第480話 魔力の性質
View of ナレア
「切っ掛けとなったのは......やはり数年前に手に入れた神の魔力なのです。」
御母堂......いえ、けして御母堂のせいではありませんが......この者に随分と影響を与えているようなのじゃ。
「初めの頃はその魔力の量に驚き、歓喜していたのですが......ある日、魔力の質の違いに気付いたのです。」
そう言えば先程、質と量の違いとか言っておったのう。
「それで興味を持って調べていく内に神の魔力、ダンジョンの魔力、そして人の持つ魔力。それらは全て異なる性質をもった魔力であることに気付きました。ダンジョンの魔力の性質は御存じではないですか?」
......ダンジョンの魔力の性質......。
「魔物を生み出す、ということかの?」
「それは結果、ですね。その性質は吸収、結合になります。魔力の結合によって生み出されたものがダンジョンの魔物という事になります。」
「ふむ......そういうことであったのか。」
なるほど......魔力の結合による魔物の身体、結合の力を無くすことで魔力に還るということじゃな。
「吸収はその名の通り、ダンジョンの魔力とは異なる魔力を取り込み自分と同じ魔力に替える性質になります。」
ダンジョンを放置した時に起こる現象の事じゃな......。
しかし......なんというか、吸収と聞いた時にそれだけではない様な気がしてきたのじゃ。
何処に引っかかったのじゃ......魔力......吸収......質......神の魔力とダンジョンの魔力と人の魔力......?
「......先程神の魔力、ダンジョンの魔力、人の魔力と分けて言っておったの?自然の魔力はどれに属するのじゃ?」
妾がそう問いかけると満面の笑みを浮かべるキオル。
「自然に存在する魔力は人の魔力と同等です。恐らく逆だとは思いますが。」
「自然の魔力を人が宿しているということじゃな?」
「えぇ、私はそう考えています。そしてここからが何故ダンジョンを減らしてまで一つのダンジョンを生み出すのかという話になるのですが......ひとえにダンジョンの役割によるものです。」
ダンジョンの役割......ふむ......凡そ予想が出来たのじゃ。
「魔道国の王都をダンジョン化する......即ち、その土地の魔力だけではなく、人の持つ魔力をダンジョンの魔力に吸収させる......王都に住む民を生贄にするということじゃな。」
「その通りです。その作戦を任されていたのは私ですが......まぁ、もう実行する必要はありませんがね。」
「檻と完全に袂を分かつということじゃな?」
因みに妾はリィリの件とは別にもう二、三発殴ることを決めたがの?
「えぇ、ちょっと最近余計な仕事を振られることが多くなってきましたからね。以前龍王国に仕掛けたのが良くなかったようで、勤勉とでも思われたようです。まぁ彼らの目的のカギとなりうる研究成果を出したというのもあるのでしょうが。」
心底面倒くさそうにため息をつくキオル。
まぁ、非常に遺憾ではあるが......その気持ちは分からないでもないのじゃ。
自分のやりたいことに専念したい時に、やりたくもない事を押し付けられて煩わしく思うのは......まぁよくあることじゃからな。
「魔力やダンジョンについては私の目的からすれば副産物のような物ではありましたが、檻にとっては違いますからね。一番檻の目的についてどうでもいいと思っている私が研究を進めてしまうというのは皮肉の様ですが......まぁ、良くある話ですよね?」
それがよくある、かどうかはさておき、長年研究していた物が別の視点からあっさりと進むことは少なくはないかの。
妾の考えている事が分かったのか、満足げに頷いたキオルは言葉を続ける。
「研究資金の面で惜しくはありますが研究の目途は着きましたし、もういい塩梅でしょう。後はいいお話でも聞かせてもらえれば......我々の悲願を達成出来そうです。」
今までとは違う、心の底からの笑顔を見せながらキオルは言った。
まぁ、ここまで話をすれば大体こやつらの悲願とやらは予想出来るのじゃ......。
View of レギ
ケイの回復を待って、俺達はリィリを救うために行動を開始した。
空間を固定することでリィリの安全を確保するという事だったが......正直空間の固定というものが、俺はあまりよく分かっていなかった。
だが、ケイとナレアが太鼓判を押すくらいだから問題はないだろう。
それぞれの役割を決め、俺はクルストと対峙することを望んだ。
この状況で私情を優先していい物かとも思ったが、ケイもナレアも他の事は任せろと言い......俺はその言葉に甘えさせてもらった。
ナレアの幻惑魔法により、今俺の姿はクルストからは見ることは出来ない。
先程の様に奇襲をかける必要はない......俺はクルストから少し離れた位置で斧を構える。
やがて幻惑魔法が解除され、クルストが俺の事に気付き表情を変えた。
「クルストっ!!」
俺が名前を叫びながら大振り気味に斧を振るうと、クルストは咄嗟に構えた剣で俺の攻撃を受ける。
「嘘だろ!?」
その言葉がどれに対する驚愕かは......まぁ、恐らく俺がこの場にいる事に対する驚愕だろうな。
そんなことを考えながら、俺は一度受け止められた斧を力任せに振りぬく!
「っと、相変わらず......いや、普段以上の馬鹿力っスね!」
弾き飛ばされたようなクルストだったが、軽快な動きで着地するとこちらに向かって剣を構える。
右手には普段から使っている短めの剣、そして左手には見慣れない大振りなナイフを持っているクルストは重心を後ろに下げながら言葉を続ける。
「ほんと......一体どんな手品っスか?」
「ナレアに掛かれば、姿を消すくらいどうという事は無いってことだろ。」
まぁ、魔道具ではなく魔法の力だが......嘘は言っていない。
「聞きたかったのはそっちじゃないんスけど......『遺跡狂い』にして魔道具作りの天才っスか。古代の魔道具の力か、それとも作った物か......それによって今後の活動に大きく影響しそうっスね。」
「......檻の活動か。」
俺がそう言うとクルストは何も言わずに斬りかかってくる。
素早い動きで左右に持っている長さの違う武器を振ってくるが、動きに真剣味というか......やる気が感じられない。
明らかに手数で攻めるような武器を持ちながら攻撃に速さも巧さも無く、とりあえず武器を振っている、そんな印象だ。
俺は上段から振り下ろしてきたクルストの一撃を斧で弾き、柄の部分を使いクルストの腹目掛けて掬い上げる様に一撃を放つ。
しかしその攻撃をクルストは後ろに飛び退って躱す。
「はー、盾が無いのは辛いっス。まさか追いかけて来るなんて思ってもいなかったっスから、持ってこなかったのが悔やまれるっス。」
「こんなことをしでかしておいて油断する方が悪い。」
「耳が痛いっス。」
普段と変わらぬ様子で喋るクルスト。
その姿を見ていると、今のこの状況が本当は夢なのではと思ってしまう。
だが......俺はケイの魔法によって固定化されているリィリに視線を向ける。
......これは紛れも無く現実だ。
「ところでレギさん。どうやってここに来たっスか?向こうにあった魔道具はちゃんと壊れたと思うんスけど?」
「......俺が見た感じ壊れていたようだな。」
「壊れていたならどうやってここに?場所を知っていたとしてもそんなすぐに来られるような場所じゃない筈っスよ?」
「さぁな?知りたきゃナレアにでも聞いてくれ。俺は難しい事は分からん。」
斧を強く握りしめる。
「うへ......ホント、元魔王様は一体どうなっているんスかね?本気で千年生きていると言われても信じられるっスよ......っと、女性に歳の話は禁物っスね。」
話せば話すほど......こいつは、俺達の知っているクルストだ。
これ以上離さない方がいいのではないか?
それとも、じっくり話すべきなのか?
ケイやナレアに無理を言ってクルストと対峙させておいてもらっておきながら......俺は迷っている。
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