第472話 実験、そして打ち合わせ



「ケイ。これがあやつ等の逃げた先に繋がっておる魔道具じゃ。」


そう言って机の上に置いてあった魔晶石を手渡される。


「奴等はこちらの鏡を壊したことで油断しておるはずじゃ。キオルは確かに優秀な魔術師じゃが、魔法の事までは調べられぬはずじゃし......そもそも妾達が魔法を使えるとは露にも思っておらぬ......というよりも魔法の存在そのものを知らぬじゃろう。魔法系魔道具の事を知っているだけでも大したものじゃが......その研究は現代の魔術師では不可能じゃからな。」


現代の魔術師と加護を得て魔法が使えるようになった人達は全く別物だ。

魔術は純然たる学問だけど、魔法は......加護が無ければスタートラインにすら立てないからね。

言うなれば超能力の類だろう。

俺は先程の鏡に嵌め込まれた魔道具同様、手に乗せた魔道具へと意識を集中させる。

目を瞑り、暗闇の中トンネルの先にある光を探す様に......感覚を広げていく。

やがて一条の光を見つけそこに向かって手を伸ばしていき......。


「見つけました。この魔道具と対になっている空間を把握出来ました。」


「よし!ケイ、まだ繋げる必要は無いが、確認じゃ。魔道具のある場所とここを接続で繋げられるかの?」


「......大丈夫です。向こうにある魔道具のお陰で接続に必要な空間の把握が出来るので、こちら側は魔道具が無くても接続出来そうです。」


「完璧じゃ!ケイ、レギ殿。すぐにでも向かいたいところじゃろうが、少し考えがあるのじゃ。聞いてくれるかの?」


俺とレギさんはナレアさんの言葉に頷く。

先程の様に、敵を目の前にしながらもみすみす逃がすようなことはもうしたくない。

素早く、かつ慎重に......最優先はリィリさんの救出。

その為にはしっかりと段取りを整えて挑まなくてはいけない。


「最初に、魔道国側の鏡の魔道具を解体するのじゃ。ケイが居れば、向こうから魔道具を起動してここに接続することは可能じゃろ?」


「大丈夫です。」


「では妾とケイで一度向こうに行くのじゃ。レギ殿はこの場を確保しておいて欲しい。」


「了解だ。」


「続きは戻ってきてから話すのじゃ。それとマナス、ファラの力が必要じゃ。ダンジョンの把握は部下に任せてレギ殿と合流するように伝えてくれるかの?」


俺の肩に乗っているマナスが軽く弾み了承する。


「では、ケイ。急いで向こうに戻るのじゃ。」


「了解です。」


俺が頷くとナレアさんが足早に鏡の魔道具を潜り抜けていき、俺もすぐに後を追う。

俺が鏡から抜けたのを確認して、すぐにナレアさんが作業に取り掛かった。

ものの数分でナレアさんは鏡の魔道具から二つの魔晶石を取り外し俺に渡してくる。


「よし、ケイ。接続を頼むのじゃ。ちゃんとレギ殿の元に戻ることが出来れば、後はリィリを助けるだけじゃ。」


「分かりました。少し時間を貰いますね。」


ナレアさんの取り外した魔晶石を手に、再度俺は意識を集中させる。

先程までいた場所という事もあり、すぐに対となる魔道具の場所を把握した俺は接続を試みる。

魔道具による補助があるとは言え、やはり接続は難しい。

俺は集中を途切れさせない様に細心の注意を払いつつ、接続を発動させる。

思考加速を使っている状態でも五分程度の時間をかけ、ようやく魔法が発動した。


「......ナレアさん。接続しました。僕の手の先にある空間から向こうの鏡のある場所まで行けるので先に......すみません、僕の手を引いて貰えますか?」


距離のせいか、自発的に動こうとすると接続が不安定になる。


「うむ、ゆっくりと進むから、問題があったらすぐに言って欲しいのじゃ。」


「お願いします。」


俺は目を閉じたまま、ナレアさんに手を引かれて進んでいく。

呼吸を整えながら接続を維持する。


「ケイ。もう大丈夫じゃ。接続を解除しても良い。」


どのくらい時間が経ったか定かでは無かったけどナレアさんから声が掛かり、俺は目を開けると同時に接続を解除する。

接続をしていたのは短時間だったにもかかわらず、物凄く疲れた......。

魔力を扱えるようになって以降、ここまで疲れたのは初めてかもしれない。

俺が脱力しそうになるとナレアさんが支えてくれた。


「随分と大変だったようじゃな。」


「えぇ......想像以上でしたね。まだ当分、目で見えない場所への接続は僕には無理だと思います。魔道具の補助があってようやくって感じで。」


「すまぬのう......後最低でも二回は接続をしてもらうことになるのじゃ。」


「いえ、大丈夫です。リィリさんを助ける為なら、この程度の苦労どうという事はありませんから。」


「そう言ってもらえると助かるのじゃ......動けるかの?」


「えぇ、もう大丈夫です。ありがとうございます。」


俺の疲労を窺うようにナレアさんが尋ねてくる。

結構心配させてしまっているみたいだな。


「大丈夫か?ケイ。」


俺達が戻って来たのを見てレギさんが俺達の元に近づいて来たのだが、俺の様子を見て心配そうな表情になる。


「えぇ、少し疲れただけですから、問題ありません。ナレアさん次はどうしたらいいですか?」


「うむ......とりあえず、ケイはそこの椅子に座るといいのじゃ。ファラは......。」


『お待たせして申し訳ありません、ただいま合流しました。』


「いや、丁度良かったのじゃ。それでは今後の動きについて話を始めるのじゃ。妾達の目的はリィリの救出。それ以外は些末事、その認識で良いの?」


俺とレギさんに向けて確認するようにナレアさんが言う。

俺達は当然と言うように頷く。


「さらに言えば、リィリを助け出した後なら好きにして構わない。そうじゃな?」


なんだろうか......間違ってはいないはずだけど安易に頷いてはいけない様な気もする。

俺と同じことを思ったのかレギさんも先程の様にすぐには頷いていない。


「......ほほ。二人とも理性的で何よりじゃ。では、そこは置いておくとして......妾の考えは単純じゃ。再びケイには頑張ってもらわねばならぬが......まずは、奴らの逃げた先とこの場を接続してもらう。ただし、ほんの小さくじゃ。」


「......ファラを送り込むという事ですね?」


「その通りじゃ。マナスの分体を連れたファラに先行してもらう。そしてその際、先程回収してきた魔道具を持って行ってもらうのじゃ。」


「なるほど......。」


ナレアさんの狙いは分かった。


「送り込んだ先がどうなっておるか分からぬ。拠点かもしれぬし、ただの移動用に使われている家屋かもしれぬ。故にファラには偵察、そして出来ればリィリを発見してもらいたい。ファラ、配下のネズミ達は必要かの?」


『向こうの状況次第ですが、最初は私一人の方が良いかもしれません。後から配下を送っていただくことは可能でしょうか?』


「それについては......。」


ナレアさんが俺の方を見る。

その視線が若干気遣わしげだけど、俺は軽く笑いながら頷く。


「大丈夫だよ、ファラ。必要に応じてこちらからファラの配下の子達を送り込むから、マナスを通じて連絡してくれるかな?」


『承知いたしました。』


視線をナレアさんに向けると、やり取りを見ていたナレアさんが軽く頷き話を続ける。


「向こうの状況は逐一マナスから報告をしてもらうのじゃ。ファラは最優先でリィリの居場所を突き止めて欲しい。リィリを発見次第、妾達も動き始めるが......どう動くかは状況次第じゃな。一番理想的な状況はリィリが自分の意思で動ける場合じゃな。例えば、牢のような場所にとらわれている場合とかじゃ。手枷や足枷があったとしてもある程度の自由が利けばこちらのものじゃな。」


リィリさん本人が動けるのが一番簡単な話ではあるけど......。


「クルストさんがリィリさんを攫った時に使っていた、動きを封じる魔道具の事を考えると......リィリさんが自力で動けるかは微妙な所ですね。」


「そうじゃな。そもそもリィリを自由にしたら、多少の手枷足枷程度では動きを封じられぬしのう。檻程度、暴れて崩壊させるじゃろうな。」


「ちげぇねぇ。」


レギさんがくくくと笑う。

レギさんも冗談に乗るくらい落ち着いて来たみたいだね。


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