第443話 妖猫



『いいよー?』


物凄く軽く許可を貰ってしまった。

誰に何の許可をもらったかと言うと......俺は目の前で寝転んでいる、小さな黒い猫......妖猫様を見る。

ほんの十数分前、俺達は青猫さんに妖猫様の元へと案内された。

挨拶もそこそこに俺の状況を軽く説明、母さんの事や応龍様、仙狐様の話をしてそれぞれの加護を頂いたことを話した。

そしてもし良ければ妖猫様の加護も......と俺が言ったところで、妖猫様の先程の台詞だ。


「ありがとうございます。それと、加護なのですが......。」


『はい、あげたよー。』


早いな!?

っていうか、またしても他の神獣様から聞いていた雰囲気と違う感じが......。


「あ、ありがとうございます。えっと......すみません、私以外にもう一人加護を頂きたいのですが......いいでしょうか?」


「あ、うん。いいよー。どの子かな?」


うーん、仙狐様とはまた違った感じで話が早いな。


「ナレアさん。」


俺が呼ぶとナレアさんが一歩前に進み出る。


「うむ。妖猫殿、加護を貰いたいというのは妾じゃ。ナレアと申す。」


『はいはい、ナレアちゃんねー。はい、加護はちゃんとあげたよー。でもなー、うーん。』


俺の時と同じように一瞬でナレアさんに加護をくれたみたいだけど、妖猫様がちょっと首を傾げている。


「妖猫様、ナレアさんがどうかしたのですか?」


『んー、ナレアちゃんはちょっと僕の加護とは相性がよくないかなー?ケイ君の方は、結構良さそうだけど。』


「む......それは残念じゃ。」


妖猫様の言葉にナレアさんが非常に残念と言った表情になる。


『全然使えないって程じゃないと思うけどー、自由自在って訳にはいかないねー。逆にケイ君は結構上手に使えそうだね。』


「そうなのですか?」


『まぁ、感覚的な物だけどねー。他の神獣も言ってなかった?』


ナレアさんが母さんに言われていたっけ。

加護を与える時に分かるから確認してみるといいって。


「聞いた覚えはあります......でも、僕は比較的どの神獣様の加護もそれなりに使えたみたいですが。」


『へぇ、神子とは言え、珍しいよねー。普通は苦手な魔法と得意な魔法がはっきりと分かれるものだけど......アレもこれもそれなりに相性が良いって言うのはあまり聞いたことがないなー。まぁ、二人とも頑張って上手く使える様になってね。』


「はい、ありがとうございます。」


「感謝するのじゃ。」


妖猫様がゴロゴロと転がりながら言う。

......なんか......物凄く猫っぽい。

いや、猫なんだろうけど......。

それにしても相性のいい加護が多いのは珍しいのか。


『うんうん、頑張ってねー。じゃぁ、話の続きを聞かせてもらってもいいかなー?他の神獣達の事とか外の世界の事とかの話をしてくれるんでしょ?』


「えぇ。承知しました。じゃぁ、まずは母の......天狼の話から......。」


まだ俺がこの世界に来た事情と加護を貰っているって話しかしていないからね。

俺は幻惑魔法を使いながら、今まで母さんや応龍様に見せてきたように色々な情報を映し出しながら説明していく。

話始めの頃は、ゴロゴロとしながら俺の話を聞いていた妖猫様だったが、次第に食い入るように俺の創った幻影を見るようになっていった。




『なるほどねー。天狼に神子が出来た事も驚いたけど、仙狐がそんな風に変わっているなんて面白いなー。会ってみたいけど......ちょっと難しなー。』


「やはり皆さん仙狐様の事をいいますね。」


『あはは!アレは本当に面倒な性格してたからねー、それがそんな風に変わったと聞いたら皆色々言うよ!天狼も随分変わったみたいだけど......丸くなった感じみたいだし、仙狐の方が面白そうだねー。』


尻尾をくねくねさせながら妖猫様が楽しそうに笑う。

そういえば応龍様の事は誰も言わないけど、あまり変わっていないのだろうか?

いや、全く変わっていないってことはないと思うけど。

ただ、母さんや仙狐様が劇的に......妖猫様はどうなのだろう?

物凄く真面目で責任感が強いって聞いていたけど、その辺はあまり伝わってこない......いや、それは失礼だな。

でものんびりした雰囲気というか......話している最中もゴロゴロと寝転がりながらだったし......猫っぽい雰囲気ではあるけど、母さん達から話を聞いて思っていた妖猫様のイメージとはちょっと違ったな。


「会う事は難しいかもしれませんが、その内話くらいは出来る様にしたいなぁと考えてます。」


『へぇ?それは面白そうだねー。』


「今の世には魔法を使わない魔道具があっての。今、神域の結界に邪魔されずに遠距離通信が出来る魔道具を研究中じゃ。」


『そんなのがあるんだねー。それって僕でも作れるかな?』


魔道具の話に興味を持ったらしい妖猫様がナレアさんに尋ねる。


「ふむ......素朴な疑問なのじゃが......物を書いたり出来るのじゃろうか?」


『んー?出来るよー。尻尾で。』


「尻尾じゃと線が太すぎるのぅ......ペンは使えぬかの?」


『あーうん。使えるよー尻尾にペンを括り付ける方法と、空間魔法でペンを持つ方法があるね。』


「空間魔法でペンを?」


ちょっと気になったので思わず声が出てしまった。


『そうそう。こんな感じでー。』


そう言って妖猫様は寝ころんだまま傍に落ちていた石を尻尾を使って投げると空中に止めた。

そしてその石を複雑な動きで小刻みに動かす。


「これは空間魔法で動かしているのですか?」


『そうだよー。結構コツがいるけどねー。』


妖猫様はゴロゴロしながら石を操り、地面に猫の絵を描いた。

しかもデフォルメされた猫ではなく、写実的な......地面に描いているとは思えないくらいリアルな猫の絵だ。

これなら複雑な魔術式を描くことは出来そうだけど......空間魔法でどうやって石を動かしているのだろうか?


『後で教えてあげるけど、色々な魔法を組み合わせてるんだ。慣れてきたらケイ君も出来るようになるかも?まぁ練習次第だけどねー。』


「精進したいと思います。」


俺がそう言うと妖猫様は寝転がりながら両手で顔を洗うようなしぐさをする。

そう言えば、まだ一度も妖猫様が立ち上がっている姿を見た事がない気がするな。


「これだけ細かい物が描けるのであれば魔術式を描くことも出来るじゃろうが......勉強してみるかの?」


妖猫様の描いた絵を見ながらナレアさんが言う。


『そうだねー、時間は腐るほどあるから......やってみようかな?』


妖猫様の作る魔道具か......魔晶石の問題はないだろうけど......インクと羊皮紙をどうやって得るかが問題のような気がする。


「ふむ......であれば、次に来る機会にでも教本と必要な機材を持ってくるのじゃ。流石に魔術を教えるのは時間が掛かるし、教師役を連れてくることも出来ぬからのう。」


『あはは、強化魔法でしっかり守りでもしない限り、神域に長居したらおかしくなっちゃうだろうしねー。のんびり勉強するから気にしないでよ。暇が潰せる趣味が出来るのは嬉しいねー。』


そう言いながら妖猫様が大きく口を開け、欠伸をしてから伸びをする。

なんというか......リラックスしきっているな......まぁ、ここは妖猫様の家みたいなものだし、当然と言えば当然かもしれないけど......。


「あ、妖猫様。お渡しするのが遅くなりましたが......こちらが他の神獣様からお預かりしている魔道具になります。」


そう言って俺は母さん達から預かっていた、手紙の代わりとなる魔道具を取り出した。

母さん、応龍様、仙狐様。

それぞれから預かっている魔道具を、妖猫様の傍にいた青猫が俺から受け取って運んでいく。


『あぁ、そんなの預かっていたんだっけ?じゃぁちょっと確認させてもらうねー。』


妖猫様は寝ころんだまま傍に置かれた魔道具を起動していく。

あれには念話が込められているんだっけ?

ファラに魔晶石を預けておけば母さん達みたいに出来るんじゃないかな?

神域を出たら聞いてみるか。

もし出来るのであれば、小さめの魔晶石を渡してボイスレコーダー代わりに使ってもらおう。

日々の報告には使わなくていいけど、何かあった時にファラが居なくても直接ファラの言葉で説明してもらう方がこちらも理解しやすいだろう。

幸いマナスが居れば初期化も出来るし、俺が魔力の補充も出来る。

どのくらいの魔晶石でどの程度の長さが録音できるか分からないけど......その辺は実験してみればいいだけだし、繰り返し使えて充電切れもしない......素晴らしい物になりそうだ。

惜しむらくは......一般には売り出せないことかな?

まぁ、お金は別に要らないけどさ。


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