第438話 祭りでの方針
『ケイ様がダンジョンに行くにあたり、ファラがせめてもの援護という事で配下に命じていました。部隊行動を命じられたファラの配下にしてみれば、ダンジョンの魔物如き鎧袖一触ですしね。』
シャルからとんでもない事実を知らされた......。
え?
あのダンジョンが比較的簡単に攻略出来たのはネズミ君達のお陰なの!?
「......ファラが居なくてもそんなに強いの?」
『ファラの配下は数が多いですからね。連携をしっかりとるので、本能のままに暴れるだけの魔物くらい造作もないでしょう。』
「な......なるほど。」
「どうした、ケイ?なんか顔が引きつっているみたいだが。」
「......えっと、実は......。」
俺はシャルから聞いた話を皆に伝えた。
ナレアさんとリィリさんは苦笑しているけど、レギさんはかなり渋い顔をしているな。
「確かに......攻略は上手くいったし、助かったとは思うが......あの場にいた冒険者はダンジョンの経験が浅い。普通の攻略があんなものだと勘違いしちまったらまずいな......。」
レギさんが自分の口元を掴むようにしながら言う。
「その辺はマルコスさんがしっかり釘を刺すと思いますが......。」
「......それもそうだな。明日会いに行った時にでもそれとなく確認しておくか。」
ギルドに顔を出す様に言われているからな。
前回もそうだったけど祭りには準備期間もあるし、運営するわけでは無いけど少なからず俺達も打ち合わせが必要だからね。
「まぁ、その方が良いじゃろうな。ところで祭りの件で伝えねばならぬ事があるのじゃが......攻略記念祭には妾は参加しないつもりじゃ。」
「そうなの?なんで?」
ナレアさんの宣言にリィリさんが首を傾げる。
「まぁ、元々の立場が立場じゃしな。目立たぬようにしておきたいのじゃ。」
「あーそっかぁ。攻略者としては参加しないってことだね?」
「うむ。祭り自体は楽しませてもらうのじゃ。」
「うんうん。じゃぁ私も前に出るのはやめておこうかな?この前うっかり魔道具落としちゃったし、ちょっと大人しくしておこうかな。」
ナレアさんに続いてリィリさんも不参加を表明する。
リィリさんはボスの攻撃を受けそうになった冒険者を助けた際、首から下げていたアンデッドとしての核をカモフラージュするための魔道具を落としてしまい、俺達がそれを指摘するまで気づかなかったのだ。
魔道具はすぐに回収出来たので特に問題はなかったと思うけど、人前に出て目立つことは自重するらしい。
二人とも理由がしっかりとあるのでレギさんも特に異論はないようだ。
「レギさん。僕達はどうしますか?断る理由も無いと言えば無いのですが......ナレアさんやリィリさんがあまり目立たない様にしたいという事でしたら、僕らも前に立たない方がいいのではないですか?」
というか......俺の場合、目立った方が良いのか目立たない方が良いのか分からない......。
流石にダンジョン攻略中に因縁をつけられることは無かったけど、攻略前はかなり厳しい視線にさらされていたしな......まぁ、帰りの野営時もみんな緊張から解放されたせいか、また厳しい視線は飛んできていた。
今回の場合、レギさんと二人でダンジョンを攻略したというような抑止力的な意味は殆どない。
であるならば、目立つのは避けたい......特に冒険者の方々に顔を覚えられたくない。
「そうだな......ケイの言う通り今回は全員不参加の方が良さそうだ。上級冒険者が二人とも祭りに顔を出さないのはギルドとしては嫌がるかも知れないが......その辺はどう言ったもんか。」
「そこは妾に任せて欲しいのじゃ。マルコスは旧知じゃからな。妾の事情も十分理解しておる。それに今回妾達はダンジョンの攻略を目的としておったわけではないからのう。真に攻略を志しておった者達こそ称賛を受ける資格があるのじゃ。不純な動機で参加した妾達が、上級冒険者という肩書だけで主役顔をするのはバツが悪かろう?」
ナレアさんがそう言うと皆が頷く。
上級冒険者と言う肩書が称賛を持って行ってしまう、か。
確かに今回の俺達は、ナレアさんやリィリさんの事情が無かったとしても前に立つ資格はなさそうだ。
「では、明日マルコスにはそのようにして辞退を告げるのじゃ。ところでシャル、ファラの方はどうなっておるかの?」
『......ファラは現在大河の南側にある港を制圧。現在は河口付近の探索をしている所です。』
「南側に妖猫様の神域はなかったのか......ファラにはだいぶ苦労させちゃっているなぁ。」
......ん?
っていうか、なんか最初に不穏な台詞が聞こえて来た気がするような。
「えっと......シャル。今港を制圧って言っていたけど......。」
『申し訳ありません。正確には港のある街、それと近隣の人里を制圧でした。』
いや、違う。
否定して欲しかったのはそこじゃない。
まぁ......制圧というか......情報網の構築って意味だと思うけどさ。
「魔道具の効果範囲が存外狭いからのう。見落としがあったら二度手間じゃし、ファラの事じゃから念入りに調査をしたはずじゃ。しかし下流の方は川幅もとてつもなく広いからのぅ......流石のファラも時間が掛かるようじゃな。」
「それでも凄い速度ですよね?」
「信じられない程、じゃな。本来であれば移動するだけでもっと時間が掛かるものじゃ。調査の時間を考えると、驚異的と言わざるをえんのう。」
「ファラには足を向けて寝られませんね......まぁ、今に始まったことではありませんけど。それにしてもちゃんと休憩してくれているのでしょうか......。」
「ファラは休むという事を知らぬように見えるからのう。無理はせぬと思うが......心配の様なら、会いに行くなりして強引に休ませるのも考えておいていいかものう。」
なるほど......確かに俺が会いに行けば強引に仕事を止めることが出来そうだな。
「でもファラちゃんが居なかったら今までも解決出来て無い事多いよね。」
「多いって言うか......殆ど......いや、全部じゃねぇか?応龍様の神域に辿り着いた件くらいじゃないか?ファラに頼らずに解決出来たのは。」
......龍王国の事件、遺跡の探索、仙狐様の神域探し、グラニダの事件......うん、ほぼ全部だね。
「そうですね......応龍様の件だけはファラが調べてくれたものではなく、ナレアさんの紹介でしたからね。」
「......まぁ、妾が紹介したものは外れだったようじゃが。」
「いや、あの......クレイドラゴンさんを外れって言わないであげて下さい。結果的にはナレアさんにヘネイさんとクレイドラゴンさんを紹介していただいたおかげで、無事応龍様の所に行けたわけですし。」
「ほほ、結果的に妾も本物の応龍に会って魔法を使えるようになったからのう。寧ろこちらが感謝しておるくらいじゃ。それはそうと、少しばかりファラに頼り切り過ぎな感じは否めぬのう......ファラが居ないと身動きが取れなくなっておる気がするのじゃ。」
ナレアさんの言葉を聞いてレギさんが苦い顔になる。
「一応頼り切りにならない様に情報収集は欠かさずにやってはしているんだが......情報収集能力に差があり過ぎてな。ファラが手に入れていない情報を手に入れた事がない。」
「そうだねぇ。御飯処の情報なら負けないんだけどねぇ。」
......御飯処の情報だったらファラと張り合えるのか......まぁ、ファラ達もお金を出してご飯を食しているわけじゃないからな。
残飯じゃ料理の味は分からないだろうし......まぁ、ファラ達は聞き込みも出来ないしね。
決め打ちで情報を収集できるリィリさんの方が、確実に欲しい情報を得られるからだろう。
この場合、無作為に情報を集めてリィリさんと張り合えるだけの情報を得ているファラが凄いのか、一つのジャンルとは言え、万単位の諜報員を配下に収めるファラに比肩するリィリさんが凄いのか......。
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