第39話 レギの過去
View of ケイ
「最強は言い過ぎだと思うがな。」
レギさんが苦笑しながら頭を掻いている。
最強の下級冒険者か、クルストさんが言い淀んだのはこのせいだな。
「にーちゃんも疑問に思ったんじゃないか?俺が冒険者として活動している期間は十五年程だ。中級冒険者になる条件は満たしていてもおかしくないはずだと。」
「そうですね......それは確かに思っていました。」
依頼の達成二十件、それに試験の突破。
どちらもレギさんが達成できないものじゃないと思っていた。
だけど......。
「今回の事でなんとなくわかったと思うが......俺は......ダンジョンが苦手......いや、はっきり言おう。ダンジョンが怖いんだ。」
「ダンジョンが怖い......ですか。」
確かにダンジョンの中でのレギさんの様子は怯えていたようにも見える。
「今回ダンジョンに足を踏み入れたのは十年ぶりくらいだな。今まではダンジョンに入る前に意識を失っていたからな。」
「意識をですか!?」
「ははっ!情けない話だろ?冒険者がダンジョンを怖がるんだ。」
「いえ、そんなことはないと思いますが......何かきっかけがあったんですか?」
「......まぁ、ここからは俺の身の上話になっちまうんだが......。」
そう言ってレギさんは話を始めた。
View of レギ
さして広い畑を持っているわけでもなく、新たな土地を開墾できる程の人手もない。
俺はそんなどこにでもある農家に生まれた三男坊だ。
畑や家は長男が継ぐ、次男は長男のサポートと長男に何かがあった時の要員。
三男まで行くとただの労働力、大人になれば放逐される身だ。
どうせ放逐されるのならばと次兄が成人したのを機に村を出ることにした。
その時俺と一緒に幼馴染が二人、俺と一緒に村を出ることになった。
俺と幼馴染の二人、ヘイルとエリアの三人で村を出ると妹分であるリィリに話したときは盛大に泣かれたんだが、流石に十歳に満たない妹分まで連れていくことはできなかった、俺達は村にリィリを残して旅立った。
それから俺たちは街に出て日雇いの仕事をこなし糊口をしのぎつつギルド登録に必要な費用を貯めて冒険者へとなる。
当時は初心者の冒険者に対する教育なんてなかったしな、自分たちで情報を集めながら手探りで仕事をこなしていったもんだ。
時間はかかったが俺たちは順調に下級冒険者になり、冒険者になって三年程で中級冒険者になるのに必要な依頼数もこなして後は試験を受けるだけになった。
丁度その頃に俺達を追って村を飛び出したリィリが俺たちの所に転がり込んできた。
いや、それだけなら別に良かったのだが、リィリに見つかった俺たち三人は三日三晩に渡って説教された。
呑まず食わずで三日三晩を過ごした俺たちは見事にぶっ倒れたもんだ。
リィリはそのまま俺たちの仲間に、冒険者になったがランクが違ったからな、まずはリィリに経験を積ませて中級冒険者の試験を受けられるところまで足並みを揃えようって話になった。
俺たちの手助けもあって2年足らずでリィリも残すところはダンジョンの試験だけになった。
元々俺たちは試験の前からダンジョンに入って魔晶石の採取とかしていたからな、試験なんて楽勝だと考えていた。
試験で使われるダンジョンは難易度の低いもので危険なんてほとんどない。
当然そこはダンジョンなのだから安全とは程遠い場所だ、それでも対応出来るだけの備えは用意しておいたつもりだった。
実際試験は問題なかった、指定された量の魔晶石を採取してボスの代わりとなる魔物も討伐した。
試験はあっさり終わり、後は引き上げるだけって時だった。
地震が起きたんだ。
そのダンジョンは谷間にあってな、まぁ揺れたら頭上を注意するよな......?
俺たちも当然そうした。
次の瞬間、俺たちは崩落した地面に飲み込まれた。
それは本来起こり得ないこと、二つのダンジョンが繋がった。
谷底のさらに地下にもう一つ誰も知らないダンジョンがあったんだ。
それが地震による崩落によって見つかったのは幸運だったと言えるだろう、ダンジョンを長年放置すれば大変なことになるからな。
しかし巻き込まれた俺たちからすれば地獄以外の何物でもない。
俺たち四人に試験官役の冒険者が一人、崩落に巻き込まれ全員が負傷している上に物資の半分以上を失っていた。
特に状態が酷かったのは試験官とエリアの二人だ。
エリアは両足が折れ、試験官に至っては下半身を岩に押し潰されていた。
結局手当てすることも出来なくてな......試験官は程なく死んでしまった。
俺たちは四人で地上への道を探した、崩落現場はとてもじゃないけど道具もなしに登れるようなものじゃなかったからな。
ヘイルがエリアを背負って移動していたんだが奴も結構怪我が酷くてな途中で代ろうともしたんだが、自分が運ぶって聞かなくてよ。
俺は長いこと知らなかったんだが、あいつらは付き合っててよ......。
遅れて仲間になったリィリがそれをあっさり見破ってな。
だが酷い話だと思わないか?
リィリが来るまでの数年、三人で組んでてよ......そのうちの二人がこっそり付き合ってたんだぜ?
いや、付き合うのは別に構わねぇよ?
でもよ、教えてくれてもいいだろ?
二人の邪魔をするなってリィリに怒られたこともあったな......。
まぁそれはいい......俺たちは長いことダンジョンの中をさまよった、元々未発見のダンジョンだからな地上に出られる道があるのかもわからなかったが兎に角上へ向かって移動していった。
崩落に巻き込まれて二日くらいたった頃......エリアが死んじまった。
足の骨折だけじゃなく頭か腹か、見た感じじゃわからなかったんだが怪我をしてたみたいでな。
ヘイルの奴がどうしてもエリアを連れて帰るって言って、まぁ俺たちも置いていくなんて出来なかったんだがあの判断は正しいとは言えないな。
次の戦闘でヘイルがやられた、体力的にも精神的にもエリアが死んだことで切れちまったんだろうな......。
俺も、その時心が折れちまったんだがリィリにぶっ叩かれてよ。
今は二人を置いていくけど私は必ずここから生きて帰る、帰ってもう一度ここに二人を迎えに来る!
そう啖呵を切られてよ。
妹分にそう言われちゃ立ち上がるしかなくてな......。
二人でさらに上り続けたんだが、戦闘中にまた崩落があってリィリとはぐれちまった。
何とか合流しようとしたんだがどれだけ探しても合流することは出来なかった。
一人になって、食料も尽きて、何日経ったのか分からなかったが、気付いたら俺はダンジョンの外に立っていた。
結局、リィリもダンジョンから戻ってこなかった......。
俺は何度もそのダンジョンに行こうとした、だが一度も中に入ることが出来なかったんだ。
そしてそれは他のダンジョンでも同じでな、入り口まで行ったら気絶しちまう。
何度も何度もダンジョンに入ろうとしては倒れて......だが諦められるわけがないだろ?
俺はあいつらを迎えに行かないといけないんだ。
それから十年、俺はまだあいつらを迎えに行けていない。
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