第441話 どっち?



「そう言えば、大河はどうやって渡りますか?」


俺は飛んでいるナレアさんに話しかける。

今回はレギさん達もいないのだし、ナレアさんはグルフに乗ってもいいと思うのだけど、何故かいつもと同じように走るシャルのすぐ横を飛んでいるのだ。

因みにグルフは後ろを一生懸命ついて来ている。

荷物が少ないのでいつもよりも速いペースだけど、しっかりと着いて来ているグルフは確かに昔に比べて成長しているようだね。


「ふむ。飛んでもいいし、泳いでもいいと思うが......天地魔法と幻惑魔法があれば何とでも出来るじゃろ?」


「まぁ、そうですね。ところでシャルって川の上を走れたりする?」


『はい、可能ですよ。』


走れるのか......やっぱり沈む前に次の一歩を踏み出せばいいってやつだろうか?


『ケイ様も天地魔法を使わずとも水の上に立てると思います。』


「走るのではなく......立てるの?強化魔法で?」


『はい。水の上に立つように足を強化すれば可能です。』


......どういう強化をしたら水の上に立てるのだろうか?


「想像がつかないのだけど。」


『水上に立つ事の出来る生物は少なくありません。彼らのように自身を強化すればたやすい事かと。』


......なる、ほど?

いや......ん?

例えばアメンボとか?

アレは確か足の毛に油が付いてるとかで浮くんだっけ?

でもあれは体が軽いからだよね?

弱体魔法で体を軽くすればいいのかな?

なんか習ったような......水より比重が小さければ浮くとかなんとか......密度がどうとか......。

うん、分らん。

魔法はイメージが出来ないと発動させられない物だし......中途半端に知識がある俺はシャルみたいには出来ないと思う。

半端な知識が可能性に蓋をしてしまっているというか......逆に良く知らないからこそ、ふわっと発動させることが出来ている魔法も結構ある。

とりあえず難しい事は考えずにやってみるのもありか。


「分かった。今度試してみるよ。お風呂とかで。」


大河でやったら大変なことになるかも知れないしね。


『その時はお手伝いいたします。』


「よろしくね。」


俺がそう言うと一瞬だけ顔をこちらに向けたシャルが頷いた。


「......つまり、走って大河を渡るってことかの?」


「あーいや、なんとなく気になっただけです。シャルは水の上を走ることが出来るみたいですが、グルフにはまだ無理でしょうし......凍らせるか土の橋を作るかしますよ。」


「ふむ。では妾はそれを誤魔化す感じじゃな。しかしケイよ、大河を凍らせるのはあまりよくないかもしれぬぞ?夜間であってもそれなりに往来があるからのう。」


「確かにそうですね......ぶつかったら大変なことになりますし......。」


「夜間はそれほど速度は出さぬとは言え、動いておる事に違いはないからのう。流石に大型船を見逃すことはないじゃろうが......大河は広いからのう小型船を見落とさぬとも限らぬ。」


「......そう考えると水上を走るほうがいい気がしてきました。でもそうなるとグルフが......。」


「なに、問題ないのじゃ。妾とケイがグルフに乗ればよい。シャルは一人で水上を走る、グルフはケイが宙に飛ばし、妾が幻影魔法で隠すのじゃ。」


ナレアさんがそう言った瞬間、ちらりとナレアさんの方を見たシャルが無言で加速していく。

しかし、ナレアさんもそれを予想していたのか、ぴたりと横に張り付いているかのように加速している。

勿論、グルフは突然の加速についてくることが出来ず、一瞬遅れたのだが慌てて加速してなんとか離されずに済んでいる。


「えっと......シャル?グルフが付いてこられなくなりそうだから、あまり加速するのは良くないかな?」


シャルは俺を背中に乗せることを絶対に譲らないから......ナレアさんの提案を聞いてちょっとへそを曲げたのだろう。


「えっと......僕がシャルに乗ったまま、シャルとグルフを浮かせるので、ナレアさんは二人を覆う様に幻惑魔法を掛けるって言うのはどうでしょか?」


「ケイは妾と二人でグルフの背に乗って移動するのが嫌なのかの?」


「そういうわけではありませんが......。」


『ケイ様。私は先程ケイ様がおっしゃられた案が一番効率的だと思います。一刻も早く神域に向かう為にもここは効率的に動くべきです。』


シャルがさらに加速しながら意見を言う。

早く行くことは賛成だけど、そろそろグルフがやばそうだからこれ以上速度はあげない方が良いと思うよ?

しかし、シャルの有無を言わせぬ威圧感に俺はコクコクと頷くことしか出来ない。

グルフ......ごめん。

俺はグルフに心の中で謝りながら振り返る。

しかし俺の予想を裏切る形で、グルフはしっかりと後ろをついて来ていた。

おぉ......本当にグルフは成長しているんだなぁ。

初めて会った時は白目を剥きそうな感じでシャルの後ろを走っていたというのに......今はあの時と比べ物にならないくらいの速度で走っているにもかかわらず問題なく着いて来ている。

シャルは速度を上げたけど......このくらいの速度ならグルフが付いてこられると分かっていたのか。

俺が視線を前に戻と地平線の先がキラキラと光っているのが見えた。

まだ距離は結構あるみたいだけど、どうやら大河が見えてきたみたいだね。

大河ってことはアレは地平線じゃなくって水平線?

って......今大河に着くのはまずいでしょ!?

どうやって大河を越えるか決めてない......しかし、俺が確認出来たということは当然二人にも見えたようで......。


「ふむ、大河が見えてきたようじゃな。」


『ケイ様。どのように大河を渡りますか?』


二人がこちらを見てくる。

うん......どうしようか。


『ケイ様。このまま河の上を駆け抜けましょうか?グルフはナレアに任せておけば適当に上手くやるでしょう。』


「いや、それは流石に......。」


「ケイ。大河も見えてきた事じゃし、そろそろグルフの方に移らぬかの?」


「いや、それもちょっと......。」


何故こんな状況に......?

もういっそのこと大河を凍らせようかな......いやいや、こんな真昼間にそんなことをしたら大惨事になりかねない。

流石に二人の案のどちらかを選ぶのがしんどいからと災害......いや人災か......そんなものを起こすわけにはいかない。

どうする、どうする、どうする......?

俺が内心冷や汗をだらだら流している間にも刻一刻と大河が近づいてくる......答えを早く出さないと!

俺はちらりと後ろを振り向く。

グルフは問題ないという様にシャルの後ろにぴったりと着いて来ている。

......く......グルフがしんどそうだったら止まってもらおうと思っていたのに......いや、グルフの成長は嬉しいのだけどね?

時間稼ぎは出来そうにない......俺は心の中で大きくため息をつきつつ方針を固める。

......ため息を外に漏らそうものなら二人から怒られるだろうことは想像に難くないからね。

俺は覚悟を決めて口を開く。


「いっそのこと皆バラバラに飛んで行きます?」


「『はぁ?』」


「......と言うのは冗談でして。」


今ナレアさんはおろか、シャルからも威圧交じりの「はぁ?」が飛んできた気がする。

こういう状況でどっちつかずの返事は死を招くという噂は本当だったみたいだ......。

助けてレギさ......んは、こういう時は全く頼りにならない......カザンく......んは間違いなく俺を見捨てる。

......クルストさんだったら!

きっとなんか余計な一言みたいなのを言って怒りの矛先を逸らす......スケープゴートになってくれる気がする!

助けて、クルストさん!

問題の解決にはならないけど!

視界に広がって来た大河を前に、俺は現実逃避をするしかなかった。


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