第481話 憤怒と冷静の間



View of レギ


「クルスト。何故俺達を裏切った?」


腹をくくった俺は武器を構え、正面からクルストの事を見据えつつ問いかける。

クルストは先程までのへらへらした表情を収めこちらを見返してきたが......すぐに先程までの軽薄な様子に戻る。


「それを聞いてどうするっスか?結果は変わらないっス。俺は顔なじみであるレギさん達を裏切って自分達の目的を優先した。それだけっス。」


「何故裏切る必要があった。リィリの命が狙い......と言う訳ではないのだろ?」


リィリの命を奪うだけならとっくにやっているだろうし、その機会はいくらでもあった。

しかし、どういう方法かは分からないが、今の所リィリを無力化して何かを調べているだけの様に見える。


「そりゃぁ......お前の所にいるアンデッドを調べたいから貸してくれ、そう言ってお前達は素直に渡してくれたのか?」


態度を変えこちらを小馬鹿にするような表情をしつつクルストが言う。

しかし......リィリをアンデッドと呼ばれると、心底腹が立つ。

だが......こいつは敢えてそう言う風にリィリの事を呼んでいる。

俺を怒らせる必要がどこにある......?

クルストの狙いは何だ......?

一瞬で頭に血が上ったが、同じ速度で一気に頭が冷える。

狙いは分からないが......挑発に乗るのは愚の骨頂だろう。


「そりゃそうだな。だが話くらいは聞いてやったと思うぞ?」


「......。」


俺の返答にクルストは苦虫を嚙み潰したような表情になる。

やはり、俺を怒らせたかったようだが......やはりその意図は分からない。


「どこまでも暢気な人っスね。それで俺がアレに興味があることがバレたら、その後の動きが取りづらくなるだけっスよ。なら油断している所をかっさらうのが一番いいに決まっているっス。」


「その結果、こうして追い詰められているじゃないか。本当に一番いい方法だったか?」


「......。」


「なあ、クルスト。確かに俺ではお前の力になれないかもしれない。だが、ケイやナレアは違う。お前が友人として助けを......いや、相談を持ち掛けてくれたなら必ず応えたはずだ。」


「......そんな仮定に意味はない。俺は自分の意思で行動してこうなった。確かにお前の言う通り追い詰められてはいるが......まだ終わってはいないぞ!」


叫んだクルストが、先程までとは比較にならない速度で踏み込んでくる。

ケイの眷属となり、強化魔法を使えるようにはなったが、なんとか使えると言った程度で思考加速に至ってはまだ感覚すら掴めていない。

そんな魔法初心者の俺が辛うじて受けることが出来る速度......魔法を使っていない人間が出せるような速度じゃねぇ!

こいつは間違いなく強化魔法の魔道具をもってやがる!


「くっ!」


素早い踏み込みからの一撃を辛うじて受け止めたものの、クルストは軽快ながらも鋭い攻撃を連続で放ってくる。

特に死角から飛び出す様に放たれる左手のナイフが厄介だ。

自分の身体や俺の武器の陰から予期せぬ角度で襲い掛かってくる攻撃は、俺の持つ両手持ちの斧とは相性がかなり悪い。

クルストの連撃の隙間をついて振り払うように斧を薙ぎ、クルストとの距離を開けた俺は斧を手放し腰に差していた剣を抜く。

本当は槍があれば良かったのだが......今回は持って来ていない。

強化魔法のお陰で両手持ちの斧にも拘らず棒切れのように振り回すことは出来るが、やはり取り回しのバランスが悪いから連続攻撃を捌くのには向いていない。

俺の短槍であれば近接戦闘も対応出来たんだがな。


「やはり......レギさんも普通じゃないっスね。大型の武器を扱っているとは思えない動きっスよ。」


「そう言うお前は......随分と人離れした動きをするじゃないか?」


「......まぁ、隠す必要は無いっスね。レギさんも同じ物を使っているみたいっスし。」


そう言ってクルストは左手に嵌めた腕輪を見せる。


「昔の人は凄いっスね。こんな効果の魔道具をホイホイ使っていたらしいっスから。作り方はまだ判明していないらしいっスけど......もしかして元魔王さんはその辺も解明出来ているんスかね?」


「さぁな?俺が魔道具について詳しいと思うのか?」


「まぁ......その辺については、あっちで話しているだろうし、俺達には関係ないっスね。」


クルストがナレアの方に視線を向ける。

ナレアが対峙しているのは......向こうのダンジョンに居た奴か。

確か魔道国の魔術研究所の班長とか言っていたか?

何やら向こうも話し込んでいるようだな。

ケイは......扉の前で戦闘中のようだ。


「奇襲を受けたとは言え......そんな簡単に制圧できるような連中じゃないんスけどねぇ。」


ケイやナレアの周りに倒れている奴等を見ながらクルストがため息をつく。

まぁ、理不尽に感じる気持ちは分からなくもないがな......。


「その魔道具があれば、お前にもできるだろ?」


「否定はしないっスね。」


そう言うクルストは先程の攻防以降、武器を構える事すらしない。

こいつは一体何を考えている?

俺を挑発するようなことを言ったかと思えば、俺が取り合わなければそれ以上の行動は起こさず。

唯一感情的になったのは......俺が相談しろと言った時か?

罰を与えて欲しいとでも思っているのかね......?


「おい、クルスト。」


「......なんスか?」


「お前は俺達を裏切った。そうだな?」


「......今更言うまでも無いっス。」


「......力づくで、自分の目的を果たそうとしたわけだ。」


「実に分かりやすい手段っス。」


「なら当然、力づくで蹂躙される覚悟もあるわけだな?」


「......当然の報いっス。勿論、蹂躙されるつもりは全くないっスけど。」


「そうか。」


俺は右手で構えていた剣を左手に持ち替えると、先程手放した斧を右手で持つ。

本来両手持ちの武器である大型の斧を片手で構えるのは不可能だろう。

だが俺は強化魔法を使うことで強引に斧を片手で構えた。

自分で強化魔法を使うことで分かったことがある。

今までケイが俺に掛けてくれていた強化魔法は、俺の全ての能力を強化するものだったのだろう。

瞬発力、持久力、体力、そして視力等の感覚や思考速度。

ケイが自分自身に掛ける様に細かく調整しつつ、その場その場で最適な物を掛けることが出来ない以上、そういう風にかけてくれていたのだろう。

だが、今俺は自分の意思で強化魔法を使うことが出来る。

勿論、ケイが使っているものに比べれば稚拙というのも烏滸がましい程度の物だろう。

それでも、今必要な強化を自分の意思で掛けることで、戦い方に柔軟性を持たせることが出来るようになった。

ここからは......今俺に出来る全力をもって戦わせてもらおう。

本来は、練習や模擬戦を重ねてから実戦に投入したい所だが......悪いなクルスト、実験台になってくれや。

手加減......出来るかどうかも分からんが......まぁ、お前の動きなら大丈夫だろう?

俺は、全身全霊を込めてお前を叩き伏せ......お前が何を考えているのか、お前の望みは何なのか、力づくで聞き出してやる。

お前の意思は関係ねぇ......俺がそうしたいから、するんだ。


「いくぞ!クルスト!死んでくれるなよ!?」


「化け物じみた力っスけど......冗談は頭だけにして欲しいっスね!」


「よし、殺す!」


俺はクルストに一気に近づくと、全力で右手に持った斧を叩きつける!

その勢いに若干頬をひきつらせたクルストは、俺の攻撃を受け止めるようなことはせず、俺の右側に体をずらして攻撃を避ける。

斧を床に叩きつけたことにより轟音が響くが俺は構わず体を捻ると強引に斧を横に薙ぎ、逃げたクルストに追撃を仕掛ける。

俺への反撃を仕掛けようとしていたクルストはあまりにも強引な追撃に不意を撃たれ、もろに攻撃を受けて吹き飛んで行く。

斧は刃を立てず、腹の部分で殴っただけだが......相当な威力があったはずだ。

しかし、クルストも咄嗟に斧と自分の体の間に剣を滑り込ませていた。

俺は吹き飛んで行ったクルストを追いかけ、さらなる追撃を放つ為に走る。

相当強引な動きをしたため、身体の各所に鈍い痛みが走るが......そんなものは無視して、俺はさらなる強化魔法を自分の体に施した。


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