第169話 東の地に行く前に



『そうか、神域の事も鳳凰の召喚魔法の事も聞いたのだな。』


「はい、応龍様。」


今俺たちは応龍様の神域に来ている。

今回はレギさんやリィリさんも神域に連れてきたかったので龍王国を経由せずに直接クレイドラゴンさんの聖域に行ってから連れてきてもらったのだ。

聖域は神域と違って結界のようなものもなく、シャルが位置を把握していたから来ることが出来た。

ヘネイさんや龍王国の方々には申し訳なくはあるけど......誰かに付けられたりしないように注意は全力でしたのでなんとか許してもらいたい。

とりあえず応龍様に頼まれていた母さんへの言伝の件を伝えて無事依頼を果たしたことを報告したのだが。


『天狼の神域に召喚されたのはケイの持ち物とケイ......どちらかと言うとケイ自身のようだな。』


「そうですね。おそらく持っていた物だけが先に送り込まれてしまったのだと思います。」


『魔神を倒すために同等かそれ以上の災厄を呼び出す可能性を考えなくはなかったが......呼び出されたケイにとっては人災以外の何物でもないだろうが、我らとしては安心できたな。』


まぁその辺は母さんに何度も謝られているしな......。


「まぁ魔神との戦いの最中に僕が呼び出されていたとしても何の役にも立たなかったと思いますけどね。」


『......鳳凰は一体どのような条件で召喚を行使したのだろうな。』


それは非常に疑問ですね......鳳凰様に聞いてみたかったと思いますが。


『まぁそれはよい。それでケイよ、この神域に召喚された物も確認してくれるのだな?』


「はい。知っているものかどうかは分かりませんが、確認してみます。」


これが今回応龍様の神域に来た理由だ。

母さんから話を聞いた時にこちらでも召喚されたものを確認してほしいと言われたのだ。

無駄に神域間を移動させて申し訳ないとは言われたが、まぁ事情が事情なだけに仕方ないよね。


『では着いてきてくれ。』


そう言った応龍様が俺たち全員に魔法を掛けてくれた。


「うぉ!?」


レギさんが驚いた声を上げる。


『む、すまない。驚かせたようだな。体の力を抜いてくれていい、私が安全に運ばせてもらおう。』


応龍様の声と同時に俺たちはゆっくりと上昇していく。

レギさんの顔は緊張したままだったが......気持ちは分かる。

俺も自分で飛べるようになったとは言え、自分の意志は関係なく空を飛ぶのは怖すぎる。

不安な空の旅は数分もかからなかったが、レギさんの顔色は青を通り越して真っ白に近くなっている。


「レギにぃ、私よりよっぽど死人みたいだよ。」


「リィリは血色が良いのじゃ。」


......うちの女性陣は全く動じないな。

神域に来る時にクレイドラゴンさんの背中に乗って飛んでいた時はレギさんも大丈夫そうだったけど、やはり体を支えられるものがあるかどうかの違いだろうか?

地面に降りたレギさんはほっとしたような雰囲気を出している。

顎に手を当てたまま地面を見ているが......なんとなく地面の事を愛おしそうに見ている気がする。

まぁ、とりあえず今はレギさんのことはいい、それよりも......。


『ケイ、これだが......分かるか?』


「いえ......これは何でしょう?金属の球体のようですが......これだけじゃ僕の世界の物かほかの世界の物かはちょっと分からないですね......。」


俺の目の前には、銀色の球体が母さんの神域で見た俺のスマホと同じように空中に縫い留められている。


『やはりそうか......これを開放することは出来なさそうだな。』


応龍様が残念そうに呟く。

ただの金属の玉って可能性もあるけど......俺が知らないだけで爆弾って可能性もあるし、他の世界の大量破壊兵器ではないとは言い切れないしね。


『天狼の所の召喚物は開放するのか?』


「そうですね......あれはこの世界だと機能は制限されますけどそれでも結構便利なので使いたいとは思いますが......燃料的な問題があるのでそれを何とかする方法を確立する必要がありますね。」


『危険なものではないのだな?』


「道具は使い方次第ではありますが......とりあえず直接的な危険はないと思います。使われている文字も別の世界の物なので、この世界の人では解読も容易ではないと思います。」


『しっかりと管理が出来るのであれば問題なさそうだな。』


まぁ、この世界の人では何もできないと思う......指紋認証も付いているしね。

意味不明なアイテムな上、セキュリティがあることすら気づくのは難しいだろう。


『仙狐の所でも召喚物は見てやってくれ。危険がない物の様であれば神域を維持する必要もなくなるしな。』


「そうですね。仙狐様と妖猫様の所でも確認させてもらおうと思います。」


『そうしてやってくれ。』


応龍様の神域では残念ながら力になれなかったけど、他の方の所はもしかしたら俺の知っているものが召喚されている可能性もある。

魔神との戦いの為に呼び出した物であれば封じたままの方がいい可能性は高いけど......俺のような例もある。

戦闘とは何も関係ない物が呼び出されている可能性も零ではない。

魔神の干渉もあったみたいだしね。


「承知いたしました。それと応龍様、仙狐様の事を聞きたいのですが......。」


『仙狐の事を?何を聞きたい?』


「えっと......母と仙狐様はあまり仲が良くないようですが......。」


『はっはっは。そうか、あの頑固娘は未だに仙狐の事が嫌いか!』


応龍様が機嫌良さそうに笑いだす。


「母から聞いた感じでは......そうですね。」


『そうだな......二人の仲は......はっきりと悪いな。』


......ですよね。


『仙狐は婉曲的な物言いをするからな、天狼は率直なので非常に相性が悪いと言える。』


水と油な感じか......。


『まぁお互いに相性が悪いのは理解しているからな。極力関わらないようにしていたな。』


それは相当仲が悪い感じ......顔を合わせたら確実に喧嘩になるっ言っていますよね?


『天狼の事を嫌っているとは言え、その子の事まで嫌うような狭量な者でもない。心配せずに会いに行ってくると良い。』


「......分かりました、ありがとうございます。」


母さんから敵意をヒシヒシと感じたからな......少し警戒し過ぎたか。

会いもせずに警戒するのは仙狐様に失礼だったな。


『ケイよ。私達の世界の事情に巻き込んでしまい、お前には多大な迷惑をかけている。本当に申し訳ない。』


応龍様が俺に向かって頭を下げる。


「応龍様、頭を上げてください。確かにこの世界に来ることによって失ったものはあります。ですがそれと同じくらい大切なものがこの世界でも出来ました。今はこの世界の事を楽しんでいますし気になさらないでください。」


『そうか。』


「まぁ、困ったときはお力添えいただけると助かりますが。」


『いつでも来ると良い。喜んで力になろう。』


応龍様が笑みを浮かべているように感じられた。




応龍様の神域から出る前にリィリさんの状態について心当たりがないか応龍様に聞いてみたのだが、残念ながら思い当たる節はないと言われてしまった。

残念ではあったが俺たちはそのまま神域を辞して龍王国の王都に向かい、東方に行く前にヘネイさんに挨拶に来ていた。

今はヘネイさんの家で気づかわし気なヘネイさんとナレアさんが会話をしている所だ。


「皆様、これから東に向かわれるのですよね?」


「うむ、何か向こうの情報はあるじゃろうか?」


「どの辺に向かわれるのですか?」


「ここより北東の方を目指すのじゃが......。」


「北東ですか......確か目立った大国のようなものはなく、小国とも呼べぬような領土を持った国々が争っている地ですね。南東の方には少し大きめな国もあるのですが。」


「ふむ......かなり厳しそうな土地じゃな......。」


「そうなりますね......治安も当然ながらあまりよくありません。」


「まぁただの野盗程度であれば問題はないがのう。」


「ナレア様たちのお力であれば大丈夫だと思いますが、やはり心配ではあります。」


ナレアさんだけではなく、俺たち全員を見ながらヘネイさんは言う。

前回ここに来たときは非常に恐ろしかったが、やはり普段のヘネイさんはとても優しい女性だ。


「ほほ、すまぬのう。ところで、黒土の森と言う場所を知らぬか?」


「黒土の森、ですか。寡聞にして聞いたことがありませんが、良ければ情報を集めましょうか?」


一瞬ナレアさんが俺に視線を向けたので俺は首を軽く横に振る。


「東の地の情報を得るのは難しいじゃろ?それにあまりその辺を探っていることを大っぴらにするのは良くないしのう。」


「そうでしたね。恐らく神獣様と関わりがある場所。外に出せる情報ではありませんね。」


「まぁもし知っていればといった所じゃったからな。自分たちで足を使って探すしかないじゃろう。」


「お力になれずに申し訳ありません。」


一応ある程度場所を絞り込んでいるとは言え、かなりふわっとした絞り込みだ。

森があったのも四千年前の事だし......大樹海になっている可能性も、荒野になっている可能性もある。

どちらの場合でもそう簡単に神域が見つかるとは思えないけど......がんばって探してみよう。


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