第435話 狂い過ぎる者達
「あー、足一本斬っちゃいましたね。」
「......斬っちまったなぁ。さっきからチラチラ見てくると思ったが、こそっと本気出すつもりだったみたいだな。」
レギさんがため息をつくように言う。
「あ、そうなのですか?僕は見てきていたのに気付きませんでしたが。」
「あぁ、何度か目が合ったからな。余裕なのは分かったが......何度も見てくるから何か企んでいるんじゃないかと思っていたんだが......。」
「なるほど......でもまぁ、足一本くらいだったら大丈夫じゃないですか?」
「いや......リィリの武器は片手持ちの剣だからな......何度も斬りつけているならともかく一撃で斬り飛ばすのは......まぁ、若干不自然......くらいで済むか?」
足を斬り飛ばした後、後ろに下がっていた冒険者の方がリィリさんと交代して前に出る。
リィリさんは若干バツが悪そうに後ろに下がっていくけど......あー確かにレギさんの方を見ているな。
でも......なんだろう?
なんか恨みがましいというか......若干怒っているというか......レギさん睨まれていない?
「なんか、リィリさんの様子おかしくないですか?」
「ん?そうか?」
レギさんが目を凝らす様にしてリィリさんを見ているけど......なんか余計リィリさんの機嫌が悪くなっているような......。
......あぁ、レギさんが目を凝らしているから......睨んでいるように見えているのかも。
「レギさん、多分睨んでいるって勘違いされていますよ。」
「失敗したか......?いや、まぁやり過ぎだって言う風に思っていると取ってくれれば......。」
若干レギさんが言い訳っぽくなっているような......。
とりあえず......。
「えっと、そろそろ僕は持ち場に戻りますね?」
「あ、あぁ。そうだな。大丈夫だとは思うが、油断はするなよ?」
「了解です。レギさんもお気をつけて。」
「おう。」
まぁ......魔物以上に気を付けた方が良い相手が居るかもしれませんが......。
そんなことを考えながら俺は小走りにクルストさんの方へ戻る。
リィリさんがボスと戦い始めたきっかけは分からないけど、最初の悲鳴が聞こえた時に戦っていた人が怪我をしたとかだろうか?
でもその後でリィリさんの悲鳴というか叫び声みたいなのが聞こえたよね?
俺もレギさんもリィリさんの声が聞こえて慌てて戦っている魔物を倒して様子を窺ったけど、ボスと戦っている様子を見る限りではリィリさんが怪我を負っている感じはなかった。
リィリさんが無事なのは良かったけど......レギさんとの間に何か問題が発生した気がする。
......ナレアさんに伝えておいた方が良いかな。
「おかえりっス。なんかリィリさんの叫び声が聞こえた気がするっスけど、大丈夫だったっスか?」
俺が戻ると、クルストさんが若干気遣わしげに聞いてくる。
俺達が担当している場所はリィリさんの位置とボスを挟んで対角線上にあるので、状況が見えなくて心配だったのだろう。
「僕もしっかり見られたわけじゃないですけど、大丈夫だったと思います。悲鳴の後でリィリさんが少しの間ボスと戦っていましたけど......足を一本斬り飛ばしていましたし。」
「無事なら良かったっス。っていうか足を斬ったっスか。流石っス。」
「すぐに元々戦っていた人と交代していたので、戦っていた人に何かあって交代した感じだと思いますよ。」
「なるほどっス。その交代してた人もすぐ元に戻ったってことは、大怪我をして交代したってわけでもなさそうっスね。ボスとの戦いは一つのミスで死んでもおかしくないと聞いたっス。悲鳴が聞こえた時は気が気じゃなかったっスよ。」
そう言って大きく息をつくクルストさん。
「僕は魔物と戦っている最中に背後からその声が聞こえてきましたからね......焦らないようにするのに必死でしたよ。」
「確かにそれは焦るっスね......俺はここに残っておいて良かったっスよ。」
「こちらは魔物も来なかったみたいですしね。」
「そうっすね......向こうの外周で張り込んでいる連中が突破されたのか見逃したのか......。」
「まぁ、森ですからね。見逃しても不自然ではないと思いますけど。」
隠れる場所が多いのに防がなきゃいけない範囲が広すぎるからね。
警戒網をすり抜けられたと考える方が自然だろう。
「それもそうっスね。まだボスとの戦いは終わりそうにもないし......まだまだ気は抜けないっスね。」
クルストさんが肩を回しながら首を鳴らす。
「ボスを倒すのにはまだ時間が掛かりそうですね。」
「まぁ、ボスは強いっスからね。大規模ダンジョンになると入れ代わり立ち代わり交代して、数日かかることも珍しくないらしいっスよ。」
「そうなのですか?確か大規模ダンジョンのボスは桁違いに強いって話は聞いたことありましたが......そんなに時間がかかるのですね。」
「小規模ダンジョンでも半日くらいかかることはあるらしいっスよ。」
「半日ですか?」
「まぁ、滅多にないらしいっスけどね。でも時間が掛かるのは普通っスよ。ケイはレギさんと行った時どのくらいかかったっスか?」
......どのくらいだったっけ。
正直普通の魔物と大して変わらないくらいの速度でレギさん達倒していたような......しかも口喧嘩しながら。
「......あまり時間はかけなかったと思います。二人で戦っていましたし......相手はアンデッドでしたし、長期戦はこちらに不利だったので。」
「あー、なるほど。確かに二人でアンデッド相手に持久戦は無謀っスね。あまり詳しく話は聞いていなかったっスけど......結構ギリギリの戦いだったりしたっスか?」
「うーん、正面はレギさんが受け持ってくれましたからね......相手が人型だったこともあって関節とか狙いやすかったですし......。」
「そういう事っすか。いくらアンデッドでも四肢を斬り飛ばしてしまえば動けなくなるっスからね。まぁ、斬り飛ばすのが大変なんスけど。」
「そこはレギさんが上手くやってくれたので。」
まぁ、正確にはレギさんとリィリさんが斬り飛ばしていたのだけど。
「ケイ達のダンジョン攻略の話を聞いていると簡単そうに聞こえるんスけどねぇ......実際来てみたら中々きついっス。」
「そうなのですか?クルストさんは結構余裕そうに見えましたけど。」
「魔物自体は確かにそこまできつくはないっスけど......ずっと気を張ってないといけないというか......ダンジョン自体の雰囲気というか、魔力っスかね?こっちの精神力をガリガリ削ってくるっスよ。休憩したりこうやって雑談を交えても休まっている感じがしないっス。」
「あーなるほど。確かにそうですね。感覚的にですけど、何か刺々しているというか......ざらつくというか、嫌な感じはずっとしています。三回目のダンジョンですけど、この感覚は慣れないですね。」
魔力が満ちているという点では神域と同じだけど、あっちは暖かい感じがするからな。
まぁ、魔力の濃さは神域の方が遥かに凄くて普通の人では長い事持たないらしいから、ダンジョンの方が嫌な感じで済む分マシなのだろうか?
「ケイは下級冒険者の中でもダンジョンに行った回数が多い方っスね。って言うか下級冒険者のまま三回もダンジョンに足を踏み入れた事がある奴はいないかもしれないっス。普通は中級冒険者になっていると思うっス。」
「まぁ、そうみたいですね......依頼を規定数こなしたら一回ダンジョンに行って、練習したらすぐ試験って感じらしいですからね。」
「中級の方が依頼料も良くなるっスからねー。依頼はコツコツ数をこなすしかないっスけど、ダンジョンの試験はさっさと終わらせたいって人が多いっス。」
まぁ、普通はそうだよね。
俺の場合はうっかり大金を手にしちゃったせいでお金に関しては気にする必要は殆どないし、冒険者になった理由は身分証明書が欲しかっただけだもんな。
「今回攻略が成功したらダンジョン攻略数二カ所目っス。一つでも珍しいのに二つも攻略してる下級冒険者なんてケイくらいのものっス。」
「成り行きなのですけどね......今回なんて攻略といっても普通の魔物退治をしていただけですし。」
「いやぁ、二つ名がついてもおかしくないと思うっスよ。」
「いや......それは遠慮したいですね。」
「名誉な事っスよ?ダンジョン狂いとかっすかね?」
冒険者って狂い過ぎじゃない?
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