第38話 帰り道にて
のんびりとした風景とは裏腹に御者台に座る俺は緊張に包まれていた。
手綱を握る手は固く腰は鈍痛を訴えてくる。
「いや、いい加減そろそろ慣れろよ。」
「操車はそこそこ慣れてきたと思うんですけど......この振動がきついんですよね......。」
「あぁ、そっちか。そっちは慣れるにはもう少し時間がかかるかもなぁ。」
「はぁ......そうですよね......。」
「よし、操車を代わろう。」
「いいんですか?」
「あぁ、その代わりと言っちゃなんだが......少し話をしたいことがあるんだ。」
レギさんの表情が少し硬くなる。
何となくこちらも緊張しちゃうな......。
「何でしょうか?」
「聞きたいことがいくつか、それとは別に聞いてもらいたいことと、それに頼みが一つ......。」
「分かりました。どの話から......。」
「そうだな。聞きたい事から話そうと思うが、これはあくまで好奇心からだ。言いたくない、言えないような事であれば答えなくていい。」
「分かりました。」
「......俺がダンジョンで倒れた時、あれは間違いなく致命傷だった。助けてもらった身でこんなことを言ってもいいものかとは思うが......一体何をしたんだ?」
「あぁ、それだったら回復魔法ですよ?」
「......回復、魔法?」
「えぇ、魔力操作を覚えてから魔法が使えるようになったのでずっと練習していたんですよ。あそこまでの大怪我を治すのは初めてだったんですけどうまくいって良かったです。」
「......そうか。っていや、まて。ここで納得した感じにしてスルーしたら今までと同じだ。話しても問題ないって言うなら徹底的に言聞くぞ?」
レギさんからの質問タイムが始まった。
それに対して俺は話せる範囲で答えていく。
流石に母さんや加護の事は話すつもりはないけど、俺に関することはほとんど話してしまってもいいと思っている。
まぁこの世界とは別の世界の人間です、っていうのはちょっと理解のキャパシティーオーバーだろうから今回は言わない。
「遺跡で発見された魔道具を使ったのかと思っていたんだが......魔法......か。いやにーちゃんを信じないわけじゃないが......しかし......魔法......。」
思った以上にレギさんが大混乱している......。
この世界にちゃんと存在したものだから通じると思ったんだけどな......。
そういえばデリータさんもおとぎ話って言ってたか......。
そう考えると、日本で魔法で明かり点けていますって言うのと大して変わらない話かな......。
「すまない、大丈夫だ。その......魔法は俺でも使えたりするか......?」
「すみません、レギさんでは魔法を使うための条件が満たせないので無理だと思います。」
「そうか......残念だ。」
『恐らくこの者では加護を授かったとしても魔法は使えないと思います。保有している魔力が少なすぎるので。』
おっと、母さんから加護を貰えればって思っていたけど、魔力量という問題もあるのか......。
「じゃぁ、次の質問だ。にーちゃんは、動物の言葉が分かったりするのか?」
「え?動物の言葉ですか?いえ、分かりませんけど。」
「あ?そうなのか?それにしちゃぁそこのシャルとかマナスとかと意思の疎通が完璧すぎると思うんだが......。」
「あぁ、そういう事ですか......。」
これは俺の話じゃなくってシャルの事だからな......。
念話の事は言わずに意思疎通が出来るって感じにしておくか。
「マナスとは無理ですが、シャルとならかなり正確なやりとりが出来ます。マナスの方は......勘ですね。こちらの話は理解しているようですけど。後今はいませんがグルフの考えも何となくって感じですね。ファラも似たような感じですが、みんな賢いのでこちらの言うことはちゃんと理解していますね。」
「グルフもある程度って感じなのか。ん?ファラってのは?」
「ファラは最近仲間になったファットラットです。街で情報収集してくれています。」
「ファットラット......?あぁそれでファラか。相変わらずだな。情報収集って言うのは?」
「街で色々な噂とかを集めてくれているんです。まぁ僕はファラと会話が出来るわけじゃないのでシャルが情報は管理してくれているんですが。」
「それはすげぇな......ってことはシャルが仲介すればほぼ話せるって感じになるのか......。」
「はい、そうなりますね。みんな賢くてとても頼りになる仲間です。」
「にーちゃんの周りは動物ばっかりだな。なんかそういうのに好かれる匂いでも出してるのか?」
「そういうわけじゃないと思いますけど......。多分。」
絶対にないとは言い切れないけど......。
なんかいい匂いしてるのかな......。
『ケイ様はとてもいい匂いがしますが、ケイ様の元に我々が集うのはケイ様が素晴らしい主だからです!』
いい匂いしてるのか......。
それに素晴らしい主っていうけど......グルフとファラはシャルが配下として従わせたんだし、シャルは母さんから命じられてだよね......。
俺の事を気に入ってくれてついて来てくれたのはマナスだけじゃ......。
気に入った理由も......魔力がおいしかったとか、そんな感じなんじゃ......。
そう考えるとちょっぴり切なくなった。
とりあえず肩にいるマナスを撫でておこう......。
「なるほどなぁ、まぁ動物に妙に好かれる人間ってのはいるからな。じゃぁ次の質問......もしかするとこれは答えを既に聞いてるかもしれないな......。もしかして魔法って言うのは傷を治したりする以外にも使えたりするのか?具体的に言うとにーちゃんが戦闘する時に何か魔法を使っていたりするのか?」
「えぇ、使っていますよ。身体能力を強化魔法で上げています。」
「初めて森で手合わせした時と比べて速さが段違いだったからな......なるほど、あの理不尽な頑丈さも魔法のお蔭か。」
理不尽って......あぁ、イノシシの時のアレか。
まぁ確かにあれは理不尽の塊だったか......。
「しかし、聞いたのは俺だが、なんでもぼろぼろ話しすぎじゃないか?正直殆ど秘密にされると思っていたんだが......。」
「秘密にするほどのものじゃないと思いますけど......。」
「にーちゃん、最近は慎重になってきたのかと思っていたがやっぱりまだ駄目だな......。俺の反応から分かってるとは思うが、魔法なんてのはあり得ない代物だ。まだ遺跡で発見された魔道具の効果って言う方が現実味がある。まぁどちらにしても傷を治す......致命傷を治す魔道具なんてあの魔晶石どころの騒ぎじゃないぞ?冗談抜きで暗殺者が送り込まれるレベルだな。これはそんな魔道具があればって話だがにーちゃんの場合はそれを魔法でやっちまうんだろ?回数制限とかあるのか?」
「いえ、特にないですけど。まぁ流石に連続して使いまくったら魔力が切れちゃいますけど」
「......それはもう際限なく使えるに等しいよな?休憩すれば使えるってことだろ?治療に引っ張りだこならマシな話で、下手すりゃ国を挙げてにーちゃんの争奪戦が起きてもおかしく無いぞ?いやだろ?自分をめぐって各国が戦争だ。」
「......ぞっとします。」
俺の事......というか魔法を巡って戦争が起きる......俺のうかつな行動が原因で......。
シャレにならないな......。
「にーちゃんからすれば大したことじゃないのかもしれない。でもその価値は計り知れないんだ、もう少し自覚したほうがいい。」
「......わかりました......ところで、この話罠だったりしました?」
「いや、知りたかったのは事実なんだがな。あまりに無防備なもんで説教が出てきちまったんだよ。」
「......すみません。」
「まぁ聞いたのは俺だがよ......。」
「聞いてきたのがレギさんだったので。さすがに信頼してない人にはほいほい話さないですよ。」
「......そうか。」
レギさんはバツが悪そうに頭を掻いている。
レギさんの事は信頼しているしこのくらいは話してもいいと思ったのだ、まぁ全てを話したわけじゃないけど。
少し話が途切れる。
馬車が動く音は結構大きいので静寂には程遠い。
「......聞きたいことはこんなところなんだが......。」
「はい。」
レギさんがどこか話しにくそうにしている。
俺への質問はついで、というか本題はこっちなのだろう......。
「......まぁ、ダンジョンで不甲斐ない所を見せちまったからな......情けない話だとは思うんだが......にーちゃんに聞いてもらいてぇんだ。」
「はい、聞かせてください。」
「にーちゃんは冒険者の二つ名って知ってるか?」
「えっと、異名とか勇名とかそういったものですよね?」
「あぁそれで間違いない。んでよ、俺にもあるんだ、二つ名がよ。」
そういえば以前、確かクルストさんに聞いたことがある様な......レギさんは二つ名持ちと。
「正式な二つ名ってのは偉業を成し遂げた奴がギルドや国から与えられたりするものなんだが、冒険者たちの間で噂になって自然と呼ばれるようになる奴もいるんだ。俺は後者だな。」
勲章の様な扱いのものと通称みたいなものってことか、レギさんの二つ名は通称と。
「俺の二つ名は『最強の下級冒険者』だ。」
最強の下級冒険者......これは褒めてるわけじゃ......ないよね?
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