第50話 最後の戦い



俺達は下層にあるレストポイントに拠点を移していた。

このレストポイントにはリィリさんが回収したエリアさんの遺品とレギさん達の昇格試験の審査役だった冒険者の方の遺品が集められていた。

ここからボスのいる位置はそう遠くない。

道中に魔物はおらず、ここを出ればそのままボスの場所まで直行できるだろう。

昨日のうちにこのレストポイントに移動して休養をしっかりとり、既に準備は整っている。

そして今、俺はレギさん達から離れレストポイントの外を見張っている。

聴覚強化は当然切っている。

二人は最後の話をしている、誰にも邪魔をさせるわけにはいかない。


「シャル、鎧を着たアンデッドって思い当たる魔物はいるかな?」


『姿を見なければはっきりしたことは言えませんが、いくつか心当たりはありますが......パワータイプとなるとアンデッドナイトかテラーナイト、デュラハン辺りでしょうか。ダンジョンの規模はあまり大きくないのでこれ以上の魔物はないと思われます。まず、アンデッドナイトは鎧を着ている以外に特徴はありません。テラーナイトは恐怖を呼び起こす魔力を発していますが強化魔法をかけておけば防げる程度のものです。デュラハンは個体によって動きがかなり違いますが上位の個体になると体を魔力の霧に変化させ攻撃を無効化するものがいます。三体の中では一番強い魔物がデュラハンです。』


候補は三体......か。


『ただ、デュラハンは首......頭部がありません。あの者が特に言及していなかったので恐らくデュラハンではないと思います。』


なるほど......そんな特徴があるなら確かにリィリさんがボスの話をした時に言っているはずだね。

そこまでシャルと話したところで後ろから声がかかる。


「すまねぇ、ケイ。待たせちまったな。」


「いえ、丁度今ボスについてシャルに意見を聞いていたところです。」


「何かわかるのか?」


「リィリさんに一つお聞きしたいのですが、ボスは......頭ってついてます?」


「頭?ついてたよ?頭のない魔物とかいるの?」


「えぇ、シャルが言うにはいるらしいのですが......どうやら違う種類の魔物のようですね。後は姿を見ないことにははっきりしたことは言えないみたいですが......。」


一応残りの二体の魔物についても二人に説明しておく。

とはいえ、テラーナイトの能力は身体強化魔法で防ぐことが出来るので特筆して注意する点はないのだが。


「恐怖を呼び起こす......か。ダンジョンのボスは特殊能力を持っている奴が多いらしいが、ケイの魔法で防げるんだな?」


「えぇ、問題ないそうです。」


「ならその辺りは問題なさそうだな。よし、今日で五日目。そろそろ太陽が恋しいころだ、とっとと終わらせて帰ろうぜ!」


「そうね、ヘイルにぃ達もいい加減外に出たいだろうし迎えに行きましょう。」


とっくに二人は覚悟を決めている。

その決意を俺が邪魔するわけにはいかない。


「わかりました。行きましょう。」


気が重くないと言えば嘘になるけれど......今は集中しよう。

他の事を考えながら戦えるほど俺は器用じゃないし、戦いに慣れているわけでも無い。

大きく息を吸い込んで、俺は先を歩く二人を追いかけた。




「あれがボスですか......確かに鎧を着てますね。」


「あぁ......それにあの剣は......間違いないな......。」


俺達は今ボスが陣取る広間の入り口からボスを観察していた。

シャルによるとボスはテラーナイトで間違いないらしい。

テラーナイトの特殊能力に関しては俺とレギさんには強化魔法をかけてあるので問題ないし、リィリさんにはそもそも相手の能力が効かなかったので問題なし。

力で押してくるタイプと言う通り、体躯は大きい。

二メートル程だろうか?

コボルトリーダーと同じくらいのサイズだが鎧を着ている分テラーナイトの方が大きく感じる。

......ボスと言うだけあって強そうだね。

というか実際リィリさん一人では勝てなかったのだから強いのか......。

手に持つヘイルさんの剣は肉厚の両手剣。

手入れもされておらず至る所に錆が浮いている。

下手に地面に叩きつけられたりしたら折れるかもしれない......早めに武器を手放させたいところだな......。


「レギさん、武器を持つ手を優先して狙えますか?」


「あぁ、好きに使われると壊れそうだしな......。」


「正面を僕が受け持って攻撃させるので横合いからレギさん隙を伺ってもらえますか?」


「いいのか?正面は危険だぞ?」


「逃げるのは得意なので大丈夫です、任せてください。でも武器を落としたらレギさんと交代してもらっていいですか?」


「......色々すまねぇな......。」


「正面だったら私がやるわよ?」


「いえ、リィリさんは最初は後ろに控えていてもらっていいですか?レギさんが相手の武器を落としたら僕はヘイルさんの剣を回収して後ろに下がります。そこからが本番ですのでレギさんと二人で仕留めてください。」


「......そういう事。ありがとう、ケイ君。」


「いえいえ、大変なところは全部お二人にお任せするので宜しくお願いしますね。」


レギさんはゆっくりと深呼吸をすると一言だけ告げてくる。


「頼む。」


「了解、行きます!」


俺はテラーナイトに向かって駆け出すと一気に接敵する。

今回はナイフに魔力を通していない。

相手の獲物は肉厚の両手剣......片手で振ってるけど......。

まぁとにかく、そんなものを伸ばしているとは言えナイフで受け止められるはずがない。

ナイフで引っ掛けるように相手の攻撃を受け流しながら間合いを少し遠めにキープして相手の大振りを誘う。

相手の動きは剣術と呼べるようなものではなかったが棒きれでも振るうかのように肉厚の両手剣を軽々と振るってくる。

アンデッドって基本怪力だよね......。

余計なことを考えているとテラーナイトが横薙ぎを繰り出してきた。

首を狙って放たれたそれを、辛うじてしゃがんで躱す。

ちょっと危なかった......戦闘中に余計なことを考えちゃダメだって......。

だが怪我の功名か大振りの横薙ぎによって伸びきった腕を狙ってレギさんが一撃を放つ!


「返しやがれ!」


鈍い音と共にレギさんの一撃が相手の右肘を叩き切り投げ出された剣は宙を舞う。

テラーナイトの注意はレギさんに向けられたので俺はヘイルさんの剣を追い、代わってリィリさんが前に出る。

正面でレギさんがテラーナイトの攻撃を捌きながら反撃をしかけ、リィリさんが側面から関節を狙って攻撃を仕掛ける。

テラーナイトの注意がリィリさんに向きそうになるとレギさんが肉薄して注意を引き戻す。

少しだけ間合いをずらしたリィリさんは背後に回り込みながら足の関節を狙う。

先程レギさんが切り飛ばした腕は再生する様子はない。

再生能力とかはなさそうだね。

リィリさんの関節への攻撃も蓄積しているはずだが、魔物の動きは鈍る様子がない。


「相変わらず、斬っても斬っても動きが鈍らないわね!」


「アンデッドはどいつもこいつも頭ちゃんと働いてないからだろうな!」


「今、私の事馬鹿にしたでしょ!レギにぃ!」


「俺はそんなつもりはなかったけどな!もしかして自覚あったか!?そりゃすまねぇ!」


「はぁ!?私はいつでも聡明だし!?レギにぃこそ頭皮ちゃんと働いていないんじゃない!?」


「ちゃんと働く頭皮ってどんな感じだよ!」


何故かテラーナイトを挟んで口喧嘩を始めるレギさんとリィリさん。

しかしその手は休むことなく果断に攻め続けている。

少しだけテラーナイトに同情するな......少なくとも俺はあのポジションに絶対に立ちたくない。

そんなことを考えていると掬い上げるようにレギさんが魔物の左腕を脇から斬り飛ばす。

さらにリィリさんが攻撃を続けていた右膝を断ち切った。

バランスを崩して倒れるテラーナイト。

残されているのは右腕と左足のみ。

右腕も肘から先はないけど......もはやここからテラーナイトに逆転の目はないだろう。

弱点を狙うのは難しいけれど、首を刎ねれば終わりかな......。

ただ、この魔物はダンジョンのボスだこいつを倒すということはダンジョンを攻略するということ。

そしてそれはダンジョンによって生み出されたすべての魔物が魔力へ還るという事。

レギさんとリィリさんは倒れたテラーナイトを静かに見下ろしていた。

俺はヘイルさんの剣を握りしめ、二人を見つめる。

二人の決断は......分かっている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る