第291話 流石マナス



「ただいま戻りました。そちらは問題ありませんでしたか?」


幻惑魔法によって隠された通路を探索していた俺達は、一度ナレアさん達が待機している場所まで戻ってきていた。


「無事に戻ったようで何よりじゃ。それで早速で悪いが、先程連絡してきた件じゃが......詳しく聞かせてもらえるかの?」


「はい。昨日初めて幻惑魔法を見た後、マナスが色々と試行錯誤していてくれたらしく......昨日の時点ではまだ確証がなかったようなので教えては貰っていませんでしたが、今日何度か試してみてようやく確証出来たみたいです。」


「ふむ......どのように幻惑魔法を無効化したのかの?」


「文字通りと言いますか......幻を消し去りました。幻を作っている魔力をマナスが吸収してしまったみたいなんですが、その吸収した魔力を魔晶石に込めることで処理できるようになったみたいです。」


「そう言えばマナスは魔晶石の魔力を吸収したり戻したりできるんじゃったな。それの応用ということかの?」


「そんな感じだそうです。魔晶石を使わずに吸収するのはまずかったようで、吸収した魔力の処理方法を悩んでいたみたいですが......それを解決出来たので、これからは幻を消すことが出来るようになりました。」


「それは非常に助かるな。」


傍で聞いていたレギさんも自分の肩に乗っているマナスを撫でている。

リィリさんもマナスを両手で高く掲げている。


「流石マナスちゃんだねー。」


「うむ、相変わらず頼りになるのじゃ。」


「マナスのお陰で比較的安全に探索を進められそうですが、どうします?全員であの先に進みますか?」


幻を消せると言っても、マナスが触れられなければ消すことは出来ない。

マナスが身体を伸ばしたりすればある程度離れている位置の幻も消すことが出来るけど、遠距離って程の距離ではない。

慎重に進まなければならないことに変わりはない......まぁ、かなり楽にはなったと思うけど。

幻の中にいる間中、緊張しっぱなしだったからね。


「そうじゃな......対抗手段がみつかったのなら全員で行動した方が良いじゃろう。マナス本体じゃないと出来ぬのかの?」


「いぇ、分体でも問題なく出来るそうです。」


「では念の為、このまま妾たち全員に付いてもらうとするかの。万が一の時もそれで何とかなるじゃろ。」


ナレアさんの言葉にレギさん達が頷く。

わざわざ戦力を分散させるよりも、一塊で動いた方が良いと思う。


「分かりました。」


連絡用にそれぞれの肩の上にマナスが乗っているのでこのままでいいだろう。

神域産の魔晶石をマナスに渡しておけば上手いこと使って幻惑魔法を解除してくれる。


「前衛は僕達が行きます。」


「シャルは括り付けたままなのかの?」


「そうですね......手を開けておきたいですし、このまま行こうと思ってます。」


マナスが幻を消してくれるとは言ってもシャルによる幻惑魔法の感知はしてもらいながら進んだ方が良い。

なのでシャルには引き続き五感を殺してもらう必要があるので運搬役は必須だ。


「なんなら妾がシャルを抱いておいてもいいのじゃぞ?括られるのは苦しかろう。」


確かに、ちゃんとしたおんぶ紐ってわけじゃないし、苦しかったかもしれないな......。

今の所戦闘はなかったけど、この先魔物に襲われでもしたらね......。

この場所に戻ってきてからシャルは五感を元に戻してもらっているので俺達の会話は聞こえている。。

そのシャルがナレアさんの方をじっと見ていた。

恐らく念話で何かを伝えているようだけど......微妙にナレアさんが面白そうな、不愉快そうな......なんとも言い難い雰囲気で話を聞いているようだ。


「......まぁ、シャルはケイが連れておいた方が良さそうじゃな。その方がシャルは集中できそうじゃ。」


「苦しくない?シャル?」


『はい、問題ありません。それにこの先に進むのであれば、誰に運ばれるにせよ極力両手は開けておいた方が良いと思いますので。ケイ様がお嫌でなければこのままお願いしてもよろしいでしょうか?』


「うん、俺の方は問題ないよ。じゃぁ、シャルはこのままで......マナス、グルフにも分体を配置しておいてもらえるかな?」


俺が肩にいるマナスに言うとすぐに分裂したマナスがグルフの方へと向かって行く。

これで準備は出来ただろうか?




「これは......本当に助かるな。」


先頭を行く俺......いや、その肩に乗っているマナスが片っ端から幻を無効化していく光景を見てレギさんが感嘆の声を上げる。

身体を変形させてシャルからの指示でどんどんと幻を消していくマナスは、何か地形を作り変えていっているように見える。


「シャルが幻を見つけて、マナスがそれを喰らうか。見事な連携じゃな。」


行き止まりと見せかけて通路、通路と見せかけて落とし穴。

何もない通路と見せかけて鍾乳石が顔を狙っていたりと......マナスが幻を消してくれていなかったら遅々として探索は進まなかっただろうね。

マナスががんがんと幻を消していって、魔晶石に魔力が込められていく。

まぁ、魔法に使われている魔力なので一つ一つはそこまでの量ではないみたいだけど、これだけあっちこっちに仕掛けられていたらそれなりの量になってそうだね。

それにしてもこの通路に入ってからの幻は数が多すぎるな......そもそも幻惑を見破ることが出来なかったらここまで来られないと思うけど......偶然ここまで来れるような強運の持ち主は......普通に考えてありえないだろうね......罠や分かれ道の数は十や二十ってことは無かったしね。

幻に隠された分かれ道や落とし穴の底にあった通路......枝分かれしている通路を一つ一つしらみつぶしに調べて行く俺達。

罠による危険は殆ど無かったが......とにかく迷路のような構造に疲れを覚え始めたところ、ふと幻ではない何かに触れた感じがする。

......これは!

俺は大急ぎで後ろに跳び退る。


「どうしたケイ!?」


後ろを歩いていた皆も俺の咄嗟の行動に警戒を強める。


「すみません......恐らくここから先が神域です。結界があるのを感じました。


あの空気が変わった感じは母さんや応龍様の神域で感じたものと同種のものだ。

結界を破った感じは無かったけど......触れたことで少し中の空気を感じてしまったってところだろうか?。


「ということは......この先が神域ということじゃな......。」


ナレアさんが目を凝らす様にして前を見ているけど......結界は見えないと思う。

ってかレギさんも母さんの神域に行ったときに似たようなことしていたな。


「神域用に魔力への耐性、後は身体機能の強化を掛けますね。」


俺はナレアさん達に強化魔法を掛ける。

神域に普通の人が入ると魔力の濃さで精神がやばいらしいからね......。

皆が体験する神域はこれで三つ目だけど......今までの神域とは状況が全然違う。

今まではちゃんと招かれていたけど、今回は侵入者だ。

仙狐様の眷属の方達が全力で俺達を排除しに襲い掛かって来たとしても何ら不思議ではない。


「......話、聞いてもらえますかね?」


「妾達は招かれたわけでは無いからのぅ......いきなり神獣に襲われたり......しないとは言い切れないのう。」


眷属じゃなくって仙狐様に襲われたらかなりまずいな......。

正直一瞬でも耐えられるとは思えない。


「......一先ず、神域には僕だけで行った方が良いかもしれませんね。」


「む......。」


俺の言葉にナレアさんが眉を顰める。

でもこの判断は間違っていないはずだ。

俺と......後はシャル。

この二人で行く方がいいだろう。

神域の中に入って、シャルに交渉してもらう......俺は母さんの子として身の証を......どうやって立てたらいいか分からないけど......今まで神子ではないと疑われたことは無いし大丈夫だと思う。

いくら仙狐様と母さんの仲が悪いからっていきなり襲われたりは......しないよね?


「......そうだな。俺達が着いて行くよりもケイだけで行った方が話はうまく進むんじゃないか?」


「うん......私もそう思うな。」


「......うむ......そう、じゃな。」


レギさんやリィリさんも俺の言葉に賛同してくれて、それを聞いたナレアさんが苦し気にではあったが同意してくれた。


「すみません、ナレアさん。僕とシャル、後は連絡のつなぎとしてマナスの三人で行こうと思います。結界を破って入らないといけないので、もしかしたらここに残っているナレアさん達も危険かもしれません。十分に気を付けてください。」


「......分かったのじゃ。今まで以上に気を付けてくれ。」


「はい。分かりました。ファラ、シャルに五感を戻して付き添う様に伝えてくれるかな?」


俺は結界に向き直る。

遂に仙狐様と会えるところまで来た......。

物凄く緊張する......穏便に話が出来るといいなぁ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る