第437話 終わってからが本番
少しずつ、外周を守ってくれていた冒険者の方々がボスの居た広間に集まってくる。
様子を見る限り所々汚れてはいるけど、大きな怪我は無さそうだね。
「お前らもこっちに来てくれ!」
マルコスさんが俺達の方に声を掛けてくる。
呼ばれた俺達は話を中断してマルコスさん達が集まっている所に合流した。
その間も茂みの向こうから冒険者が数名こちらに合流して......これで今回ダンジョン攻略に参加した全員が集まったかな?
全員が集まったのを確認したマルコスさんが皆の前に立ち話を始める。
「まずは皆、ダンジョン攻略御苦労だった!王都の冒険者ギルドのギルド長として礼を言いたい!諸君らのお陰で無事にダンジョン攻略を終えることが出来た!諸君らの尽力には感謝の念しかない!」
マルコスさんが張りのある声で皆を労う。
その姿は先程まで長い時間ボスの正面を一人で受け持って戦い続けていた人とは思えない程、活力に満ちたものだ。
「ギルドは最大限、諸君の功績に対して報いたいと思っている。褒賞に関しては期待してくれていい!それに、恒例の攻略記念祭も近々行われる!勿論諸君らが主役だ!大いに騒ぎ、楽しみ、これから先の活力を養ってくれ!」
攻略記念祭って......やっぱりやるのか。
また人の前に立つ事になるのだろうか......まぁ、今回は人数が多いから前よりはマシかもしれないけど......でもなぁ......出来れば遠慮したい。
「そしてここからは、共にダンジョンを攻略した仲間としての言葉だ!皆、本当に良くやってくれた!お疲れさん!」
一瞬で雰囲気を気さくな感じに変えたマルコスさんが、改めて皆に労いの言葉を掛ける。
「小規模ダンジョンとは言え、ここまであっさりと攻略できるとは予想以上だった!連日の魔物との戦いとボスに至るまでの道の確保。そして、ボス戦とそれを邪魔させない為に尽力を尽くしてくれた全員の力が集まったからこそ、犠牲者無しと言う偉業を達成出来たと思う!」
犠牲者無しって言うのは偉業なのか......見ていた感じ、危なげな所は感じられなかったけど......。
「まぁ、俺が事前に調べた時よりも魔物の数が少なかったって言うのも要因の人ではあるがな!......そう考えるとお前達じゃなくても別に良かったか?」
マルコスさんがおどけて言うと冒険者達から笑い声が聞こえてくる。
それにしても魔物の数が少なかったのか......俺とレギさんが攻略したあの洞窟系のダンジョンよりもかなり魔物の遭遇数が多いから気づかなかったけど......。
まぁ、あのダンジョンは、ずっとリィリさんが暴れまわっていたから魔物が少なかっただけだと思うけど。
このダンジョンでも何かあったのだろうか?
リィリさんみたいな特殊なことはそうそう起こらないだろうけど......まぁ、攻略はもう終わってしまったし調べることは出来ないかな。
「とは言え、全員を無事に家に帰すことが出来るのは本当に嬉しく思っている!まぁ......分け前は減っちまうがな?」
中々不謹慎なことを言っているけど、皆は笑っている。
まぁ、犠牲が出なかったのだからこそ冗談になるのだろうけどね。
「ダンジョンを攻略したとはいえ、まだ森の中にいる事は変わりない!少し休憩を取った後、移動を開始する。その間の見張りは......。」
「見張りは私達がやりましょう。ボス攻略時はかなり楽をさせてもらっていましたからね。もう少し働いておかないと報酬を貰えないかもしれませんし。」
マルコスさんが見張りを誰かに頼む前にレギさんが名乗り出る。
確かにボス攻略班が決死の戦闘をしているのに俺達は随分と楽をさせてもらったから、率先して見張りに立つのに文句は無い。
レギさんの台詞でまた軽く笑いが起こり、マルコスさんも苦笑しながらレギさんに任せたと言う。
「上級冒険者二名を含む見張りだ!こんな豪華な見張りに守られることは早々ないぞ?たっぷり堪能しておけよ?」
俺達が再び四方にばらけていくと、背後からマルコスさんの声が聞こえて笑いが起こる。
暫くの間、俺達は休んでいる冒険者をしっかりと護衛して、その後体力を取り戻した皆と一緒に街への帰途へと着く。
帰るまでが冒険ってレギさんも言っていたけど......その言葉通り、道中も皆油断することなくしっかりと隊列を組みながら歩いていた。
この時俺はすっかり忘れていた。
王都に帰還する為には、馬車に乗らなくてはいけないことを。
「ようやく帰ってこられたな。」
「ほんと......そうですね......体がバッキバキです。」
俺はベッドに腰掛けながらレギさんに同意する。
ダンジョンを攻略してから馬車に揺られること数日、俺達は魔道国の王都に帰って来ていた。
因みにクルストさんとは王都に着いた時に分かれている。
まぁ、分かれたと言っても荷物を預けてある宿が俺達とは違ったというだけで、暫くは王都にいるらしく少ししたら俺達の居る宿に移るかもとは言っていた。
それはそうと、金輪際馬車には乗りたくないと不満を言い続けた日々がやっと終わってくれたのだ。
何度シャルに乗って帰りたいと言って皆に呆れられたか......シャルは嬉しそうだったけど。
まぁ、そんな苦行に堪え......やっとのことで戻って来た王都の宿のベッドは、とても優しく俺を迎え入れてくれた。
「ケイ君はいつまで経っても馬車に慣れないねぇ。」
「慣れる日が来るとは思えないのですが......。」
『大丈夫です、ケイ様。あのような物に慣れずとも、私がどこへでも丁寧にお連れいたします。』
「うん。ありがとう、シャル。これからもお世話になるよ。」
そう言って膝の上にいるシャルの事を撫でる。
シャルが膝の上で非常に気持ち良さそうに身をくねらせていたのだが、そんな様子をじっと見ていたナレアさんが口を開いた。
「シャルよ。そろそろ冒険者達の様子を聞かせてもらいたいのじゃが?」
そうだった。
旅から戻って早々に皆が俺の部屋に集まっているのは、ダンジョン攻略中にネズミ君達が監視していた冒険者の様子を報告してもらう為だ。
『......現在、ケイ様達を除くダンジョン攻略に参加した全ての冒険者に監視を着けています。ですが、ダンジョン攻略中に怪しい動きを見せた者はおらず、もし彼の組織の手の物がいるとすれば攻略が終わった今から動きを見せると考えられます。』
俺の膝の上から降りて背筋を伸ばしたシャルが報告をしてくれる。
「攻略中は怪しい行動を取る人物は見当たらなかったのか......。」
『はい。また、攻略のために乗り込んだ冒険者以外の人物がダンジョンに近づくことはありませんでした。したがって監視対象となっているのは攻略に参加した人物のみとなっております。』
「ありがとう。ネズミ君達には引き続きよろしくって伝えておいてくれるかな?」
『承知いたしました。』
シャルの報告を皆に伝えると、ナレアさんが少し考え込むように顎に手を当てた後口を開く。
「魔道具研究所や王城の方では特に動きはなかったかの?」
『どちらも特に動きを見せた人物はいませんでした。』
「どちらも動きなしか......何かあるとしたらこれからかな?」
俺の呟きに皆が頷く。
ダンジョンの攻略は相当大きなイベントみたいだしな......。
今回は小規模ダンジョンだけど、それでも相当なお金が動く話らしいし......。
「そう言えば......小規模ダンジョンとは言え、かなり楽な攻略だったってマルコスさんが言っていましたけど。」
「そうだな。普通ダンジョンの攻略にはもっと時間が掛かるはずだ。しかも犠牲者無しでだ。ギルド長が偉業と言っていたのは誇張でも何でもないぞ。」
「へぇ......何か要因があったのでしょうか?」
「森にしては魔物の数がそこまで多くなかったってのと......殆ど奇襲を受けることが無かったんじゃないか?森で一番怖いのは奇襲だからな。」
確かに......俺達の場合シャルが警戒してくれているから奇襲を受ける心配はなかったけど......他の冒険者の人達も奇襲でやられたって話は聞かなかったな。
『ダンジョンの魔物の数が少なかったのは、ファラの部下が魔物を間引いていたからですね。』
「......え?」
そんなことしてたの?
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