第398話 先行
「すまぬのう、ケイ。」
「いえ、着いて行きたいと言ったのは僕ですので。」
俺とナレアさんは今、船で移動するレギさん達と別れて移動をしていた。
因みにナレアさんは飛んでいるけど、俺はシャルの背中の上だ。
川岸までは軽く飛んだのだが、岸に着いた途端シャルが俺の肩から飛び降りて背中に乗るように言ってきたのだ。
飛んで行っても良かったのだが......シャルから妙な圧力を感じたので大人しく乗せてもらうことにした。
何か最近シャルから物凄い圧を感じる時があるよね......。
まぁ、そんな感じで移動しているわけだけど......目的地は......。
「まぁ、妾達であれば王都まで三日もあれば着けるじゃろう。」
「この速度で三日ですか。かなり離れていますね。」
「無駄に国土が広いからのう。リィリ達と合流出来るのはもう少し先になりそうじゃが。」
レギさん達は次の港でグルフ達と合流して王都に向かってくれる。
......いや、グルフ達には毎度毎度申し訳ないと思う。
仙狐様から渡された魔道具を持って先行してもらい......クルストさんとの勝負の為に呼び戻し、勝負が終わったらまた先行。
そして今度は王都に移動をするためにもう一度呼び戻して......いい加減ファラとグルフが怒ってもおかしくないと思うけど......今回の件は許してもらいたい。
「ところで、若干勢いでついて来てしまいましたが......王都で何をするのですか?」
「うむ、檻の事について話しておきたい相手がおるのじゃ。」
「話しておきたい相手ですか......それって魔道国の偉い人だったりしますか?」
「うむ。龍王国の時は後手に回ってしまったからのう。早めに檻の脅威を伝えておけば、もしかしたら奴等が何かしでかす前に捕らえることが出来るかもしれぬ。」
「なるほど......。」
今回の魔物の襲撃に関しては唯の偶然って可能性の方がまだ高いけど、これから先檻が魔道国に手を伸ばしてきた時の為って言うのもあるのか。
「まぁ、既に相手が浸透しておる可能性は否定出来ぬがのう。とは言え、王都に行けば国内で何か問題が起こっておっても分かるはずじゃ。」
「事前に防ぎたいですね。」
「まぁ、そうじゃな。国民に被害が出るのは避けたい所じゃが......まぁ、それを頑張るのは国の上層部じゃからな。請われれば手を貸してやらんでもないが......情報を伝えるだけでも十分助けになるじゃろ。」
そう言うナレアさんの表情はいつもと変わらない様子に見える。
しかし、それでいいのだろうか?
「えっと......僕は積極的に手を貸してもいいと思うのですが。」
「ふむ?」
「ここはナレアさんの故郷ですし、お知り合いの方も少なくないと思います。」
「まぁ、そうじゃな。他の国よりは知り合いが多く住んでおるかのう?」
「でしたら、やっぱり助けてあげたいと思います。その......ナレアさんのご家族の方もいらっしゃるでしょうし。」
「......ま、まぁ、魔道国におる妾の知り合い共は殺しても死なぬような者ばかりじゃからな。放っておくくらいが丁度いいと思うのじゃが......ケイがそう言うのであれば仕方ないのう。それに、ノーラ達に仕出かした事を考えるに、多少意趣返ししてやらんといかんしの。ノーラ達を救ったことを考慮に入れてもやりすぎじゃからな。」
若干頬を赤く染めたナレアさんが、俗にいうツンデレみたいな台詞を......。
いや、まぁ、それはどうでもいい。
檻に意趣返しって言うのは是非ともやっておきたいしね。
「ところでナレアさんの家族は......王都にいるのですか?」
「ん?うむ。王都におるのう。」
「挨拶とかしないといけないですね。」
「......そうかの?」
若干間を置いた後、ナレアさんがキョトンとした表情で言ってきた。
その様子に若干たじろいでしまったが、気を取り直して言葉を続ける。
「えっと......ナレアさんは母さんに会っていますし、僕もナレアさんのご家族には会ってみたいのですが......駄目ですか?」
「いや、全然駄目ではないが......多分かなり面倒臭いと思うのじゃ。それでもいいのかの?」
......そう念押しされると尻込みしてしまうのですが......。
いや、まぁ、ご家族への御挨拶ってそう言う意味ではないし、大丈夫だよね?
「た......多分、大丈夫だと思います。」
「だといいのぅ。」
しみじみと呟くナレアさんの態度に、そこはかとない戦慄を覚える。
本当に大丈夫だろうか......。
「......ところで、王都に行って誰と会うのですか?ヘネイさんみたいに国の偉い方ですよね?」
「まぁ、そうじゃな。まぁそこそこ偉いと思うが......まぁ、大したことないのじゃ。」
「そうなのですか?」
大したことない偉さの人で大丈夫なのだろうか?
檻への対応は国の上層部がしっかりとその脅威を把握して、足並みをそろえていかないとかなりまずいことになる気がする。
そんなことを考えていたらナレアさんがこちらを見て笑い出した。
「すまぬのじゃ。心配させてしまったようじゃな。まぁ、妾は大したことないとは思うのじゃが、仕事はちゃんとする奴じゃ。問題は無かろう。」
「なるほど......?まぁ、ナレアさんが信頼している方のようですし、大丈夫だと思いますが......どんな方なのですか?」
「唯の魔王じゃ。」
View of レギ
ケイとナレアが先行して魔道国の王都へ向かうことになったので、俺とリィリはその補助だ。
まぁ、補助と言ってもクルストや船員に不審がられない様に次の港まで誤魔化すだけだが。
「レギさんどうしたっスか?なんか難しい顔しているっスよ。」
「あぁ、クルストか。いや、あの魔物の群れが気になってな。」
「俺が見たのはレギさん達が倒した死体だけっスけど、相当多かったっスからねー。レギさん達が居なかったらあの船は助からなかったと思うっス。」
「ゾッとするな。」
偶々俺達が乗り合わせたから良かったものの......船員ではあの数は抑えきれなかっただろうし、ナレアの言っていた警備艇に乗っている兵士も聞いている人数ではあの船に近づけたかどうか......いや、犠牲になった可能性の方が高い。
檻の仕業じゃなかったとしても早めに原因を調べた方がいいだろう。
まぁ、その為にもナレアが先行して王都に向かったわけだから、俺がここで悩んでも意味は無いかもしれないが......。
「あれ?二人ともどうしたの?」
リィリが何やら串を片手に近づいてくる。
......船上で出店も無いのにどこで手に入れたんだ?
「リィリさん、今日も変わらずお美しいっス。それは......魚っスか?」
「うん。食堂で貰ったんだ。試しにって焼いたヤツらしいんだけど、結構美味しいよ。」
昔からこいつは食事を作る人間と仲良くなるのが上手かったよな......。
なんつーか......食ってる姿が本当に幸せそうだからだろうか?
「夜が楽しみっス。ところでナレアさんとケイはどうしたっスか?二人とも姿が見えないっスけど。」
「ん?二人に用事?」
「いや、そう言う訳じゃないっス。なんとなく気になっただけっス。」
「そっかー、ちょっと調子が悪くて船室で寝てるんだよ。」
「大丈夫っスか?船酔いっスか?」
「船酔いじゃないと思うけどー、まぁ暫く寝てれば大丈夫じゃないかな?」
「お見舞いとか行った方が良いっスかね?」
「いや、安静にしておいた方が良いだろうからほっといてやってくれ。」
「あー、そうっすか。まぁ安静にしてる方が確かにいいっスね。二人で船室で......二人で......船室で......安静......?」
突然クルストの動きが固まった......話を終わらせようと強引に話を持って行きすぎたか?
しかしどうも様子が......口元に拳を当てて凄い勢いで汗をかきだした。
「ど、どうした?クルスト。何か問題か?」
「ふ、二人が......船室で......。」
がくがくと震えだして呆けたように呟くクルスト。
それを見ていたリィリが何かに気付いたように笑みを浮かべると、クルストに言う。
「クルスト君......分かってると思うけど、邪魔したらダメだよ?」
次の瞬間、クルストが白目を剥いて卒倒した。
どういうことだ?
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