第471話 調査報告するのじゃ
「む?随分時間がかかったようじゃな?」
俺達がレストポイントである研究室に戻ると、ナレアさんは壊れた魔道具を調べ終わったのか残骸から離れた位置にある机に座って魔晶石を調べていた。
「えぇ、慎重に運ばないと鏡が割れそうだったので。」
「なるほどの。じゃが、丁度良かったのじゃ。あらかたこちらも調べ終わったところじゃったからな。」
そう言ってナレアさんが立ち上がりこちらに近づいてくる。
「レギさん。この辺に降ろしましょう。」
「おう。そっと行くぞ......傾けるなよ?」
「了解です......。」
俺達は息を合わせてそっと鏡の魔道具を床に降ろす。
「倒れるかもしれませんし......固定しておきますか?」
俺は懐に入れておいた固定具を取り出しながらレギさんに尋ねる。
「その方が良いかもしれないが......ナレア、どうする?固定してもいいか?」
「すぐに外せるようにしておいてもらえれば、とりあえず仮固定でもしておいてくれた方が助かるのう。」
レギさんにそう答えたナレアさんの眉が顰められる。
「おや?レギ殿。随分と魔力量が......。」
「あぁ、ケイの眷属にしてもらった。よろしく頼むな、同輩。」
「ほほ、こちらこそじゃ。」
そんな二人の会話を背中で聞きながら、固定具を使って鏡を壁に軽く固定していく。
まぁ軽くと言っても、強化魔法を使っていない状態ではそう簡単には外せないくらいに閉めているけど......ナレアさんに頼まれたらすぐ外せるから問題はないだろう。
「おや?ケイ。また背中が汚れておるのじゃ。」
俺が作業しているとナレアさんが再び俺の背中をはたいてくれる。
「あ、あれ?またですか?ありがとうございます。」
「うむ。壁にでも擦ったようじゃな。」
そんな記憶はないけど......まぁ、ダンジョンの壁は土壁だし、気づかない内に擦っていたのかもね。
「あ、そうだ。ナレアさん。ファラが合流してくれましたよ。とりあえず今は部下の子達を纏めてこのダンジョンの調査をしてくれていますが、マナスの分体が一緒なので連絡をすればすぐにこちらに来てくれます。」
「ふむ、それは助かるのう。この魔道具の調査次第で......すぐに動けるやも知れぬ。その事だけ伝えておいてくれるかの?」
「本当ですか!?分かりました、伝えておきます!」
まだ色々と調べ始めてから一時間程度しか経っていないというのにもう手がかりが?
流石ナレアさんだ......レギさんも期待に目を輝かせナレアさんの事を見ている。
ある程度確信が無ければナレアさんは先程のようなことは言わない。
希望は毒にすらなり得る......ナレアさんは現実的な考え方をする人で、憶測を話す際もかなり慎重を期するのはその事を十分理解しているからだろう。
全然役に立てないことを不甲斐なく思うけど......いや、さっきも言われた様に出来ることをしよう。
この部屋はごちゃごちゃしているし、もしかしたら相手も忘れている様な手がかりが残されていないとも限らない。
鏡の固定を終えた俺は、ナレアさんの傍を離れて爆発によって散らかった室内の調査を始める。
とは言っても......壊れた実験器具的な物が多く迂闊に触れると余計散らかるような気がする。
調査より片付けをする方向で動いた方が良いかもしれないな。
そんなことを考えていると、ナレアさんが鏡の魔道具を起動して鏡の向こう側へと移動してしまう。
まぁ、向こうの部屋はネズミ君達が制圧しているはずだし大丈夫だろうけど。
ナレアさんの動きも気になるけど、俺は俺で片付けを進めよう。
何か研究資料のような物とか残っていれば相手の目的も分かると思うけど......流石にその辺は全部移動済みだろうか?
「ケイ、そこの倒れている棚を元に戻そう。」
「分かりました。」
俺と同じように部屋の整理を始めていたレギさんと一緒に倒れていた棚を元に戻す。
そこまで大きな爆発は感じなかったけど、かなり重厚な棚が倒れている所を見るとそれなりの威力だったのだろうか?
「......純粋に力を強化するのは結構簡単に出来るな。」
棚を起こしたレギさんがぼそりと呟く。
「もしかして強化魔法の練習をしながら作業していました?」
「あぁ。日常的な行動を参考にして魔力量を調整していくのが良さそうだ。強化魔法を受けた状態で体を動かす感覚は既に慣れているからそっちは問題なくいけるしな。」
「なるほど......後は五感の強化や思考速度の強化が出来るとかなり便利ですね。」
「あぁ、確かにアレは便利だな。五感の強化は何となくいけそうだが......思考速度の強化っていうのは少し想像が出来ないな。」
「思考速度の強化は......僕が掛けてなんとなく状態は把握していると思いますが......。」
物凄く感覚的な物だから口で説明するのは難しいな。
「感覚的な所は理解しているんだがな......どうやってあの状態にすればいいのかが......。」
「僕もこうやっているっていう説明をするのは難しいですね......。」
そんな話をしながら作業を進めていると鏡の向こうからナレアさんが戻って来た。
「二人とも待たせたのじゃ。それで、ちとこちらに来てくれるかの?」
ナレアさんが手招きをしながら俺達を呼ぶ。
その様子から、恐らく何か掴めたのだと察した俺達は足早にナレアさんの所へ移動する。
「まずは、結論から言うのじゃ。先ほど破壊された鏡の魔道具じゃが、魔晶石がいくつか割れてしまっているため、そのまま使う事は不可能じゃ。」
......これはあまりいいニュースじゃないな。
「そして、現在稼働しているこちらの魔道具と組み合わせて使う事を考えたのじゃが、それも無理じゃった。」
......これもかなり良くないニュースだ。
「さて、次はいい話じゃ。」
俺とレギさんの表情が明るくなったのを見て、ナレアさんがにやりと笑う。
「魔晶石に使われておるのは空間魔法の接続じゃ。この魔道具の両方を起動することによって鏡を通して移動することが出来るわけじゃ。」
「両方が起動していないの駄目なのですか?」
「うむ。」
「でもそうすると、僕達が王都からこちらに移動してきた時、誰がこちら側を起動したのでしょうか?」
「その答えはこの魔道具じゃ。」
そう言ってナレアさんが鏡に埋め込まれている魔晶石を指す。
「この魔道具は対となっておる魔道具と繋がっておるようでな。対となっておる魔道具の起動を感知して自身が組み込まれている魔道具に魔力を流し込む仕組みになっておる。」
「なるほど......ナレアさんが通信用の魔道具でやろうとしていたことと同じものですね。」
「うむ。どうやらこの鏡の魔道具は魔法と魔術、両方の魔道具の組み合わせのようじゃな。恐らく時代としては新しい時代と......。」
「ナレア、すまねぇがその辺は後にしてもらえるか?それでいい話っていのはなんだ?」
ナレアさんが魔道具の考察に入ろうとした所をレギさんが慌てて止めて話を促す。
「む?すまなかったのじゃ。話を続けるのじゃ。幸い、先程の爆発で破壊されなかった魔晶石の中に、対となる魔道具を起動するための物が残っておったのじゃ。これを起動すれば、向こうにある鏡の魔道具を起動することが出来る。そしてもう一つ。空間接続をしておる一対の魔法系の魔道具、妾ではなんとなくしか感じ取ることが出来なかったのじゃが......ケイであれば対となる魔道具の位置を把握できるのではないかの?」
そう言ってナレアさんが鏡の上部に埋め込まれている魔道具を指さす。
「......ちょっと触ってもいいですか?」
「うむ、頼むのじゃ。」
俺は目を瞑り、起動している魔晶石に触れる。
すると、ナレアさんの言う通り......王都の地下部屋で起動している魔道具を感じることが出来た。
俺はゆっくりと目を開け、ナレアさん、そしてレギさんに笑いかける。
「行けます。感じ取れます。これなら空間接続出来そうです!」
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