第67話 チューグル



旅に出て二日目、昼前に村を出た俺達は特にアクシデントに見舞われることもなく、数時間で目指していた街に到着することが出来た。

そもそも旅に付き物と言われている、魔物の襲撃や盗賊の襲撃の心配は俺達には殆どない。

まず盗賊だが、街道を走っているわけではない俺たちはそもそも盗賊の目に着くことがほぼない。

次に魔物だが、シャルの感知範囲内に魔物が入れば進む方向を変えて相手に気づかれることなく離れることが出来る。

まぁ魔物に限らず盗賊であってもシャルが気付いてくれるんだけどね......。

それに馬車のように車軸が折れるというようなこともない、道が使えないという事態があったとしてもシャル達なら強引に突破する、それが不可能であったとしても道を選ばず迂回することが可能だ。

今考えられる最大のアクシデントは雨に降られることじゃないだろうか?

流石にこれはどうしようもないと思う。

何より俺たち自身がアクシデントの要因になりかねないし、誰にも遭遇しないように移動しているのだからそうそうアクシデントには見舞われることはない。

この世界の旅は何かと危険だと聞いてはいるが、レギさんとの馬車の旅も含めてまだそういったものに遭遇したことがない。

シャルの背中に乗って走るのは中々楽しくはあるが、流石にずっと背中に乗っているだけだと......飽きがこないとは言い難い。

一生懸命走ってくれてるシャル達には悪いと思うけど......。

まぁ、だからといって何かアクシデントが起きて欲しいわけじゃないけどね?

こうして問題なく目的地にたどり着けたことを喜ぶべきだね。

安全第一安全第一。

少しこの世界に慣れてきた気がしていたし、ちょっと油断している気がするな......初心忘るべからず......新しい街に来たことだし気を引き締めていこう。

そう、気を引き締めておかなくてはいけない。


「なぁ、ちょっとでいいんだぜ?その懐にある財布の中身をほんのちょっと残して俺に渡して欲しいんだ。全部と言ってるわけじゃねぇんだ、財布もいらねぇ。優しいもんだろ?」


こんな風にちょっとわけのわからない感じに絡まれたりするような場所に行くなんて言語道断だ。

今はレギさん達とは別行動中だ。

街に着いて宿を決めたので、夕方までそれぞれ情報収集に出たのだ。

確かに初めての街で土地勘もない為ちょっと人気のない方に行ってしまうこともあるだろう。

もっと周りの状況の変化に気を配らないといけないな。


「おい、聞いてんのか?おぅ?」


こういう絡まれ方は懐かしいな......レギさんやクルストさんを思い出す。

もしかしたらこの男の人も街の自警団とかで、仕事でやっているのかもしれない......あやばい笑いそう。

ってまた余計な事考えてるな。

とりあえず、この状況どうしたものだろう......。

一つ気になるのはいつものように肩にくっついているシャルとマナス、この二人が特に反応を示していないことだ。

特にシャルはこういう場合殺気を抑えながらもいつでも殺りますって雰囲気を出すのだが......。


「無視してんじゃ!いってぇ!?」


「ん?」


なんか後半悲鳴が混ざってなかったか?


「なんだこれ!?あ?おぉ!?」


よく見ると絡んできた男の足にネズミが数匹齧りついている......。

うわぁ......病気とかやばいんじゃ......。

さらに道の脇から何匹もネズミが出てくる。

ちょ......これヤバいでしょ!


「ひぃぃぃぃぃ!」


足を齧られた男が悲鳴を上げて逃げ出す。

それよりも少し早く俺は身体強化を掛けて後方に飛びのく!

こわいこわいこわいこわい!

病気に罹りにくい体になったとはいえ、こんな多くのネズミに一気に襲われたらどうなるか分からない。

もしかしたらこの世界にきて一番恐怖を感じた瞬間かもしれない。

後方に着地すると同時に今度は側の建物の屋根まで飛び上がる。

辺りを見回すが屋根の上にネズミはいないようだ。


『ケイ様、大丈夫です!落ち着いて下さい!』


「いや、あれは大丈夫じゃないと思うよ?」


『すみません、言葉足らずでした。あれはファラの配下のネズミたちなので大丈夫です。』


「......ファラの?」


『はい。ファラがこの街に来た時に配下に加えた者たちだそうです。』


「そうなんだ?それは悪い事しちゃったな。」


屋根から下を見下ろすとネズミ達が整列しているのが見える。

とりあえず下に降りよう。

飛び上がった所誰にも見られてないよな......?

ざっと見まわすが人影はないようだ......いや良かった。

慌てるとダメだな......あ、でも身体強化は悪くない塩梅だったな......そこは良くやったと褒めておこう。


『申し訳ありません。この街に着いたとき接触があったのですが、陰ながらケイ様をお守りしたいとのことだったので報告をしていませんでした。』


「そうだったんだ。うん、大丈夫だよ。ちょっと......いや、結構びっくりしたけど。」


屋根から飛び降りてネズミ達の前に立つ。

とりあえずこの通りを占拠しちゃっているから先に解散してもらおう。


「さっきはありがとう。助かったよ。後、助けてもらっておいて悪いんだけど、このままじゃ目立つから解散してもらえるかな?話を聞きたいから一人だけ残ってくれると助かるんだけど。」


「ぢゅ!」


先頭にいたネズミが小さく鳴くと後ろに並んでいたネズミが一気にばらけて方々に散る。

全員が俺の言葉を理解してたのかな......?

何というか、訓練された兵士みたいな動きだ。

テレビでしたか見たことないけど......。


「じゃぁちょっと道の端に寄ろうか。」


「ぢゅ!」


少なくともこの子は言葉を理解している気がするな。

道の端によって足元を見ると後ろをついてきたネズミが頭を下げている。


「改めて、さっきはありがとうね。後、あんな態度をとってごめんね。君たちが守ってくれてるのに気づいてなかったとは言え失礼なことをした。」


「ぢゅ!」


『お役に立てて光栄です、こちらこそ見苦しい物を見せて申し訳ありません。と、言っております。』


シャルの通訳してくれた言葉に頷いておく。


「......ところでファラの配下ってことだけど、ファラは今この街にいるのかな?」


「ぢゅ!」


『......ファラは既にこの街を出ているようです。後から来るケイ様たちの為に情報を集めるように命令を残して次の場所へ向かったとのことです。』


「そっか......ファラはもういないのか......勤勉で頼もしくはあるけど......ここで無事を確認できたのは良かったけど......心配だなぁ。」


ファラは俺達よりも一月以上前に龍王国に向けて出発したはずだけど......シャル達のように足は速くないはずだ。

この街まで馬車で来ても五日以上......ファラはどのくらいでここまで来たのだろう?


『前も言いましたが、ファラなら大丈夫です。ここでも順調に情報網を構築していたようですし、この先でも同じようなものを作っているはずです。』


シャルが自ら配下に加えたからか、ファラの事をとても信頼しているようだ。

シャルがこれだけ信頼しているんだから俺が心配し続けるのも二人を疑っているようで悪いか......。


「そっか......うん、本当にファラは頼りになるね。」


『そう言ってもらえればファラも喜ぶと思います。丁度いいのでこの者に街で確認しておきたい事を聞いておきましょう。』


「うん、じゃぁ......この街で気を付けるべき場所や組織、起こっている事件。龍王国へのルート上に何か問題が起きていないか。龍王国の情勢も分かる範囲で......後はこの前の料理大会に出てたお店があるかどうか......一先ずこんなところかな?」


『承知いたしました、少々お待ちください。』


ファラが作ってくれた情報網か......前の街に作ってくれていたのは知っていたけど......これから行く先々に作っていってくれるのかな?

仕事早いなぁ......しかし、前から思っていたけどネズミの諜報員か......プライバシーも何もないよな。

日本だったら確実に捕まる......いやネズミが調べた情報ならセーフ?

いや、調べさせたならアウトか......?

立件は出来なさそうだけど......。

しかしネズミネットワーク......街と街の通信は流石に無理だろうからイメージ的にはローカルエリアネットワークかな......。

まぁ街一つをローカルって言うには規模がデカすぎる気もするけど......検索エンジンはチューグル先生だな......。

シャルがネズミ君から聞き取りをしている間そんな益体もないことを考えていた。


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