第37話 依頼の報酬



「にーちゃん、そんなに緊張するなよ!馬に緊張が伝わって余計危ないぜ?」


御者台で手綱を握る俺の横でレギさんが呆れたように注意をしてくる。

元々日本にいた頃から自分以外のものを動かす機会なんてなかったんですよ......車の免許もまだとってなかったし......。

自転車とは違うよね......。


「その様子じゃぁ街までは持ちそうにねぇなぁ。交代しながら操車したほうが良さそうだな。」


「......すみません。」


まだ村から出てもいないのに既に俺はかなり疲れていた。

でも村の中の方が緊張すると思うんですけどその辺どうですかね?

道は広くないし、物は多い、人も多い。

子供なんか飛び出してきた日には......!

あ、やばい緊張しすぎて吐きそう。


『大丈夫ですかケイ様?今周囲には村人の姿はございませんので......あまり緊張されずとも大丈夫ですよ?』


俺の膝の上で周囲を警戒してくれているシャルが俺からは見えない周囲の状況を教えてくれる。

その姿は昨日羞恥にぷるぷる震えていた時と違い凛々しかった。


『な......なんでしょうか?』


「......何でもないよ。」


俺が見ていることに気づいたシャルが振り返りながら尋ねてくる。

なんかちょっと警戒しているような気もするけど......とりあえず撫でておこう。

シャルの尻尾がパタパタと動くのを見ると少しだけ体の緊張が解れたような気がする。


「よし、にーちゃんそこで止めてくれ。力任せには引くなよ、少し引けば理解してくれる。」


「......はい。」


手綱を軽く引くと徐々に速度を緩めた馬車は停止した。

御者台を降りて背筋を伸ばす。

魔力とか魔法で身体強化されているのに馬車移動は辛いなぁ、身体機能が上がってもこういうのには効かないのか......それとも身体機能が上がっていてもこれだけキツイのか......。

そういえば、この村に来た時もレギさんは疲れてはいたけど辛そうではなかったな......慣れなのかなぁ......。



「体が固まりますね......。」


「にーちゃんは緊張しすぎだ。さっきも言ったが馬は臆病で賢い、緊張が伝わって余計な事故を起こすぞ?」


「うーん、努力します。」


俺とレギさんは村の出口まで馬車で移動してきていた。

今日はこれから街に帰るのだが、御者をやる緊張と馬車移動をするという絶望ではっきり言って気が重い。

誰かに馬車運んでもらって、シャルに乗って帰りたいなぁ......。

......まぁそういうわけにもいかないよねぇ。


「レギ殿、ケイ殿。この度は本当にお世話になりました。何度お礼を言っても言い尽くすことが出来ません。」


「村長、昨日も散々お礼を言ってもらった。今日はもう出発の挨拶だけで十分ですよ。」


「......承知いたしました。お気をつけてお帰り下さい。そしてまた何かの折には是非この村に立ち寄ってください、歓迎させていただきます。」


「その際はまたお世話になります。」


村長さんとレギさんが挨拶をしていると昨日ダンジョンから救出したリノちゃんが近づいてきた。


「ケイー、レギーこれあげるー。」


そう言うとリノちゃんは俺とレギさんにそれぞれ石を渡してきた。


「ありがとうリノちゃん......あれ?この石って......。」


「こりゃ、魔晶石じゃねぇか。がきんちょ、これどうしたんだ?」


リノちゃんが俺たちに渡してきたのは小ぶりではあったが魔晶石だった。

確か魔晶石ってこのサイズでも結構いい値段だったよな......。


「きのうひろってきたー、きれいだったのー。」


「あの状況でダンジョンから拾ってきたのか......?なんつーか、大物だな......。」


「レギ殿、ケイ殿。孫が何かご迷惑を......?」


リノちゃんは村長さんのお孫さんだったのか......。

それで昨日村長さんはあれだけ取り乱していたのか、連れて帰った時もすごかったもんな......。


「いえ、そういう訳ではありません。どうやらお孫さんが昨日ダンジョンから魔晶石を持ち帰ったようです。」


「魔晶石を!?」


「小ぶりなものですが、それなりの値段になると思います。ダンジョンの査定が終わってからギルドに売っても、何かの時の為に残しておいてもいいと思います。」


「やはりダンジョンからは魔晶石がとれるのですな......。」


「取りに行こうとは考えないようにしてください。非常に危険な場所です。それよりも冒険者を誘致して村を活性化させた方がいいと思いますよ。宿屋や飯処の用意は必要ですが、その分外貨が今までとは比べ物にならないくらいに入ってきます。まぁこの辺はダンジョンの規模にもよるのでギルドと相談して決めるといいですよ。それにダンジョンの攻略後でも魔晶石は消えませんしね。」


「......そう、ですな。ありがとうございます。村の者たちも改めてダンジョンに入らないように伝えておきます。」


村長さんとレギさんが村の今後とダンジョンについて話しているようなのでリノちゃんの相手は俺がしておこう。


「リノちゃん、ありがとう。でもこの石はすごく綺麗だからリノちゃんが大事にしたほうがいいと思うな。」


「そうかなー?うーん、じゃぁ。こっちあげるー。」


そう言って別の石を取り出す。

......どれだけ石持ってるのかな......?

リノちゃんが取り出した石は角が取れて丸くなっていた。

川で拾ってきた石かな。


「凄く丸くて綺麗な石だね!ありがとう!」


「うんー、つるつるー。」


「そうだねー、つるつるでピカピカしてて凄いねー。」


リノちゃんのくれた石について二人で褒めちぎる。

そういえば子供の頃、砂で削られたガラスのかけらとか海でよく拾ったなぁ。


「ど、どうされました?レギ殿、何やら雰囲気が......。」


「いえ、何も問題はありません。えぇ、ありませんとも。」


「そ、そうですか......?」


「そういえば昔、おにーちゃんもつるつるでぴかぴかの石をよく拾って集めてたなー。」


「ぴかぴかみたいなー。」


「ごめんね、今は持ってないんだ。」


「そっかー、ぴかぴかざんねんー。」


「レギ殿!?御気分がすぐれないのでは!?」


「いえ、全く問題はありません!さて、そろそろ名残惜しくはありますがお暇させて頂こうと思います。にーちゃんそろそろ出ないと日が暮れて街に入れなくなるぞ!」


「わかりました!それじゃぁリノちゃん、またね!綺麗な石をありがとう!」


「またねー。」


俺とレギさんは御者台に乗り込み馬車を動かす。

ここから街まで半日ほど、日が暮れる前に街に着かないと街門は閉ざされてしまう。

俺が操車することも考えるとぎりぎりかもしれないな......。

こうして俺たちは初級冒険者としての最後の仕事、そして初めてのダンジョンを経験した村を後にした。


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