で文句を言われた時だ。
後、王城に行っていた二人から、ルーシエルさんが俺に会いたがっているという風なことを言われたのだが......まだ会いに行っていない。
今度、落ち着いて会いに行った方が良いとは思うのだけど......会う場所がお城というのに腰が引けてしまうのだ。
かと言って、ちょっとその辺の喫茶店でとはいかない相手なのも辛い。
っていうか呼びつけられるわけがない......みたいなことをナレアさんに言おうものなら、平気で宿の俺の部屋に呼びそうなので言ってはいない。
そんな風に過ごしていると俺達の元に連絡が二つ届いた。
一つは冒険者ギルドから祭りの開催日が決まったという連絡。
俺達は前に出ることは辞退しているけど、一応関係者という事でマルコスさんが早目に教えてくれたのだ。
開催日まではまだそこそこ時間があるのでそれまでは適当に過ごそうと話していた矢先に、もう一つの連絡が届いた。
連絡をくれたのはファラ。
妖猫様の神域を発見したと、連絡が来たのだ。
「大河の北側......河からは少し離れておるようじゃな。」
ファラの配下のネズミ君が伝えてくれた情報を聞きながら、地図を覗き込んでいるナレアさんが言う。
「そうですね......仙狐様は川に沿って行けばとおっしゃられていましたが、川沿いに移動していては魔道具の感知範囲には間違いなく入らないですね。」
「ファラちゃんは凄いねぇ。どうやってみつけたんだろ?」
「地道に虱潰しにしていったんじゃないのか?範囲が広すぎてどこまでが虱潰しなのか分からんが......。」
本当にどうやったのか分からないけど......頑張って見つけてくれたことには違いない。
どうやったかは今度聞くとして、いっぱい労ってあげようと思う。
「とりあえず、どうしますか?」
「どうする......というか、ケイはどうしたいのじゃ?」
「そうだな。ケイが決めるべきことだ。」
俺が皆に問いかけるとナレアさん達に自分で決めろと言われる。
......どうしようか。
魔道国の状況はかなり気になるけど......まだ調査に何も引っかかってはいないし......王都を開けてもいい気はする。
ただ、神域に入った後に外から連絡を取ることは無理だろう。
妖猫様との話がどのくらい時間が掛かるか分からないし......王都で何かがあった際、連絡が取れないのは困る。
かと言って絶対に檻とは関係ないという確証を得る事なんか不可能だし......それを理由に動かないというのもおかしな話だろう。
というか、そんなことを言っていたら誰も檻と関係なかった場合、永遠に王都から動けない。
......何か外から情報を得る手段があればいいのだけど......まだナレアさんも、神域の結界を越えて遠距離通信が出来るような魔道具は作ることが出来ていないし......。
そんな風に考えていた所、ナレアさんがニヤニヤしながらこちらを見ていることに気付いた。
......何か見落としているのだろうか?
ナレアさんの視線を受けて少し考えて......あぁ、そういうことか。
「......あー、神域に向かいたいと思うのですが、王都も気になるのですよね。どうしたらいいと思います?」
俺が決めろとは言われたけど、相談するなとは言われていない。
「そうじゃな......新しい神域は何があるか分からぬ以上、妾は全員で行くべきじゃと思う。」
「そうですよね......。」
メンバーを分けるのは俺も望まない。
下手したら、両方の場所で全員だったら対応できたかもしれないって状況に陥るかも知れない。
であれば最初から戦力を集中しておく方が良いだろう。
レギさん達は加護を貰うわけでは無いけど......居てくれた方が心強い。
「今までの神域で危険はなかったし、俺は分かれてもいいんじゃないかと思う。」
しかし、レギさんの意見は手分けをすることだった。
「最初に応龍様の神域に行った時、案内はあったがケイが一人で行っただろ?仙狐様の時は探索が必要だったから全員で行ったが、本来最初に行く時は俺達は行くべきではないんじゃないか?」
む......そう言われると......。
「セレウス様から使いを頼まれているのもケイだしな。それにナレアはともかく、俺やリィリは加護を貰う訳でもない。大勢で押しかけるよりは用事のある人間だけで行った方がいいだろ?」
「それは......そうかも知れませんが......。」
「それに何があるか分からないとナレアは言っていたが。ケイとナレア、それにシャル、マナス、ファラ、グルフ。この面子で対処できない様な事が起こったとして......そこに俺とリィリがいても大して変わらないと思うぞ?」
「......そんなことはありませんよ。レギさんやリィリさんが居てくれるとかなり心強いです。」
「うむ。何も魔法や身体能力だけが力ではあるまい。判断力や精神的な強さ、他にも様々な点で妾達は二人を非常に頼りにしておる。」
「......そう言ってくれるのは嬉しいがな。」
俺とナレアさんの言葉を受けてレギさんは少し困ったように笑い、リィリさんはいつも通りニコニコしている。
「はぁ......レギ殿、ケイもそうじゃが......謙遜し過ぎるのは悪徳じゃ。認めておる人間に見る目がないと言っておるようなものじゃぞ?」
「......すまん。」
何故か流れ弾が飛んできたけど......確かにナレアさんの言う通りかもしれない。
謙遜も過ぎると嫌味だってのはよく聞いたことのある言葉だけど......確かに凄いって褒めてくれていることに対して凄くないって言うのは......ある意味馬鹿にしているとも取れるよね。
「ほほ。とはいえ、レギ殿の言った前半部分は妾も同意するのじゃ。ケイの眷属達は当然全員いくじゃろうし......妾達は王都で留守番しておくのもいいかもしれぬ。」
「え?ナレアさんもこないのですか?」
「む?なんじゃ?一緒に行って欲しいのかの?」
そう言ってナレアさんがにやりと笑う。
俺はそんなナレアさんの事を真正面から見返して言う。
「えぇ。勿論一緒に居て欲しいですよ?」
「......。」
俺の視線を受けたナレアさんの視線が泳ぐ。
「ケイ君は一度腹が決まると動じないよねぇ......すっごくいいと思うけど......揶揄いがいはなくなっちゃったなぁ。」
リィリさんは俺の様子を見て一瞬不満そうにしたが、すぐにナレアさんの方を見てにんまりする。
「まぁ、その分ナレアちゃんが可愛くなったからいいかー。」
にひひと声を出して笑うリィリさんを不満そうに睨むナレアさんだが......少しだけ頬が赤い。
「ナレアさんが可愛いというのには同意しますが......ナレアさん。妖猫様の加護を貰うという理由もありますし、ナレアさんは一緒に来てくれませんか?」
「......ふぅ。そうじゃな。妾は加護を貰いたいし、ケイに同行するとしよう。加護を貰いたいからの!」
やや憮然とした表情ながらもナレアさんは一緒に来ることを同意してくれた。
「じゃぁ、僕とナレアさんは妖猫様の神域に、レギさんとリィリさんは王都をお願いします。」
「了解だ。」
俺の決定にレギさんが頷く。
まぁ......決定したのは俺だけど、案はレギさんが出してくれたから微妙な感じがしないでもないけどね。
って、連絡と言えば......。
「......そういえば、マナスは神域の中と外でも分体と意思の疎通は取れるのかな?」
俺がマナスに尋ねると任せろと言わんばかりにマナスが跳ねる。
「じゃぁ、マナスの分体を置いていくので、もし王都で何かあったらすぐに駆け付けるよう出来ると思います。」
「そりゃ助かるな。」
マナスが分体を出してレギさんの肩に登っていく。
よし、レギさんの方はシャルもファラもいないから念話は出来ないにしても、マナスであればうまく工夫してこちらの状況を伝えることも出来るだろう。
よし、準備を整えたら妖猫様の神域に向けて出発だ。
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