第442話 最後の神域



途中、なんだかんだと問題はあったけど......俺達は無事にファラと合流することが出来た。

ファラが俺達を待っていたのは何もない平地で、シャルがファラの事を感知出来なかったら待ち合わせには適さない事この上無い場所だった。


『お疲れ様です、ケイ様......大丈夫ですか?』


「あぁ、うん。ファラ、お疲れ様。大変だったでしょう?」


シャルから降りてファラに労いの言葉を掛けた俺は、一度背伸びをした後ファラの頭を撫でる。

っていうか大丈夫って......どういう意味ですかね?


『いえ、時間が掛かってしまい申し訳ありません。それと、ダンジョンは無事攻略が出来たようで、おめでとうございます。』


「うん、ありがとう。と言っても俺達は露払いをしていたくらいだし......ファラの部下の子達のお陰で犠牲者は出なかったし、本当に助かったよ。」


『ケイ様達だけであれば何一つ問題はなかったと思います。ですが他の人間にとっては生死を賭けたものになると予想出来ましたので、差し出がましいとは思いましたが配下に命じさせていただきました。』


そう言ってファラは頭を下げる。

多分、ダンジョン攻略の際に犠牲が出たりしたら俺が落ち込むと思って、配下のネズミ君達に命令しておいたのだと思う。


「いや、助かったよ。本当にありがとう。」


俺が再びお礼を言うとファラが軽く俺の撫でる指に頭を擦り付けた。


「ファラは凄い頑張ってくれたし、妖猫様にお会い出来たら後はゆっくり休んでね。」


『申し訳ありません、ケイ様。神域での用事が終わった後はそのまま情報網の構築をさせて頂きたいのです。今は王都を中心に配下の者達を使い少しずつ監視網を広げさせていますが、まだ十分とは言えません。大河の北側の情報網、それと南の大河の方は手付かずですのでそちらの方も。』


「......ファラは完全に魔道国を掌握するつもりじゃな。」


ファラの言葉を聞いたナレアさんが渇いた笑みを浮かべながら言う。


『申し訳ありません、ナレア様。檻の件を考えると手広く情報網を敷いておきたいのです。』


「ほほ、檻の事を懸念したのは妾じゃからな。気にせずに情報網を構築して欲しいのじゃ。それに魔道国の情報がケイに筒抜けでも妾は一向に構わんしのう。」


ナレアさんは笑っているけど......ルーシエルさんが聞いたら卒倒しそうな台詞だな。


「うーん、分かったよ。でも、何度も言うけど無理はしないでね?それと連絡を部下に任せきりにせずに偶には会いに来てね?」


『承知いたしました。ありがとうございます。』


まぁ、お礼を言うのはこちらなんだけどね?

俺は感謝を込めてファラの事を撫でた後立ち上がる。


「よし。じゃぁファラが一生懸命探してくれた妖猫様の神域にそろそろ行こうか。ファラ、神域はどこにあるのかな?」


『神域はすぐそこにあります。仙狐様よりお預かりしている魔道具を持って近づけば妖猫様の眷属が神域より出てきます。仙狐様がおっしゃられていたように空間魔法により封じられており、内側より招かれないと侵入は不可能とのことです。』


「なるほど......ファラはもう妖猫様の眷属の方に会っているんだよね?」


『はい。最初に神域に接近した際に向こうから声を掛けられました。複数の神獣様の使いであることを伝えさせていただいております。』


「そっか、じゃぁ早い所会いに行かないとだね。」


「承知いたしました。こちらにお願いします。」


ファラが先導して歩き出したので俺達はそれに着いて行く。

といっても一分程度歩いたところでファラは足を止める。

ファラが背中に背負っている魔道具が淡く光り、妖猫様の神域が近くにあることを教えてくれる。

見た目には何もない平原だけど......ここに妖猫様の神域があるのか......。

母さんがここに神域を作った場合、神域の隠しようがなかったかもしれないな......。

応龍様なら地形を変化させて......仙狐様なら幻惑魔法で好きなだけ隠せるだろう。

妖猫様の空間魔法は......どうやって隠しているの非常に気になるね。

そんなことを考えていると、俺達の前にシャルと同じくらいの大きさの......トラ?

いや、猫?

多分猫だな、物凄く大きい猫が現れた。


『そちらの方々が、神獣様方の使者でしょうか?』


「私がそうです。私はケイ=セレウス。神獣、天狼の神子です。また応龍様、仙狐様からも妖猫様への手紙を預かり、届けさせていただきました。」


『申し訳ありません。神子様であらせられましたか。私は妖猫様の眷属の青猫です。妖猫様より神域へと案内するように仰せつかっております。』


俺の挨拶を聞いて目を大きく見開いた青猫さんが頭を下げる。


「よろしくお願いします。それと最初にここを訪ねてきた者も含め、私の仲間も神域にお邪魔させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


『えぇ、構いません。最初に訪れた眷属の方より複数人で訪問されることは聞いておりましたので、妖猫様も既にご承知です。』


「ありがとうございます。」


俺がお礼を言うと青猫さんは少し雰囲気を柔らかくした気がする。

それにしても、何故青猫という名前なのだろうか?

青猫さんの毛並みは艶やかな灰色って感じだ。

どう見ても青ではない。


『ここから......と言っても見た目は何もない平原ですが、私のすぐ後ろから妖猫様の神域となっております。』


「こちらの結界は空間魔法が使われているのですか?」


『えぇ、そうです。妖猫様による空間魔法によって封じられておりますので、妖猫様御自身の空間魔法以外で破る事は不可能です。』


「実質絶対に破られることがない結界という事ですね。」


確か他の神獣様の神域も妖猫様の空間魔法による結界が張ってあるみたいだけど、ここ程強力な物では無かった。

恐らく妖猫様が全力で結界を張ると空間魔法を使えない他の神獣様では色々と問題があるのだろうね。


『そうなります。まぁ、私共が出入りする時に同時に侵入することは可能でしょうが、私達に気取られずに侵入することは不可能です。結界に開かれる穴も極小さなものですから。』


「なるほど......他の神域とは違い空間魔法で結界を張っているからこそ、このような平地であっても誰にも気づかれなかったという事ですね。」


『そうなります。結界については妖猫様にしか説明が出来ない物になっているので、もし興味がおありでしたら妖猫様へ直接聞いて頂けると助かります。』


「分かりました。お話が聞ける時を楽しみに待ちます。」


『妖猫様も、外から訪れる皆さんと話が出来ることをとても楽しみにしている様でした。是非色々と話をしていただけると私達も嬉しいです。』


「そうですね。他の神域を巡ってここに来ましたが、他の神獣様方も土産話を何よりも喜んでおられるようでした。妖猫様にも精一杯外の世界の話をさせて頂きたいと思っています。」


『よろしくお願いします。それでは皆様、神域へとご案内させていただきます。こちらへどうぞ。』


そう言って青猫さんが先導するように足を動かす。

その先が妖猫様の神域......その結界の穴があるのだろう。

俺達はゆっくりと歩き出す。

結界を越えた先は神域......妖猫様の神域だ。

この世界で会う四体目の......そして現存する最後の神獣様。

その加護によって使えるようになる魔法は空間魔法......。

母さんの神域で俺のスマホが妖猫様の空間魔法によって封印されているのを見た時、ちょっと思いついたことがある。

上手くいくかは分からないけど......空間魔法を使えるようになったら試してみる価値はある。

それと......母さんから頼まれている神獣様へのお使いもこれで終わりだ。

随分と時間が掛かった気はするけど......大陸をまたにかける大移動だけでも、一年でやれる内容ではなかったかね。

まぁ、皆のお陰ではあるけど......無事にお使いを終わらせることが出来そうで良かった。

それに空間魔法......どんなことが出来るようになるか分からないけど......物凄く楽しみだ。

まぁ、加護を貰う時はいつもワクワクしているけど......妖猫様の加護......ちゃんと貰えるよね?


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