第213話 怪しいから本命なんです



『お待たせ致しました。ケイ様、皆様。』


グラニダの領都に到着して宿で一休みしていた俺達の元にファラがやってきた。

ファラの部下であるネズミ君達が伝えてくれる情報も本当に助かっているけれど、直接ファラから聞けるとなると......安心感が違うんだよな。


「お疲れ様、ファラ。長いこと情報収集してくれてありがとう。」


でも情報はファラから直接聞いたほうが安心感があるって伝えるのは......喜んでくれるかもしれないけれど、俺がそう言ったらファラは無茶をしてでも極力俺に直接情報を伝えようとしそうだし......これは胸に秘めておこう。


『いえ、合流まで時間が掛かってしまい申し訳ありません。』


「頑張ってくれていたんだから感謝こそあれ、咎める部分は見当たらないよ。ファラと直接話せなくてもファラが送ってくれた情報のお陰でかなり助かったからね。」


ファラが優先して送ってくれたエルファン卿の情報のお陰で、カザン君とノーラちゃんは家族と再会を果たすことが出来たのだからね。


『お力になれたようで何よりです。』


俺がファラの頭を指で軽く撫でると、ファラが嬉しそうに俺の指に頭を擦り付けてきた。

ずっと外で活動していたはずだけど、毛並みは綺麗だな。

シャルみたいに毛が長いわけじゃないけど、少しふかふかしていて気持ちがいい。


「それじゃぁ、ファラ。そろそろ話を聞かせてもらえるかな?」


『承知致しました。』


俺に撫でられていたファラがテーブルの上に移動する。

今この部屋にはグルフを除く全員が揃っている。

皆も真剣な表情でファラを見つめている......どんな話が聞けるだろうか......。


『まず何からお話すればいいでしょうか?』


「最初はやっぱり......核心からですかね?」


「そうじゃな。」


俺の言葉にナレアさんが頷く。

レギさん達も異論はないようだ。


「じゃぁ、ファラ。グラニダに仕掛けられた陰謀についてどこまで分かっているかな?」


『私共が調べた所、今回の陰謀は外の勢力による物とも、内の勢力による物とも言えます。』


「外の勢力と内の勢力が手を結んだってこと?」


『いえ、外の勢力が送り込んで来た者達がグラニダ領内で権力を持つに至っており、その者達による計画です。』


「なるほど......その、外の勢力って言うのはグラニダの周辺勢力のことなのかな?」


『いえ、そうではないようです。まだ正確には調べられていないのですが、かなり広範囲で活動している組織のようです。』


「なるほど......その組織の事やなんでグラニダを狙ったのかは分かってるかな?」


『申し訳ありません。そちらはまだ調べられていません。』


ファラが頭を下げる。


「そっか......とりあえず権力を持つほどグラニダの中枢にいるってことは、結構長い時間をかけて入り込まれていたってことだよね?」


『はい。三年近く前に初めて領内に現れたようです。最初は傭兵団としてダンジョンの攻略に参加、その功を持って正規の兵として......それから二年程で兵士長になっています。』


......名前を聞くまでもない人物のようだね。

大本命がそのまま犯人だったパターンかぁ......。


「一応聞くけど......その人物の名前は?」


『アザル兵士長です。』


ですよねー。


「証拠はあるかな?」


『残念ながら......物理的な証拠となると......部下がアザル兵士長とその部下の話を聞いただけですので......流石に計画の資料等が保存されていることはありませんでした。』


まぁそりゃそうか......陰謀をわざわざメモに書き留めてはおかないよね。


「どんな話だった?」


『どうやら彼らは元々の計画を失敗していたようです。三年前傭兵としてグラニダに来た時に何かしらの計略に失敗して、その予備計画として今回の件が引き起こされたようなのです。』


「元々の計画の予備か......彼らの狙いは?」


『狙いはカザン様、ノーラ様の身柄の確保です。』


カザン君達に手配書を生存のみでかけていたのはやはり身柄確保が狙いだったからか。

でも......その手配書を流し見した程度でカザン君達を殺して確保しようとしていた人達がいたのだから......逆効果なんじゃないかな?

金額に目が行って条件をしっかりと見ていなかったとかなんだろうけど......生存した状態で確保したかったのなら完全にアウトだ。


「......なんで二人を狙っているかは分かる?」


『申し訳ありません。正確なことは分かっていないのですが、アザル兵士長がお二人の事を成功例と言っているのを聞きました。』


「成功例?どういう意味だろう?」


「あの二人が何らかの実験の被験者......と言うことじゃろうな。」


実験の被験者......なんか嫌な響きだな......。


「ケイがどういう風に考えておるかはなんとなく分かるが......人体実験というと少し聞こえが悪いかもしれないが......臨床試験と言えばどうじゃ?」


「......なるほど。」


治療実験の成功例......ってことであれば心当たりはあるな。

記憶を失った件、もしくは意識不明からの回復。

あるいはその両方か。


『申し訳ありません。成功例と言う言葉以外では彼らを確保しようとする理由について調べられていません。』


「いや、相手の狙いが分かっただけでも十分だよ。」


それにしてもカザン君達を確保するためだけにこんなことをしでかすだろうか?


「相手の狙いがカザン君達の確保と言うには随分規模がデカくないですか?適当に誘拐でもした方が確実だと思うのですけど。」


『その点についても調べがついています。カザン様達の確保が彼らの主目的、ですが今回の事態を引き起こしたアザル兵士長の目的は三年前の計画失敗に対する自身の信用の回復、そして失敗の原因となった領主への復讐のようです。』


......いや、陰謀なんて基本的に自分勝手な理由で計画されるものかもしれないけど......それはあまりにも無茶苦茶な理由じゃないか?

なんかグラニダとは関係の薄い俺でも......かなりイラっとするのだけど。

皆の表情を見ると俺と同じような心境なのが伝わってくる。

レギさんは不快そうな表情を浮かべているし、ナレアさんとリィリさんは能面のような無表情って感じだ。

俺達はグラニダと関係は無いに等しいが......カザン君達の事は依頼人というよりも友人として考えている。

どんな理由で彼らを狙っているのか分からないが......それだけでも非常に腹立たしいのだけれど......今回の件を引き起こした理由が、失った信用の回復だの復讐だのこれ以上ないくらい身勝手な理由だ。

そんな理由でカザン君達のお父さんは命を失い......いや、内乱が起こっているのだから失われた命は一つや二つじゃないはずだ。

それは......ふざけ過ぎじゃないか?

まだ直接会ったわけでもない相手に、こんな気持ちになったのは初めてだ。


「......アザル兵士長ってどんな人物なのかな?」


『周囲の評価は武力以外の点についてはかなり悪いです。影響力のある軍部についても上層部からは軒並み嫌われているといっても差し支えありません。逆にその人となりを知らない一般の兵やダンジョン攻略に参加した兵士からは英雄のように敬われているようです。』


力はあるけど性格は最悪ってことか......これもカザン君から聞いていた通りみたいだね。


『常にイライラしていて周囲の人間に当たり散らすのは日常茶飯事。刃傷沙汰も珍しくありません。死者は出ていませんが......偶々出ていないだけと言った感じです。本人は思慮深く行動していると嘯いていますが、非常に直情的で短絡的な思考をしています。』


ファラは情報に私見を交えず、客観的に見てくれていると思うのだけど......そうであっても酷い評価のようだね。


『失敗は他人のせい、成功は自分だけの物。傭兵団を率いていた時からそういう思考だったようでダンジョン攻略後に正規兵として取り立てられた後、傭兵団の時代の殆どの部下がグラニダを離れているようです。』


本人を直接知らない人間からは敬われて、近くにいる人からは人望がない。

傭兵団を率いていたわりに人心掌握が下手ってトップとしては致命的じゃないか?

それともコルキス卿のように傭兵団時代もそっち方面をサポートしてくれる人間でもいたのだろうか?


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