第53話 あんでっど?
リィリさんが何故魔物となってしまったかは分からないけど、スケルトンから今の状態になったのは確度が高いと思われる推測をシャルから聞いている。
「今のリィリさんの状態ですが。ボスを倒したことでリィリさんがボスの魔力だけじゃなくダンジョンに蔓延していた魔力まで吸収して進化したんだと思われます。」
「なるほど、進化か......だがスケルトンの上位種はスケルトンナイトとかじゃなかったか?」
「そういえばそうね......。」
「上位種と進化は全く関係ないそうです。上位種はあくまでその魔物よりも上位の魔物。進化と言うのは存在自体が変質することだそうです。極端な話をすると、スライムが進化してドラゴンになってもおかしくないそうです。」
「そりゃ流石におかしいだろ......。」
「まぁ流石に尋常じゃないくらいの魔力を吸収する必要があるらしいのでそこまで極端な進化はそうそう出来ないそうですけど......。」
「......それって私がスライムになったり虫系の魔物になったりする可能性があったってことかしら......?」
「......申し上げにくいのですが......。」
「......よかった......本当によかった......変な魔物に進化しなくて......。」
光が消えた目でぶつぶつと呟くリィリさん。
本当に人型への進化でよかったと思います......。
「スライムになっても面白かったかもなっ!」
台詞だけを残し眼前から突然消え吹飛んでいくレギさんと蹴りを繰り出した体勢で固まっているリィリさんが見える。
ってレギさん!?
「え......?」
「レギさん!?大丈夫ですか!?」
慌てて吹っ飛ばされたレギさんを追いかける。
「お......おぅ、驚いたぜ。今蹴り飛ばされたのか?」
「れ、レギにぃ!ごめんなさい!大丈夫!?」
慌てて追いかけてきたリィリさんがレギさんに謝る。
「あぁ、大丈夫だ。身体強化魔法貰っておいてよかったぜ。いや、すまねぇ。口が過ぎたな。」
笑いながら謝るレギさんはリィリさんの頭を撫でる。
「う......そ......そうだよ!い、いつも言ってるでしょ!」
「あぁ、そうだな......そうだった。すまねぇ、嬉しくてつい......な。」
「......うん。」
レギさんもリィリさんも凄く嬉しそうだ。
魔物になってしまったとは言え別れを覚悟した後にこうして再会出来たのだ。
最初は気まずかったのかもしれないが、その後に来るのは喜びだろう。
特にリィリさんはスケルトンの体だった時、少しだけレギさんと距離を開けているように見えたが今はレギさんの傍で嬉しそうにしている。
本当に良かった......。
「ケイ、続きを聞いてもいいか?」
レギさんが立ちあがりながらこちらに話しかけてくる。
「はい......ですが、あまり分かっていることはないのですが......リィリさんが何の魔物に進化したかは現時点ではちょっと分からないそうです。リィリさん自身が自分の能力を把握していけば分かるかもしれないとのことでした。」
「......確かに、自分の事はもう少し知る必要があるわね......さっきのレギにぃみたいなことを他の人にしていたらと思うと......ぞっとするわ......。」
「そうだな......俺も強化魔法を初めて掛けてもらった時は力加減が難しかったからな......何がどこまで出来るかは早めに把握しておくべきだな。」
「うん......そうだね......この姿なら......街に行っても......大丈夫かな?」
自分の体を見ながら少し不安そうにリィリさんが呟く。
「俺は問題ないと思うが......。」
「街に魔物を感知するようなものはないんですか?魔道具とか。」
街中にもスライムがいたりと魔物は存在している様なのであまり魔物に対する忌避感はないかもしれないけれど、用心はしておいた方がいい。
「聞いたことはねぇなぁ......だが、確かにそれは気になるな。デリータに確認しておくか。」
「デリータって?」
「知り合いの魔術師でな。かなり博学なやつだからこの手の事を相談するにはいい手合いだ。」
「......へぇ?」
リィリさんが何か言いたそうにしているが、ここは触らないほうがいいだろう。
あの時の台詞はがっつり俺も聞こえていたけど、そこに触れる勇気は俺にはないし......リィリさんはなんか必死になかったことにしようとしている節があるよね......。
「そういえば、魔力核があるってことはアンデッドなのか?位置は変わっているみたいだが。」
「え?......あ、本当だ。胸に移ってる。」
「弱点としては至って普通だな......誰だってそこを貫かれれば死ぬしな......問題は、魔力視が出来るとそれがバレるってことだな......そいつがアンデッドの知識を持っていたら魔物だってことまでバレる......。」
「何か対策が必要ですね......シャル何か魔力核を隠す方法ってないかな?」
『そうですね......魔力核とはいわば高密度の魔力。上から魔力で覆うか魔晶石をいくつか身に着けて紛れ込ませるか......でしょうか?』
「なるほど......隠すというより紛れ込ませる感じか......。」
でも魔晶石は貴重らしいし、複数身に付けておくのは違う意味で目立つか?
いや、でもデリータさんもかなり多く身に着けていた気がするから魔術師ならありなのかな......?
「何かいい方法があったか?」
「魔力で覆うか魔晶石を身に着けて目立たなくさせるって案があるそうです。」
「魔晶石は分かるけど、魔力で覆うって言うのはどうしたらいいのかしら?」
『魔力を全身に纏うイメージでしょうか。魔力量自体は問題ないと思います。ただそれを常に維持するのは難しいかもしれませんね。』
「全身に魔力を纏う感じで広げてみてください。」
「試してみるわ......。」
そう言うとリィリさんは目を瞑り集中し始める。
俺もレギさんも無言で魔力視を使ってリィリさんを見ている。
薄い魔力の膜がリィリさんの全身を覆っていく。
確かにシャルの言うようにこの状態であれば魔力核は目立たない。
強化魔法をかけている俺やレギさんの状態と大差ない感じだ。
だけど......。
「......ごめんなさい......これ......無理だわ!」
最後の一言と共にリィリさんの全身を覆っていた魔力の膜が霧散する。
「維持するのが難しすぎるわね......とてもじゃないけれど、普段から纏っておけるようなものじゃないわ......。」
シャルが難しいって言っていたけど、かなり難しいみたいだ......
普段から常に備えておかないと意味はないし......この方法は無理かな......。
ん?まてよ?
強化魔法をかけてみるのはどうだろう?
「僕の強化魔法をかけてみるのはどうでしょう?恐らく似たような感じになると思いますが。」
「......いや、ケイ。強化魔法なしであの怪力だぞ?そこにお前の強化魔法なんかかけた日には......。」
「あぁ、すみません。強化と言っても効果を選択できますので......そうですね......治癒力向上させる感じでどうでしょうか?それなら特にかけたとしても気にする必要はないと思いますが......。」
「なるほど......それなら問題ないか?」
「そもそもアンデッドって怪我治るのかしら?」
......確かに。
っていうかリィリさんを見ているとアンデッドってそもそも何なのか分からなくなってくる......。
「シャル、リィリさんに強化魔法で治癒力向上をかけても大丈夫かな?」
『問題ないと思います。アンデッドの中でも上位に属する者達は普通に食事もしますし、怪我をして血を流すこともあります。もちろん治療を受けることも可能です。そういった点で殆ど生者と変わらないと言えます。』
アンデッドとは......?
「ありがとうシャル。リィリさん、レギさん。どうやら治癒力向上をかけても大丈夫だそうです。後、高位のアンデッドになるとほぼ普通の人間と変わりない感じで生活できるみたいですよ。」
「へぇ、それは嬉しい情報ね......そういえば、心臓も動いているわね......。」
リィリさんが自分の胸に手を当てて心音を確認している。
心臓も動いているのか......いや、食事が出来るってことは内臓が動いているってことだろうから不思議じゃないか......ほんとアンデッドって何なんだろう?
「って今はそれは別にいいわね。ケイ君、その強化魔法ってやつ掛けてもらってもいいかしら?」
「あ、はい。分かりました。」
俺は魔力を込めてリィリさんに強化魔法を掛ける、内容はさっき話した通りの治癒力強化だ。
問題なく魔法は発動しリィリさんに強化魔法がかかる。
魔力視で確認するとリィリさんの体が魔力に包まれていて魔力核は見えなくなっていた。
「おぉ!見えなくなってるな!これならいけるんじゃねぇか?」
「とりあえず、これで当面は大丈夫そうですね。」
「ありがとう、ケイ君。でも困ったわね......ケイ君がいないと魔法って出来ないわよね?」
「それについてはちょっと僕の方で考えがあるので、街に戻ってから何とかしてみます。シャル、リィリさんは魔道具を使えるかな?」
『問題なく使用できるだけの魔力量を保有しています。』
ならいけるはずだ。
治癒力向上の魔法なら魔晶石を使って魔道具に出来るはず。
グルフに作ってあげたいのはまだ無理なんだけど......体のサイズを変えるって言うのがうまいこと想像出来ないんだよな......。
って今はそれはいい。
「とりあえず一番の懸念は無くなったようだし......帰るとするか?」
「そうですね。」
「えぇ、久しぶりに外の空気が味わえるわ。」
たった五日程の探索だったが本当に色々あった気がする。
ここに来たときは四人だった、帰りは八人。
レストポイントで一人待たせているから迎えに行かないとね。
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