第463話 決定的



『ケイ様、クルストを発見しました。傍にリィリはいない様子です。』


俺達の元に駆け込んできたネズミ君の報告をシャルが伝えてくれる。

リィリさんはまだ見つけられていないのか......。


「レギさん、ナレアさん。クルストさんを見つけました、リィリさんは居ないみたいですが......。」


「案内してくれ。」


レギさんが少し気をもんだようにしながら言ってくる。


「分かりました。シャル、クルストさんの所に案内を。」


『承知いたしました。』


シャルが俺の肩から飛び降りて体を成犬サイズに変化させる。

そして先頭に出ると、俺達が着いて行ける程度に駆け出す。

俺達は隊列を崩さない様にしながらシャルについて走り出した。


『罠等は既に解除してあります。道中魔物もいないので戦闘に支障がない程度に急ぎます。』


「罠と魔物の心配はいらないそうです!」


「分かった!」


走りながらシャルが教えてくれたことを二人に伝える。

シャルが先頭を走っているのだからその辺の心配はしていないだろうけど、伝えておいた方が良いに決まっている。


「レギ殿!幻惑魔法を使えば気づかれる前に制圧できるが、どうするかの?」


「......リィリがどこにいるか聞き出すことを最優先にする。幻惑魔法を掛けてくれ。」


ナレアさんの提案に、一瞬考えるそぶりを見せたレギさんだったが幻惑魔法を使う決断を下す。

クルストさんと正面から話したい気持ちもあったのだと思うけど......現状クルストさんが味方だとは考えられない。

誰かに脅されたりしている可能性も否定できないけど......少なくともリィリさんを攫うと言う決断をしている以上、敵と思って行動した方がいいだろう。


「了解じゃ。それとクルストが檻だった場合、自決用の魔道具を仕込んでおる可能性があるのじゃ。」


「対抗手段はあるか?」


「......良いやり方ではないが、一気に制圧して、そのまま歯に仕込んでいる魔道具を引っこ抜くくらいしかないのう......。」


「力技か。」


「魔道具を発動させないようにするのは困難じゃからな......。」


「だったら弱体魔法で一回意識を飛ばしますか?」


二人ともあまり良い案が思いつかない様なので提案してみる。


「......それは、魔道具を無力化した後すぐに意識戻せるか?」


「試したことが無いので......すみません、分からないです。」


「出来ればすぐに尋問がしたいからな......意識が戻らないと困るな。」


確かにそうだ......。

俺達の目的はクルストさんをどうこうすることでは無く、リィリさんを助け出すことだ。

今クルストさんの傍にリィリさんが居ないことから、クルストさんへの尋問は必須だろう。


『もうすぐ接敵しますが、止まりますか?』


「そろそろクルストさんが居る場所が近いようです。」


「既に幻惑魔法は発動しておるが......どうする?レギ殿。」


「......突っ込んで力づくで引っこ抜く。」


「万が一間に合わなくても恐らく解毒は可能です。絶対ではありませんが。」


「もしもの時は頼む。」


レギさんの言葉に俺は頷く。


「シャル、止まらずにこのまま行こう。」


『承知いたしました。この角を曲がった先に相手が居ます。』


曲がり角を右に折れ、シャルが言う。


「レギさん!この先真っ直ぐにクルストさんが居ます!」


「了解だ!」


シャルが走る速度を緩め、逆にレギさんは速度を上げる。

俺達の視線の先には......大きくため息をついているクルストさんの姿が見える。

その姿を確認した瞬間、レギさんが弾丸のように飛び出した!

俺達の姿はナレアさんの幻惑魔術により隠されている。

クルストさんは俺達......急速に接近するレギさんに気付く事は無く......その勢いを殺さずに放たれたレギさんのボディブローを無防備に喰らう。


「うぼぇ......!」


なんとも言えないうめき声を上げたクルストさんは、混乱から立ち直る暇もなく追撃の投げを喰らい地面に転がる。

レギさんはそのままクルストさんの顎を掴んでクルストさんの口を開かせてると、口の中に手を突っ込み勢いよく引き抜いた!


「あ、が!?」


一瞬痛みに顔を顰めた様なレギさんだったが、腰に差していた予備の剣を抜くとクルストさんの首に当てる。

そしてそれと同時にナレアさんが俺達に掛かっていた幻惑魔法を解除した。

クルストさんからすれば、突然の痛みに混乱していた所に、目の前に突然剣を突きつけているレギさんが現れたのだ。

混乱はなおも加速していると言った感じだろうと俺が思った時、クルストさんが口を開く。


「ば、かな......早すぎる。」


顔を歪ませてレギさん、そして視線だけで俺とナレアさんの方を見ながら苦し気に言う。


「クルスト......てめぇ......。」


聞いているこちらが底冷えするような押し殺した怒りを湛えながら、レギさんがクルストさんの名を呼ぶ。


「......歯の治療にしては強引過ぎじゃないっスか?」


「減らず口を叩いている余裕があると思うか......?」


首に突き付けていた剣にぐっと力を籠めるレギさん。

そんなレギさんを普段の飄々とした表情で見つめ返すクルストさん。


「あー、一体これはどういう事っスかね?」


「この状況で分からないのか?」


レギさんのその言葉にクルストさんの表情が変わる。


「......突然過ぎて何が何やらっス。」


クルストさんの韜晦には付き合わずレギさんは言葉を続ける。


「クルスト......お前は何者だ?」


「......仕込んでいた魔道具を一直線に狙ってきたのだから俺の素性は把握しているのだろ?」


「お前の口から聞かせろ。」


口調の変わったクルストさんが口元を歪ませる。


「この状況でもレギさんはレギさんっスね。人情厚く......人を失う事に臆病っス。」


「......。」


いつもの口調に戻ったクルストさんに、レギさんは感情を殺したような表情のまま動かない。


「いや、すんませんっス。馬鹿にしているわけじゃないっスよ。寧ろ、本当に、心の底から尊敬しているっス。」


「そんな話がしたいわけじゃない。どこにいる?」


「......まぁ、そうなるだろうが......いくら何でも早すぎるだろ。」


ぼやきながらクルストさんはため息をつく。

なんだ......?

あの状況で随分と余裕があるな......。


「そろそろ、余計な口は慎め。もう一度聞くぞ?どこにいる?」


「......。」


再度、剣を近づけるレギさんに対し、クルストさんは押し黙る。

もう刃は首に当たっている。

正直......緊張で吐きそうだ。


「ケイが泣きそうな顔しているっスよ?」


「そうか、俺達はお前が死んでも問題ない。少しだけ手間が増えるだけだ。まぁ、少しだけ悲しんでやるが、それだけだ。」


......とりあえず、泣きそうではないと思うけど......レギさんの言う事は間違ってはいない。

クルストさんがこの場にいた以上、少なくともこのダンジョンないしここから移動出来る場所にリィリさんは居るはず。

それさえ分れば俺達に調べられない筈はない。

いや、調べてくれるのはネズミ君だけど......必要ならこのダンジョンのボスを退治するくらいはする。

ダンジョンの規模も生息する魔物も分からないけど......目撃者もいないダンジョンなら遠慮する必要は無いし......全力で、自重無しで攻略に取り掛かれば、多分すぐに攻略できると思う。

ダンジョンでは普通のネズミ君達が活動しにくいし、とっとと攻略した方が調べやすいだろう。


「......まぁ、この場にいる時点で言う通りなんだろうな......無駄に死ぬのも面白くない、案内させてもらおう。」


「別に教えてくれりゃ自分達で行くが?」


レギさんは手にした剣を首に押し付けたまま鼻で笑う。


「俺がいないと扉は開けない。勿論、死体は鍵にならない。信じないなら殺せば......あ、いや、待って欲しいっス。殺さないで欲しいっス、ほんと俺が死んだら扉は開かないっス。」


クールな感じのクルストさんと俺達が接してきたクルストさん......どちらが本当のクルストさんなのだろうか?

まぁ、どちらにせよ、リィリさんを誘拐しておいてその軽い態度を見せるクルストさんに対し......ナレアさんが完全に感情を無くしたかのような表情になっているのが怖い。


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