第214話 アザル兵士長の戦闘力



「そう言えば、センザの街でくれぐれも注意するようにって言われていた、アザル兵士長の戦闘能力ってどんなものなんだろう?」


セラン卿やトールキン衛士長から相当な強さだって聞かされていたけど......トールキン衛士長との模擬戦をしてからは恐らく大丈夫、みたいな評価に変わったんだよね。


『ダンジョンを攻略しているだけあって武力は確かに優れていると言えます。』


ダンジョン攻略者か。

たしかトールキン衛士長から貰った資料にダンジョンの規模が書いてあったけど......東方の基準で書かれた資料だったから、レギさんでもどの程度の難易度の物か判断が付かなかったんだよな。

恐らく中規模くらいの難易度だろうって話だったけど。


「傭兵を率いてダンジョン攻略に挑んで、ボスとの戦いでは最前線......ボスの正面に立って戦ったんだっけ?」


『はい。兵を指揮しボスとの戦いのみ前に出たのであればここまでの評価は受けなかったと思います。ですが、ダンジョンでは常に最前線に立って魔物を屠り、ボスとの戦いでは一番危険な正面に立ちダンジョン攻略に最も貢献した人物と言われています。』


そこだけ聞くと本当に凄い人物、英雄って感じなのだけど......。


『しかもボスと戦いはおろか、ダンジョン攻略中に一度も傷を負わなかったと言われています。』


「一回も?それは凄いね......。」


「ケイ達が攻略したダンジョンはどうじゃった?」


「多分あの時のダンジョンで怪我はしなかったと思いますが......僕は強化魔法を使っていましたからね......強化魔法も無しにそんなことが出来るって言うのは物凄いことですよね?」


ナレアさんの問いに俺は答える。

ダンジョンでの怪我というと......村の子供たちが入ってしまったダンジョンでレギさんが負傷してしまった時の事を思い出す。

あれはちょっと特殊な状況だったけど......ダンジョンの魔物の恐ろしさは分かっている。

強化魔法のかかっていない状態で攻撃を受ければ、例え魔力による補正があったとしても簡単に怪我をするし......あっさりと死ぬ。

そんなダンジョンの魔物......いや、ボスを相手に無傷......やはりとんでもないな。

正直俺は魔法が無ければダンジョンには近づこうともしないだろうね。


「そうだな......少なくともそんなことが出来る奴を俺は一人も知らないな。」


「うん......ダンジョンは入念に準備を重ねてもなお何が起こるか分からない場所だからね......いくら多くの兵を率いていても前線に立っている人間が傷の一つも負わないなんて異常だよ。」


......暗にリィリさんは俺の事も異常って言っていませんかね?

いや、魔法を使わずに傷を負わないって話だから俺には当てはまらないな。

考えすぎか。


「そうじゃな、ケイはちょっと......いや、かなりおかしいのじゃ。」


......あれ?

アザル兵士長の話じゃなかったっけ?


「ケイがおかしいのはさておき......アザル兵士長も確かにとんでもないな。何か魔法でも使えるんじゃねぇか?」


......何か微妙に引っかかるな......でも、アザル兵士長の話に戻るのは俺も賛成だ。


「ファラ、その辺は分かったりする?」


『恐らくではありますが、アザル兵士長では魔法を行使することは不可能だと思います。彼の者の魔力量はさして多いとは言えません。龍王国の巫女程も無いと思われます。今まで私が見てきた人間とさして変わらぬ量......多少多いと言った程度です。』


「なるほど......魔法の込められた魔道具を起動出来る程は無いってことだね。」


『はい。』


魔法を使うこともなく、魔法を込められた魔道具を使うこともなくそんな戦闘力なのか......。


「レギさん達は魔法無しでアザル兵士長と同じことが出来ますか?」


「無理だな。」


「今の体なら......出来るかもしれないけど......自信はないかなぁ。」


「妾はあまり正面で戦うことは無いからのう......魔道具を駆使すれば......一度や二度の戦闘であれば何とかなるかも知れぬが......ダンジョンの攻略中一度も傷を負わないと言うのは難しいじゃろうな。」


リィリさんはともかく、レギさんやナレアさんでも難しいと言うことを出来る人か......。

もし戦うことがあるようなら、今までみたいに力押しをしたら手痛い反撃を受けそうだな......。


「ファラ。アザル兵士長がどんな戦い方をするかは分かる?」


『直接戦っているところを見ることは出来ませんでした。最近は領主館に篭り外出することも、鍛錬をすることもないので。』


「なるほど......引きこもっているなら無理だろうね。」


『申し訳ありません。一応伝聞ではありますが情報はありますが、そちらでもいいでしょうか?』


「うん、聞かせてくれるかな?」


『承知いたしました。武器は剣を二本、リィリ様が使われている剣よりも少し長い物と短い物を使うようです。武器については携えている所は確認しているので間違いないと思います。』


「双剣使いか......ちょっと戦いにくそうな相手ですね。」


「そうだな......俺も苦手な相手だ。」


レギさんは間違いなく俺と同じ人......リィリさんの事を思い浮かべていると思う。

まぁ俺はリィリさん以外の双剣使いと戦ったことはないけどね。


『魔道具も数多く持っていて、中距離では魔道具を使って戦うようです。』


聞けば聞くほど凄い人だな......なんでそれだけの戦闘力を持っていて性根がねじ曲がっているのか......。

普通にしていればそれだけで尊敬を集められそうなものだけど。

グラニダの実権を握ることも簡単に出来そうなのに、それもどうでも良さそうな感じなんだよな......。

実際コルキス卿の好きにさせているみたいだしね。

本当に復讐とカザン君達の事しか興味がないのだろうか?

もしくは......元居た組織......今も所属しているのかもだけど、そっちでの失点を取り戻すことの方がグラニダのトップに立つよりも重要ってことかな......?


「聞いている限りじゃ相当な腕の持ち主のようだが......ケイ、もし戦うようなことがあったとしたら......気を付けろよ?」


レギさんが俺に注意を促してくる。

間違いなく、アザル兵士長は今まで戦った相手の中でも最上位の戦闘力を持っていると思われる......決して油断はしない。


「はい。けして油断はしません。」


俺がそう返事をするとレギさんが微妙な表情に変わる。

何かおかしなことを言っただろうか?

いつものレギさんであれば、慎重に慎重を重ねろって言うと思うのだけど......。


「あぁ、まぁ、油断しないのはいいことだが......いきなり全力で強化をかけて攻撃したりするなよ?」


「あー、はい。それは十分注意します。」


さっきの注意はやり過ぎに気を付けろってことか......。

確かにいくらアザル兵士長が強くても、遺跡で戦ったゴーレムより体が硬いってことはないだろうしシャルのように素早くは動けないだろう。

ナレアさんのように多彩で威力のある遠距離攻撃も無理だろうし、強化した状態のレギさんのように鉄壁の守りと重たい一撃を両立させることは難しいはずだ。

そしてリィリさんのような呼吸する暇もない程の連続攻撃は、普通の人間には出来るものじゃない。

普通の実力者ってどのくらいの強さで攻撃していいものだろうか?

......普通の実力者って変な表現だな。

やっぱり有効なのは弱体魔法かな?


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