第397話 少し真面目に考える
クルストさんとの勝負の後、俺達は船旅へと戻っていた。
水門の街から運行してきた船が俺達よりも後に到着したけど、流石にその船には乗らなかった。
ひとつ前の街で降りたのに、次の街で乗り込んでたら明らかにおかしいからね......。
そういう訳でその船を見送った翌日に到着した船で川下りを再開したのだ。
元々乗っていた船と造りは同じ物の様で、ぱっと見同じ船に乗っている気にもなるけど......決定的な違いは甲板があまり生臭くないところだ。
前の船は船員さん達が頑張って掃除をしていたけど結構凄い匂いだったしね。
因みにシェルフィッシュの死体は一つ前の街ですべて買い取ってもらっている。
リィリさんの所望した美味しい部分は船上で捌いてもらって他の乗客の方々にも振舞ったが、中々好評だった。
数時間前に襲われて命の危険があったばかりだというのに、この世界の人達は逞しいね。
「それにしてもあの魔物の襲撃はなんだったのでしょうね?」
港を出港して暫くして、俺達は甲板に集まって話をしていた。
船は結構揺れることもあり、船室にいるとちょっと気分が悪くなりそうだったのだが、港から出て暫くの間は甲板は立ち入り禁止だったのだ。
恐らく出航直後は船員さん達が慌ただしく動き回っていたのだろう。
「先日の襲撃......異様な数の魔物じゃったが......魔物自体はこの辺に普通に生息しておるものじゃったのう。」
俺が水面を見ながら呟くと、隣にいたナレアさんが少し考え込むようにしながら答えてくれる。
「魔物の異常発生とかですかね?」
「あまり聞いたことが無いのう。そんな事態が起こっておるなら、こんなに暢気に船が行きかっているはずないしのう。」
「少なくとも水門の街を含めて、今日まで通って来た街のギルドではそんな話は聞かなかったぜ?」
傍にいたレギさんもギルドでの話を教えてくれる。
「魔物を買い取ってくれた街のギルドもあまりの魔物の死体の数に驚いていましたしね。」
あの数の魔物を討伐したことよりも、あの数の魔物に船が襲われたことに顔を青ざめていた気がする。
まぁ、陸の魔物と違って水生の魔物は接近に気付きにくいし、襲われたら逃げ場がないしな......。
「この辺の船が魔物に襲われることは少なくないのじゃが、多くても魔物の数は二、三匹程度と聞いておる。定期的に警備艇が巡回しておるし、基本的に魔物が出たとしても船員で処理出来る程度か、持ちこたえている間に巡回兵が助けに駆け付けるといった対処で十分安全が確保出来ておった。」
「警備艇ってのはでかいのか?」
「いや、左程ではないのじゃ。精々戦うのは四人くらいじゃったか。」
「いくら訓練を受けた兵士でも、四人であの数は無理だろうな。」
「そうなのですか?」
「当然だ......ってそう言えば、ケイは身内以外が戦っている所はほとんど見たことがなかったか?」
「えぇ、今回の件で船員さん達が戦っているのを見たのが初めてかもしれません。」
まだ魔法の事を教えていなかった頃のレギさんが、コボルトやイノシシと戦ったのは少し見たけど......まじまじとは見てないな。
「前にも話した気もするが......本来魔物との戦いは一匹を複数人で囲むのが基本だ。距離を取って相手の動きを阻害する様に立ち回って、隙をついて傷を与えていくって感じだ。熟練してくればある程度一人でも立ち回れるようになるが、兵士や冒険者の全てにそれを求めるのは無理がある。」
「なるほど......。」
確かにあの時の船員さん達はレギさんの言う様な戦い方をしていたと思う。
決して攻め気に逸らず、お互いをフォローできる位置取りで牽制を続けていた。
あれは、倒すことよりも魔物を自由にさせずに抑え込むことを優先して、巡回している兵に助けを求めていたってことか。
「でも警備艇に乗っている兵士は四人くらいですよね?数が少なすぎるのでは?」
四名では、精々魔物の二匹、多くて三匹くらいしか......あ、そういう事か。
「うむ、普段はそれで問題なかったという事じゃ。それに、あのようなことが起こっていると知れていれば、警戒もせずにのんびりと運航しておるはずが無いからのう。あの船の船長も魔物を査定したギルドの連中も相当驚いておったのじゃ。」
「予兆もなしに突然魔物が大量発生したりすることがあるか?」
「まぁ、水中は餌が豊富じゃから、襲ってこないだけで多くの魔物が潜んでおるというが定説じゃが......。」
「水中の餌が減ったって襲ってきたってことですかね?」
「んー、でも特に不漁だったりはしてなかったみたいだけど......。」
「おや?皆さん難しい顔してどうしたっスか?船酔いっスか?酔い止めにいい草があるらしいっスけど、貰ってくるっスか?」
俺達が魔物の話をしていると、甲板に出て来たクルストさんが声を掛けて来た。
「いや、大丈夫だ。この前の船で起こった事を話していてな。」
「あーアレっスか。いやー俺も武器さえあれば頑張ったんスけどねー。いや、残念だったっス。」
そう言って腰に下げている剣を掴みながら、大仰に残念そうにするクルストさん。
河に沈んで行ってしまった剣の代わりは、俺達と勝負をする前にしっかり購入していたらしい。
まぁ、いくらフロートボードで移動しているからと言っても、流石に武器も無く街の外には出ないだろうしね。
「クルストはあの件について何か情報仕入れているか?」
レギさんがクルストさんに問いかけるとクルストさんは頭を掻きながら答える
「んー俺も龍王国には入ったばっかりっスからねーあまり龍王国内の情報は無いっス。でもあんなことが頻繁に起こっているならもっと警戒しててもいいと思うっス。だから......偶々あの時だけと考えたい所っスけど......。」
そこで少し考え込むようなそぶりを見せて言葉を止めるクルストさん。
「何か気になる話があるのか?」
「うーん、結構遠くなんで関係ないかもしれないっスけど......帝国のほうで魔物の群れが頻繁に見つかっているらしいっス。」
帝国っていうと......都市国家の北の方、魔道国の東側ではあるけど、間に小国がいくつかある程度は離れているのだっけ?
「大量発生ってわけではないのか?」
「そういう訳じゃないみたいっス。群れで確認出来る代わりに他の場所ではいなくなっているとからしいっス。ただ群れてるだけで集落を襲ったりするわけじゃないんスけど......駆除は進めているみたいっスね。」
「なるほどな......。」
「まぁ、帝国とは結構距離があるし、こっちの魔物は襲い掛かってきているから関係ないと思うっスよ。」
クルストさんは肩をすくめながら言うけど......なんとなく引っかかるな。
魔物の群れ......。
「っと、すまねっス。酔い止め貰いに行く途中だったっス。皆さん要らないっスか?」
俺達が大丈夫と答えると羨ましいっスと呟きながらクルストさんは去っていった。
クルストさんを見送った後、なんとなく引っかかっている部分を皆に聞いてみる。
「何か帝国の方での魔物の群れって所に引っかかったのですけど......クルストさんの口ぶりからして魔物が群れでいるだけで、被害とかはあまりなさそうな感じでしたけど。」
「魔物の群れ自体はそうみたいだが......気になるのは発生原因だな。」
「言いたいことは分かるのじゃ。人為的に魔物を操作する......この河で起きたことはまだ偶然かもしれぬが......帝国で起こったことは恐らく、檻の仕業じゃな。」
やっぱりその線が濃厚ですよね......。
何となく龍王国の時の魔物の動きを彷彿とさせるし......何も関係ないと考えるのは難しい。
「必ずしもそうとは言えねぇが......そんなことやりそうな奴らが他にもいると考えるよりは奴らの仕業と考える方が自然だしな。」
「......これは、後手に回らない方が良いかものう。」
「ナレアさん?」
ナレアさんがぽつりと呟いて口元に手を当てて考え込む。
そして、俺達が見守る中ナレアさんが顔を上げて言う。
「......ケイ。すまぬが、やらねばならぬ事が出来たようじゃ。」
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