第52話 落ち着きましょう



「あーーーーーーーーーー!!」


全裸の女性は自分を抱きしめるように蹲る。

何が起こっているのか理解は出来ないが、あの女性が誰か察することくらいは流石に出来る......。


「り......リィリ......?一体......何が......?」


ふらふらとレギさんが女性......いや、リィリさんに近づこうとして......。


「あーーーー!近づかないで!馬鹿!変態!」


「と、とりあえずこれを羽織っとけ!」


レギさんが先ほど渡されたばかりのマントを丸めてリィリさんに投げる。

凄い勢いでマントを羽織ったリィリさんはまた蹲ってしまった。

なんか見覚えのある体勢だ......傍らにいるシャルに視線を落とす。


『どうかされましたか?ケイ様。』


「......あれはリィリさんだよね?何がどうなったのか分かる?」


『恐らくではあるのですが......。』


シャルは一言前置きをすると推測を話してくれた。




View of レギ


今、俺の目の前にはぼろマントを羽織ったまま蹲った奴がいる。

いや蹲りたい気持ちは分かる。

今わの際のつもりで言葉を交わしていたからな......。

俺も最後の方はやばかった。

まぁ、それはさておき。

一体何が起こった......?

確かにリィリは既に死んでいたわけで、その体は魔物だった。

その時点でかなり困惑したものだが、これは度が過ぎている......。

死んでいたわけじゃなく、姿がスケルトンに変わっていただけとでもいうのか?

とりあえず身悶えしているリィリをそろそろ起こしたい所なんだが......。


「うーーーーあーーーーーうーーーーー!」


はぁ......まだ無理か......。

俺はその場で腰を下ろした。

疲れたわけじゃないが......力が抜けた。

ほんの数分前、別れを覚悟した相手が元気に喚いているのだ。

力が抜けるくらいは許してくれるだろう......。

......また、俺たちは一緒にいられるのか......?




View of リィリ


なんで!?

なんで私まだ生きてるの!?

って生きているのかしら!?

いや、この際それはどうでもいいわ!

最後だと思ってとんでもないこと口走っちゃったんですけど!?

いいえ!違うわ!

あれは家族とか仲間的なあれよ!

そう!あれなのよ!

でもレギにぃが勘違いするかもしれないから、ちゃんと否定しておくべきかしら!?

でもわざわざ否定するのもなんか意識してる的な感じがしてちょっとあれかしら!?

でもレギにぃもいい歳なんだし......私も......あれ?

そもそも私って今何歳なのかしら!?

スケルトンだったときはカウントされるの?されないの?

っていうかこの体は一体どうなって......体!?

そういえばさっき裸をみられ......っ!?


「あーーーーーーーーあーーーーーーーあーーーーーーーー!!」


ダメ!無理!死ぬ!死んでる!?生きてるの!?なんで!?

さっきから思考が全く進まない!

盗み見るようにレギにぃを見ると、呆けたような表情で地面に座り込んでいた。

私がこんな状態なのになんでそんな態度なの!?

いや、わかるよ!?

私も余計な事言ってなければきっとそんな感じだったと思うよ!?

でも今は!それよりも!解決しないといけない問題があるんじゃないかしら!?

って違うわ!そういうあれじゃないもの!


「レギにぃ!今はそれどころじゃないわ!?そうよね!?」


「お、おう?そうだな?」


私は体を起こしてレギにぃに詰め寄る。

スケルトンの時とは感覚がちょっと違うわね......。


「とりあえず一回落ち着きましょう!」


「お、おう。」


私は大きく深呼吸をする。

......深呼吸......しているわね......。

スケルトンの体の時はそういうポーズをすることはあったけど、実際にしていたわけじゃない。

ため息も深呼吸も......。

自分の体を触ってみる。

柔らかい......触感もある......嗅覚も......もしかしたら味覚もあるのかもしれない。

少しだけ舌を出して唇を舐めてみると少し味がした気がする......。

舌も湿っていて唾液を分泌している......。

私に一体何が起こっているの......?


「レギさん、リィリさん。今いいですか?」


呆然としている私とレギにぃにケイ君が話しかけてくる。


「あ、あぁ。すまねぇケイ。ぼーっとしてた。」


「いえ、この状況じゃ仕方ないと思います。僕も暫く思考停止していました。」


ケイ君......レギにぃが私たちを迎えに来るために連れてきた仲間。

二人でダンジョンに来るくらい、お互い相当信頼しているのだろう。

少しだけ悔しさを覚えないでもないけど、それ以上に感謝している。

ケイ君がいなかったらレギにぃはここまでこられなかったかもしれない......いえ、それどころか死んでいたかもしれなかったという話だ。

それにしても不思議な雰囲気の子だと思う。

丁寧というか控えめというか......冒険者にはあまりいないタイプだ。

まぁ冒険者になってからまだ半年もたっていないというし、染まっていないだけなのかも?

でもなんとなく、荒っぽい雰囲気のケイ君は想像しにくいわね......。


「それで、あくまで推測としてなんですけど......シャルからリィリさんに起きたことを聞いてみました。」


「それは助かるぜ。何がなんだか、訳が分からなくてな。」


シャルって子犬、いえ狼だったかしら......この子は不思議どころじゃないわね。

ケイ君と会話出来るだけでも驚きだけどその能力や知識はとんでもないものがある......。

本当に全てをこの子から聞いているのなら一番頼りになるんじゃ......。


「......リィリ?どうした?大丈夫か?」


「あ、ごめんなさい。少し考えこんじゃって。」


「仕方ないですよ。もう少し待った方がよかったですか?」


「いえ、何が起こっているか少しでも知りたいわ。聞かせてもらえるかしら?」


「分かりました。まず最初に、リィリさんは魔物です。これはスケルトンだった時から変わっていないそうです。」


「......やっぱりそうよね......。」


「すみません。」


辛そうにケイ君は事実を告げる。

少しだけ期待していなかったと言えば嘘になるけど、私は間違いなく死んでいた。

それが今もこうして意識があって普通に会話が出来ている。

これ以上望むのは欲張りにも程があるってものだよね。


「大丈夫よ、ケイ君が気にすることじゃないわ。」


人間じゃないと言わせる......言われるのは自分だけど......酷い役目を押し付けた気がする。


「そうだぜ?もともと骨女だったんだ、気にすることはないぜ。」


......でもレギにぃに言われるとむかつくわね。

とっさに腰に手を伸ばしたがそこには何もなかった。

そういえば剣はレギにぃに渡したんだった......。

その時の状況を思い出しまた羞恥に染まりそうになったが、ニヤニヤしながら私の剣を見せつけてくるレギにぃをみて怒りのほうが勝る。

いえ......今あの禿はいいわ......。


「......ごめんなさい、ケイ君。続けてもらっていいかしら?」


「は、はい。」


少しケイ君が委縮している気がする......。

これもあの禿が煽ってくるせいだ......後で一撃、記憶が飛ぶくらいの奴を入れておこう。


「それで、スケルトンとしてのリィリさんですが、どうやらダンジョンによって生み出された魔物ではなく自然発生の魔物だったそうです。」


「ダンジョンの中で自然発生の魔物って生まれるのか?」


レギにぃが質問をする......確かに私も聞いたことはない......でもダンジョンのボスを倒しても私がここに残っているってことがその証明になっている?


「普通の生物が突然変異で魔物になることはそれなりにあるそうですよ。ただダンジョンから生まれた魔物は他の魔物を襲うことはないらしいんですが、自然発生した魔物はダンジョンの魔物に襲い掛かるらしく......襲われれば当然反撃はするので......殆ど生き残ることはないそうです。数が違いますしね......。」


......普通の魔物は食料も必要だし、ダンジョンの魔物を食料とみなして襲い掛かっても仕方ないか......まぁ、仕留めたら魔力に還るのだけれど。

そう考えるとダンジョンに生まれてしまった魔物は不幸ね......。


「へぇ......そいつは知らなかったな......それで、その......なんでリィリが魔物になっちまったかは......。」


「すみません。それに関してはシャルも見当がつかないそうです......。」


「......そうか。」


「まぁ、私みたいなことがぽんぽん起こっていたら噂くらいにはなるでしょうしね。」


「それもそうだな。だが、ついぞそんな話は聞いたことがねぇ。」


死んだ人がアンデッドになって甦る......そんなおとぎ話があった気はするけど、実際そんなことが起これば大騒ぎ所の話じゃないだろう......。

いや、私の身にそれは起こっているんだけれどね......。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る