第79話 魔道具屋にて



「なるほど......どうやらあなたの師匠は随分と型破りな方のようですね。鍛えるつもりがないとも取れますが。」


一通りの説明をした後、オグレオさんはこう切り出してきた。


「そうなのですか?」


「普通は魔術士として育成するなら、基本の術式や基本的な魔道具の作り方をしっかりと叩きこんだ上で転写用の魔道具を渡します。そうでないと危険ですからね。魔術式が正しく動作しなければ起動した瞬間に大変なことになる事もありますから。」


やっぱり変な魔術式だと発動しないだけじゃ済まなさそうだ。

良かった、試さなくて......。


「その事を教えてなかったのは痛い目を合わせたかったのか、それとも教えるまでもなくあなたなら気付くと思われていたのか......。」


デリータさんなら......どっちもあり得るかな......。


「まぁ人の教育方針に口を出すのはやめておきましょう。現にあなたは自分で考えここに来ているのだから、あなたの師匠は間違っていないという事でしょうしね。」


色々とお世話になっているとは思うけど、世間的には俺とデリータさんは師弟関係ってことなのだろうか?

魔術師の方々の認識ではそうなんだろうな、多分。

デリータさんはそんなこと言っていなかったけど。


「さて転写した魔術式を読み取る魔道具でしたな。勿論、ありますよ。魔術式の比較が出来るのですが一つは完成形の魔道具が必要なタイプ。もう一つは比較したい魔術式を羊皮紙の状態で用意しておくタイプです。ただ、あなたの場合は完成形の魔道具と比較するタイプの方がいいでしょうね。羊皮紙タイプは一度使うと転写の時と同様に羊皮紙が燃え尽きてしまいますので。」


「なるほど......その魔道具は購入することは可能ですか?」


「申し訳ありませんが、当店にはおいていません。魔術師しか必要としない魔道具ですし、普通は自前でもっているものですからね......。」


なるほど......確かに商売する上で必須だよな......業務用魔道具って感じか。

デリータさんは使っていなかったようだけど......。


「手に入れるにはどうしたらいいでしょうか?」


「魔術師ギルドで購入するしかないですが、私が紹介状を書きましょう。魔術師ギルドは閉鎖的なので紹介状を持たずにいくとほぼ間違いなく門前払いされてしまいます。」


「よろしいのですか?今お会いしたばかりなのに。」


「構いませんよ、ナレア様のお知り合いのお方ですし。ケイ様が何か問題を起こした時はナレア様に文句を言いますので。」


「ほほ、ケイならば問題なかろう。こやつ、そこそこ有名人じゃしな。何かやらかしたとしてもそこまで苦労せずに見つけられよう。」


信用されているのかされていないのか......いや、ナレアさんとは二回あっただけだ。

それだけにしてはかなり信用してくれているってことだろう。


「ケイ様は有名なのですか?」


「うむ。こやつ、下級冒険者の癖にたった二人でダンジョンを攻略しおった大馬鹿者の片割れよ。狂気の沙汰じゃな。」


「ダンジョンの攻略を二人で!?」


「真似をするような愚か者が出ないことを祈るばかりじゃの。」


酷い言われようだ......。


「そこまで無茶なことはしてないつもりですが......。」


「馬鹿者。そんなに簡単にダンジョンが攻略出来るのなら、国が躍起になって冒険者を集めるわけがなかろう。浅い階層に偶々ボスがいたと言っておったが、そもそも浅かろうが深かろうがダンジョンに二人で乗り込む時点でどうかしておるわ。ましてやボスを倒すなど......下手に出会ってしまえば死を覚悟せねばならぬような相手じゃぞ?それをあっけらかんとしおって......。」


む......なんか派手にミスったかな?

レギさんからボス退治がそこまでの大事って聞かされてなかったけど......。

後で確認しておいた方がいいな......。

レギさんとリィリさんの二人で殆ど苦戦することなく倒してたから普通の魔物よりちょっと強いくらいかと......。


「まぁボスとメインで戦ったのは僕ではありませんし。僕は戦闘の序盤だけ参加して、後はサポートに徹していましたから。」


「まぁ見るからに前衛はもう一人の男が担っていそうではあったがのう......だがそういう問題では......。」


「とはいえ、お一人で遺跡に行くような冒険者も正気の沙汰ではありませんね。」


「むぐ......。」


まさかのオグレオさんの裏切りにナレアさんが言葉に詰まる。


「私からしたらどっちもどっちと言ったところですよ。お二人とも命を大事になさってください。」


「はい、気を付けます。」


「う、うむ。覚えておこう。」


「では私は裏で紹介状を準備してきますので少しこちらでお待ちください。」


「ありがとうございます、宜しくお願いします。」


オグレオさんは微笑みながら頷くとドアの向こうに消えていった。


「オグレオの奴め......説教中に横から殴ってくるとは威厳も何もあったものではないではないか......。」


なんかナレアさんがオグレオさんへの文句をぶつくさ言っている。

まぁ人に注意している最中に似たようなことを横から注意されたらバツが悪いよね......。

ここは一つ話題を変える方向で......。


「ナレアさんはこの後、何か予定はありますか?」


「なんじゃ?ナンパか?」


「いえ、違いますけど。」


「違うのか?」


「違います。この後もし良かったら一緒に食事でもどうかなと思いまして。」


「なんじゃ。ナンパか。」


「違いますよ。」


「違わんじゃろ。」


「......すみません、言い方が悪かったです。えっと、僕の仲間とこの後合流してご飯を食べるのですが、一緒にどうですか?」


「なんじゃ、ナンパじゃないのか。つまらんのう。」


ナレアさん......ナンパされたかったのかな?

いや、そんな感じじゃない......こちらの反応を楽しんでいるだけのような感じだな。


「じゃが、お主の仲間には興味があるのう。お言葉に甘えさせてもらおうと思うがいいかの?」


「えぇ、もちろんです。」


「では、邪魔させてもらうとするか。しかし、ふむ。何か手土産くらいは用意したいものだが......この後すぐという話ではないのじゃろ?」


「えぇ、晩御飯までは各々自由時間です。まだ結構時間がありますね。」


日暮れまで後六時間はあるだろう。

昼食も先ほど食べたばかりだしもう少し遅くても俺は構わないけど......リィリさんは許してくれないだろうな......。


「であれば、紹介状を貰ったら少し街を歩かぬか?手土産を見繕いたいのでな。お主らは酒はいける口かの?」


「えぇ、大丈夫ですよ。僕はそこまで吞みませんが、他の人達は結構呑みますよ。」


「おや?あの大柄な男だけではないのかの?」


「あ、はい。もう一人女性が一人います。」


「ほほ、攻略後に新たに迎えたのかの?手が早いのう。」


「そういうわけではありませんが、レギさん......一緒にダンジョンを攻略した人の昔なじみの方ですよ。」


「なんじゃ、そうなのか。つまらんのう。」


「ナレアさん......なんか僕の事、ナンパ野郎とか思ってませんか?」


「違うのか?」


「もうそのくだりはいいですよ......。」


ため息交じりに応えたところで奥からオグレオさんが紹介状を持って戻ってきた。


「随分と楽しそう......ケイ様はお疲れのご様子ですね。」


「あはは、いえ、そんなことは......。」


「うむ、ナンパされたのじゃ。」


「......もう、それでいいですよ。あ、オグレオさんも晩御飯一緒にどうですか?」


「お誘いいただきありがとうございます。ですが、申し訳ありません。少し片づけなければならない仕事がありますので......。」


「そうですか、分かりました。では次の機会に。」


「えぇ、その時は是非。では、こちらが魔術師ギルドへの紹介状になります。ここから一番近い魔術師ギルドは龍王国の首都にあるので少し遠いですがそちらで提出してください。購入したい魔道具の事についても書いてありますので。」


「何から何までありがとうございます。」


「いえ、頑張って勉強してください。もしオリジナルの魔術式を作ることが出来たら見せて頂けると嬉しいですね。」


「その時は是非、見てもらいたいと思います。」


「楽しみにしております。」


オグレオさんから紹介状を受け取り、懐へとしまう。


「それではオグレオ、またのう、息災でな。」


「はい、ナレア様もお体にお気をつけください。」


「ありがとうございました。」


「ケイ様もお体にお気をつけて、ナレア様の事宜しくお願いします。」


「はい、わかりました。」


俺とナレアさんは一緒に旅をしているわけじゃないけど......まぁいいよね?


「うむ、よろしく頼む。」


ナレアさんがそれ言うのはおかしいからね?

からかわれている感が残ったまま、俺とナレアさんはオグレオさんの魔道具店を後にした。


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