第464話 ふわっと所属



「この短時間でどうやってここに辿り着けたっスか?」


「......。」


後ろ手に縛られた状態でレギさんに剣を突きつけられているクルストさんの先導で、俺達はダンジョンを進んでいる。

クルストさんは喋り続けているが、俺達は誰も返事を返さない。


「流石にこのままダンジョンの先頭を歩いていると、魔物に殺されちまうっスよ。若しくは、剣を突きつけられているせいで攻撃を避けた瞬間ブスリって可能性もあるっス。」


「死なない程度にはどうにかしてやる。とりあえず生きてさえいればいいんだろ?」


「......せめて魔物相手の安全くらいは保障して欲しいっス。」


「立場を考えろよ?」


「......それもそうっスね。」


全く悪びれた様子を見せないクルストさんだが......どういう心境なのだろうか?

あまりにも普段と変わらない様子のクルストさんに不気味さを覚える。

ナレアさんも最初の頃は怒り心頭と言った感じだったが、今は警戒するように注意深く様子を窺っていたのだが......徐にクルストさんに問いかけた。


「何故リィリを攫ったのじゃ?」


「......。」


ナレアさんの問いかけに、一度だけ視線を向けたクルストさんだったが......応じる事は無く、そのまま正面を向き歩き続ける。


「このダンジョンは一体どこにある?」


「......。」


「檻の狙いはなんじゃ?」


「......。」


「魔道国で何を企んでおる?」


「......。」


「お主の狙いはなんじゃ?」


「......。」


沈黙を貫くクルストさんに対して、立て続けに質問を続けるナレアさん。

俺は最後尾を歩いているのでクルストさんの表情は見えないけど、ナレアさんを気にする様子は全くない。

普段のクルストさんからは考えられない行動だ。

ナレアさん......いや、他人の話を無視するクルストさんは今までには見られなかった。

無視されることはよくあった気がするけど......。


「リィリは無事じゃろうな?」


「......恐らく。」


ナレアさんの問いに初めてクルストさんが返事をしたが......その内容は不穏当だ。

その返事を聞き二人の怒気が高まるが、前を歩くクルストさんは意に介したような素振りも見せず黙って先頭を歩き続ける。

クルストさんが何を考えているのかさっぱり分からない。

クルストさんがリィリさんを誘拐したのは、もはや疑うべくもない事だ。

つまり、俺達と言う知り合い......いや、友人よりも檻からの命令を優先したということだ。

その事が悲しいのか、怒りを覚えているのか......俺自身まだ混乱していてよく分からない。

リィリさんに何もなければ......誘拐されただけなら......俺はクルストさんを許せる、だろうか?

分からない......。

ただ......もし、万が一......リィリさんに何かがあってしまったとしたら......俺は......。


「俺には、誰を裏切ってでも......誰を犠牲にしてでも叶えたい願いがある。」


「「......。」」


クルストさんが喋りだし......俺達はその言葉を聞こうと耳を傾ける。

怒りを覚えながらも、やはりレギさん達もクルストさんの言葉を聞きたかったのだろう。


「大した話ではない。お前たちが裏切られたと思っているようなのでな......顔なじみとしてのせめてもの気遣いだ。」


そう言って鼻を鳴らしたクルストさんは、俺達を馬鹿にしているようにも見えるけど......どちらかと言うと自虐しているようにも見える。


「結局お前はリィリを攫って何をしたかったんだ?檻は何をしようとしている?」


「攫った理由については......俺からは、役に立つから、としか言えないな。詳しくはこの先にいる奴に聞いてくれ。だが、檻については......そうだな、目的地までは少しあるし、話してもいいか。」


この先にいる奴?

クルストさんの仲間......?

檻の人間......だろうか?

それと......檻については話してもいいのか?


「檻はな......俺も良く知らないんだが、過去に存在した神だかなんだかを蘇らせることを目的にしている組織だ。」


「過去に存在した神?」


クルストさんに剣を突きつけているレギさんが訝しげな声を上げる。


「魔術とは違った力を持っているらしくてな。その力を得てさらにはその果て、永遠の命を手に入れるのが檻の最終目標とか言っていたな。」


永遠の命って......そんなものに何の意味が......いや、それよりも最終目標が残念過ぎるのだけど。

まだ世界征服って言われた方が......いや、同レベルか。

ていうか過去に存在した神って母さん達の事?


「つまらぬ目標じゃ。」


「そりゃ、千年も生きる元魔王様からすればしょうもない話だろうな。」


「誰が千年じゃ!その半分も生きておらぬわ!」


クルストさんのとんでもない発言にナレアさんが声を荒げる。

そんなナレアさんの様子を鼻で笑いながらクルストさんが続ける。


「まぁ、そんなくだらない目標でも目標は目標だ。他人の目指す地点をどうこう言う資格は俺にはない。俺には関係ない奴等の事だとしてもな。」


いや、くだらないって言っちゃっているし......って言うか関係ないってどういうことだ?


「それに、あんたらには申し訳ないが又聞きなもんでね。どこまで本気かは分からんな。」


「どういう意味だ?クルスト、お前は檻の人間だろ?」


「まぁ......所属はしているな。」


レギさんの質問に物凄くどうでも良さそうにクルストさんが答える。


「こちらの目的を果たすのに便利だったからな。対価を得ている以上、相手の目的にも協力してやるのが筋だろ?」


「つまり、自分の目的の為に所属していただけで、檻に忠誠はないと?」


「あんなわけの分からない組織に忠誠を誓っている奴なんているとは思えないけどな。まぁ、基本的に下っ端は洗脳されているらしいがな。」


「洗脳か......。」


洗脳か......確かレギさん達も以前それを疑っていたっけ。


「その辺は詳しく知らない。俺は実働で、檻本体には近づいていないからな。」


「檻の本拠地はどこにある?」


「それは知らないな......。」


レギさんの問いに後ろ手に縛られながら肩をすくめるクルストさん......ちょっと痛そうだな。


「檻は魔道国で何を企んでいる?南方での魔物の襲撃は檻の仕業だろ?」


「あー、それは......少し違う。あれは俺達の仕業だ。仕掛けは檻がしたものだがな。」


「どういう意味だ?」


檻が仕掛けたものだけど檻の仕業じゃない?


「檻が魔道国で色々と企んでいてな......その仕掛けをちょっと使ったってだけだ。本来は数年後に使う予定だったものだ。俺の直属の上司が計画していたものだったんだが、必要なくなったんでついでに使ってしまえと。」


「ついでだと?人が死んでいるんだぞ?」


魔物の大規模な襲撃......問題なく対応できるとナレアさんは言っていたけれど......そりゃ、戦うわけだから人が死ぬ可能性は十分過ぎる程あったよね......。


「そのまま放置しておけばもっと大事になったはずだ。その被害に比べればかなりマシだと思うぞ?」


あっさりとそう答えたクルストさんに対し、レギさん達の怒気が高まる。


「本来の計画では、南と北で相当な規模の魔物の群れが襲来するはずだった。そして、戦力を吐き出した王都を狙うって作戦だったみたいだな。王都で何をするかまでは俺は知らないが。」


「ふん......結局手口は龍王国の時と変わらぬということじゃな。芸の無い事じゃ。」


ナレアさんの言葉にクルストさんが軽く嘆息して言葉を続ける。


「それだけ効果的ってことだろ?攪乱の為の戦力が時間さえあればいくらでも拡充出来る分、相手の戦力に合わせて計画が立てやすくなるからな。」


確かに、龍王国にせよ魔道国にせよ、各地で魔物の大量発生が起これば兵力を分散せざるを得ない。

龍王国はその隙をついて王都......神殿を襲撃された。

魔道国の場合は......その狙いまではクルストさんも知らないという事だったけど......まぁ、碌な物じゃないだろう。

永遠の命が欲しいだなんて子供じみた事を言っているくせに、本当に厄介な組織だ。

いや、それよりも神の復活って......魔神の事じゃないよね?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る