第436話 ボス討伐完了



ボスと戦い始めてかなりの時間が経った。

マルコスさん以外の人は四回は交代していると思うけど......マルコスさんは戦いっぱなしだ。

一番疲れるポジションだと思うけど......信じられない体力だな。

体力を回復させたり増強させる魔道具とかもあるのだろう......じゃないとこんな長い時間戦い続けられるはずがないよね?

周りを警戒している俺達は何度か魔物が現れたのを処理したくらいで、リィリさんが一度救援に入った以外はボス戦には全く手を出していない。

戦闘開始当初は、外から来る魔物とボスの方の戦いの両方をしっかり警戒していたのだけど......ボス戦の方は気は抜けないとは言え安定しているし、外から来る魔物は開けた場所に出てきた瞬間に発見出来る。

動きが速いのは空を飛んでいる蜂の魔物くらいなので、よほど気を抜いていない限り俺達が抜かれることはない。

まぁ、大量に魔物がなだれ込んできたら厳しいけど、それはこの三日間で散々間引きをしてあるし、外周を守っている人達が防いでくれる。

俺達が一番楽なポジションにいるんじゃないかなと思う。


「流石に暇とは言わないっスけど......手持ち無沙汰ではあるっスね。」


「まぁ、殆ど暇と言っていると思います。ところで、結構ボスも弱ってきているように見えますけど......。」


「そうっスね。恐らくギルド長達もそろそろ決めるつもりだと思うっスよ。休憩している連中が気合入れてる感じっス。」


確かに気合が入っている感じがするな......蜘蛛もかなり傷だらけになってきているし、リィリさんが斬り飛ばした以外にも足が何本か減っている。

動きも鈍っているようだし......確かにそろそろ終わりが見えてきたような気がする。

そう思いマルコスさんに視線を向けた瞬間だった。

蜘蛛の噛みつきをマルコスさんが盾で受け流し、そのまま体を横に一回転させて強烈な一撃を蜘蛛の顔に叩き込んだ!


「今だ!一気に畳み掛けるぞ!」


「「おう!」」


マルコスさんの号令に喊声を上げて一気呵成に出る冒険者達。

号令を出したマルコスさんも先程までの防御主体の動きから、豪快にメイスを振る攻撃的な動きに変わっている。

交代して休憩していた冒険者達も戦線に戻り、蜘蛛を囲んでガンガン攻撃に参加している。

八人に囲まれてぼっこぼこにされる蜘蛛には若干同情を覚えないでもないけど......まぁ、弱っているとは言え相手は巨大な魔物だ。

油断すれば大怪我......当たり所によっては死ぬこともあり得るだろう。

気を抜ける筈もないし、ましてや同情して攻撃の手を緩めるなんてありえないよね。

俺達の目の前で蜘蛛の魔物がどんどんと削られていき、動きが緩慢になっていく。

動きが緩慢になれば一層攻撃が激しくなり......うん、これはもう終わりが見えたね。

俺が勝利を確信して程なくして、マルコスさんの強烈な一撃が蜘蛛の頭に入り魔力の霧へと還した。

勝鬨を上げるマルコスさん達を見てホッとする。

無事に大きな怪我も無くダンジョンを攻略出来たみたいで本当に良かった。

俺がそんな風に気を抜いていると、以前レギさん達とダンジョンを攻略した時と同じようにダンジョンが震えるような感じがして、辺りに満ちていた魔神の魔力が渦を巻くように動いているのを感じた。


「おお......これがダンジョン攻略後の揺れっスか!」


クルストさんが驚いたように辺りを見渡すのを横目に、俺は思わずリィリさんの方に視線を飛ばした。

しかしあの時とは違い、リィリさんが魔力の霧に包まれているような様子はない。

よかった......大丈夫とは聞いていたけど、やっぱりちょっと気になってしまったんだよね。

かなり遠くにいるのに俺の視線に気づいたのか、リィリさんがこちらに軽く手を振って笑った後、レギさんの方に向かって歩いていく。

少し興奮した様子のクルストさんも、同じくレギさんの方に向かうみたいだね。

俺は......とりあえず、ナレアさんと合流しよう。


「シャル、警戒ありがとうね。おかげで森の中だったけど随分楽をさせて貰えたよ。」


ナレアさんの方に向かう前に、肩に掴まっていたシャルの頭を撫でながらお礼を言う。


『いえ、ケイ様の安全が最優先ですので。極力戦闘には手を出さない様にと言われている以上、このくらいはさせて頂きたいのです。』


キリっとした口調で答えながら、頭を撫でる俺の手に頭を擦り付ける様にして甘えてくるシャル。

その様子にほっこりした気分になるけど......俺は反対側の肩にいるマナスの方にも手を伸ばす。


「マナスもありがとうね。魔法が使えないと色々不便だったからマナスの手助けは凄く助かったよ。」


俺の手の中でむにむにと形を変えるマナスだが喜んでくれているようだ。

二人を撫でながら労っていると、ナレアさんがこちらに向かって来ているのに気付いた。

俺は止めていた足を動かしこちらからも近づいていく。


「お疲れ様です。無事に終わりましたね。」


「そうじゃな。まぁ、妾達は攻略が目的ではなかったが、無事に終わったのにはホッとしたのじゃ。」


「僕はボスが倒された瞬間リィリさんが気になりましたけど......何事も無かったみたいで本当に良かったです。」


「ほほ、御母堂から問題ないと言われておったようじゃし、本人は気にしていなかったようじゃがの。」


「まぁ、僕も母さんの事は信じていますけど......それでもやっぱりいざその時になったら緊張しませんか?」


「普通はそうじゃろうな。リィリはその辺少しおかしいと思うのじゃ。肝が据わり過ぎておるというか......。」


苦笑しながらレギさんと合流するリィリさんの方を見るナレアさん。

その眉が少し顰められるのを俺は見逃さなかった。


「どうしたのですか?」


「む?いや、大したことはないのじゃ。リィリが普段使っておる魔道具の効果が切れておるようでな。」


「リィリさんが普段使っている魔道具......あ、色々とバレない様に全身を覆う様に発動させている奴ですか?」


リィリさんがアンデッドとバレない様に核をカモフラージュして全身に魔力の反応があるようにしている魔道具が効果を失っているらしい。

俺が魔力視を使いリィリさんを見ると、確かに心臓の位置にある核がはっきりと分かってしまう。


「うむ。そう言えば途中でリィリの叫び声が聞こえたが、その時になんかあったのかのう?」


「かもしれませんね......僕も詳しくは見ていませんでしたが。」


「まぁ、問題ないとは思うが......早めに代わりの物を用意しておいた方がいいじゃろうな。」


アンデッドの核の話は世間一般には知られていないみたいだけど、冒険者が多くいる今の状況では不審に思われる可能性がないとも言い切れない。


「そうですね。魔晶石はあるので以前と同じ治癒力向上の魔道具を作って渡しておきます。」


俺とナレアさんは小声で話しながらレギさん達の方に向かって歩く。

その途中、渦を巻くように動いていた魔力が霧散し、ダンジョンの攻略が完全に終わったことが分かるとマルコスさん達が集まっている所で再び歓声があがった。

恐らく外周を守っている人達もダンジョンが攻略されたことに気付いただろうし、すぐにでもこちらに合流しに来るはずだ。

ダンジョンが攻略された直後は今までの淀んでいた魔力が霧散したせいか、空気まで爽やかになった感じがする。

横を歩くナレアさんも重たい空気から解放された様に伸びをしているし、肩にいるシャル達も肩の力を抜いたような様子を見せている。

軽くなった足取りでレギさん達と合流すると、レギさんが斧を背中に収めながら声を掛けてきた。


「おう、お疲れさん。特に問題もなく終われたな。」


「お疲れ様です。そうですね、ボスの討伐班も無事みたいですし......何事もなく終わって良かったですよ。」


「そうだねー。一回ヒヤッとした所はあったけど、無事でよかったよ。」


「途中でリィリの声が聞こえたヤツかの?何があったのじゃ?」


「あー、あの時はね......。」


合流して雑談を始めたのだが、クルストさんが妙に静かなのが気になったので声を掛けた。

リィリさんの方を見ているみたいだけど......。


「どうしたのですか?」


「あーいや、あの時の悲鳴みたいなのが気になって、怪我してないかと見過ぎてたっスかね?まぁ、あの様子だと問題無さそうっスけど。」


「なるほど......まぁ、丁度今その時の話をしてくれていますし、聞いておきましょう。」


「そうっスね。」


若干バツが悪そうにクルストさんが頭を掻きながら頷く。

まぁ、心配だったのは分かりますが、あまりじろじろと女性を見ていると......大変なことになるかも知れませんからね。


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