第51話 二人の想い



「さて、じゃぁ私が首落とすわね。」


「おう。」


あっけらかんとリィリさんが宣言してレギさんもそれを受け入れる。

ここに来る前に既に話は済んでいたのだろう。

俺は少し離れた位置から二人を見守る。


「レギにぃ、言わなくても大丈夫だと思うけど......二人は一緒に、私は二人の側にお願いね。」


「......あぁ。」


「宜しくね。」


そう言うとあっさりとリィリさんは剣を振りテラーナイトの首を刎ねる。

弱点を貫いたわけじゃないからか、すぐに魔力へと還らないようだ。


「んー、じらされている感じがするわね......すぱっと終わりたかったのだけれど......。」


「......空気の読めねぇ奴だな。」


「......まぁこの魔物もレギにぃには言われたくないでしょうね。」


「口の減らねぇ......。」


「......それにしても、予想以上に楽勝だったわ。もう少し苦戦するかと思っていたのだけれど。」


「強化魔法の効果や初っ端に武器を奪っておいたってのもあるが......人型が複数の相手に囲まれたらこんなものじゃないか?」


「......それもそうね......仲間と戦うのなんて久しぶりだったから......。」


「......ヘイルの剣もちゃんと取り戻せてよかった。」


「そうだね......。」


二人が俺の手に持つヘイルさんの剣を見つめている。

俺が持っているよりも二人に渡しておいた方がいいだろう。

レギさんに近づき剣を手渡した。


「ありがとう、ケイ。」


そう言いながらレギさんは懐から腕輪を取り出す。

アレは確かエリアさんのものだったはず。


「......これで、四人揃ったな。」


「......そうだね。待たせてごめんなさい、ヘイルにぃ、エリアねぇ。」


俺は二人、いや四人からゆっくりと離れる。

胸の奥がざらざらする感じがする......分かっている、これはもう過ぎてしまったことなのだ。

今から過去を変えることなんて、母さんにだって出来ない事だろう......。


「そういえば、ヘイルにぃ達結婚するって言ってたな......指輪はまだみたいだったけど......あればよかったのにな。」


「......だから、なんであいつらはいっつも俺に秘密にするんだよ。」


「ヘイルにぃは恥ずかしがり屋だしね。エリアねぇは呆れ気味だったけど......気付かないレギにぃも私はどうかと思うけど......。」


「だからってなぁ......。」


「流石に結婚のことは言うつもりだったみたいだけどね。私は雰囲気でなんとなく気付いて......エリアねぇに聞いてみたから知ってただけだし。」


「ちっ!原因はおめぇかよ......。」


ヘイルさんの剣に向かってぼやくレギさん。

その顔は懐かしそうであり寂しそうであり、苦笑しているようでもあった。


「そろそろみたいだね......。」


少し離れた位置に倒れていたテラーナイトが体を維持することが出来なくなったのか、ついに魔力へと還る。

それと同時にダンジョン全体が震えたように感じた。

これがダンジョンを攻略したってことなのかな。

二人に目線を戻すとリィリさんが魔力の霧に包まれるところだった。


「リィリ!」


レギさんの声が酷く遠く感じられる。


「レギにぃ!私達の分まで沢山面白いこと経験してね!」


「あぁ!!」


「ヘイルにぃとエリアねぇに先に会いに行くけど!レギにぃは暫く来たらダメだからね!」


「あぁ!二人に!よろしく頼む!」


「ケイ君!」


おもむろにリィリさんに名前を呼ばれた。


「はい!」


「レギにぃの事、お願いします!普段は慎重だけど、抜けている所も多いから!迷惑かけると思うけど、ごめんなさい!」


「大丈夫です!まだ僕じゃ頼りないと思いますけど!レギさんの背中を守れるようになりますから!」


魔力の霧が濃くなり、リィリさんの姿は殆ど見えなくなってきた。

その向こうからマントに包まれた剣がレギさんの元に投げられる。


「ありがとう!ケイ君!よろしくお願いします!それと、レギにぃ!先に渡しておくね!手入れはしてあるから使ってくれてもいいけど......好きにしてくれていいから!」


「分かった!好きにさせてもらう!」


「美少女の持ち物だからって変なことに使わないでね!」


「呪われてそうで銅貨一枚でだって売れそうにねぇよ!」


「......そんなことないと思うけどー......なんか暖かくなってきたなー。」


「リィリ!」


「来ないで!レギにぃ!」


レギさんが足を踏み出そうとした瞬間リィリさんから静止がかかる。


「......だが!」


「いいの、そこにいてレギにぃ......んっ......なんか......きもちよく......なってきた......かも......?」


熱に浮かされたようなリィリさんの声と薄れていくダンジョンの魔力を感じる。


「あは......こんなふうに......しぬなら......わるくない......よ......。」


「リィリ!」


「レギにぃ......迎えに来てくれて......本当に......嬉しかった......ありがとう......。」


霧の向こうに薄っすら見えるリィリさんの体が光っているように見える。


「俺も!お前に!お前たちに会いたかった!会えてよかった!ありがとう!」


ダンジョンの魔力が急激に薄れていく......これで恐らく、ダンジョンが終わる。


「さようなら......レギにぃ......ありがとう......大好きだよ!」


「俺も!お前の事が......!」


そして魔力が霧散する......次いで時が停止したような静寂が訪れる。

ダンジョンに蔓延していたピリピリとするような魔力は消え失せた。

薄暗かったダンジョンとは違い魔力を失った洞窟は完全なる闇が降りている。

しかし俺達の目は強化魔法により闇を見通すことが出来る......。

リィリさんを包んでいた魔力の霧も全て消え、その場残されていたのは......目を閉じた全裸の女の人だった......。

俺の視界には色が抜け落ちた表情を見せるレギさんの姿、そしてゆっくりと目を開いていく女性......。

自分の姿を確認して、次いでレギさんの方を見るその女性......。

二人は目を合わせ......。


「「あーーーーーー!!」」


時間が動き出した。


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