第465話 内心大混乱



クルストさんの話を聞きながらダンジョンを歩いていると、後方からネズミ君が駆け込んできた。

俺のすぐ横を歩いているシャルの傍で暫く何かを語りかけていたようだけど、すぐに俺達から離れダンジョンの向こうへと走り去っていく。


『ケイ様。まず最初に、リィリの事ですが......申し訳ありません、発見するには至っておりません。』


シャルの言葉を聞き、若干落ち込むけど......今はそこに気を取られず報告を聞くべきだ。

俺はシャルに軽く頷いて先を促す。


『次にダンジョンに関してですが、こちらは現時点で判明している情報となります。ダンジョンに発生している魔物は主にアンデッド、まだボスは発見出来ておりません。』


アンデッド系のダンジョンか......リィリさんの居たダンジョンを思い出すな。


『現在魔物の存在していない範囲を中心に探索をしているのですが、今の所、手がかりになるようなものは発見出来ておらず......。』


シャルがそこまで言ったところで再びネズミ君が駆け込んできた。


『ケイ様、申し訳ありません。追加の報告が来たようなので少々お待ちいただけますか?』


俺がシャルに頷いて見せるとシャルはネズミ君の方に視線を向ける。

それにしても、手がかりは無しか......恐らくネズミ君達が調べてくれている、魔物の居ない範囲と言うのがクルストさん達の活動範囲だろう。

魔物を操って警備替わりに使っているという線も考えられなくはないけど、その場合接続の魔道具が置いてある付近を守らせないのはおかしい。

ある程度動かすことは出来るけど、自在に操ることは出来ないと考える方がしっくりくるかな?

そんなことを考えているとシャルがこちらを向き、ネズミ君は再びダンジョンの向こうへと走り去っていく。


『申し訳ありません、お待たせいたしました。今ダンジョンの中に扉を発見したそうです。』


「......。」


扉?

ダンジョンの中に?

あぁ、でも元々扉の備え付けられた坑道とかがダンジョンになっている可能性もあるから、扉があっても不思議では無いのか。


『扉があるのはここから少し離れた位置で、今向かっている先とは少しずれているようです。扉を開くことは出来ず、未だ中を調べることが出来ておりません。』


ネズミ君達が開けられない扉か......坑道に作られた部屋だったら空気穴とかがありそうだけど......ファラの部下の子達が中を調べられないって言うくらいだから、ただの部屋では無いのかも知れない。

リィリさんが居るのはそこだろうか......?

......しかし、クルストさんはそこに向かっているわけでは無いみたいだけど。


「クルストさん、今向かっているのはダンジョンの外ですか?」


檻に関する話を色々としていたのであまり話を遮りたくはなかったのだが、俺達の目的は檻ではなくリィリさんの救出だ。


「......いや、違うが?」


一瞬だけこちらを見たクルストさんが俺の質問に答える。


「という事は......先ほどのクルストさんが居なければ開けない扉と言うのはダンジョンの中にあるということですよね?」


「あぁ。」


ってことは......向かう先はネズミ君達が発見した場所だろうか?

それとも他にも扉が?


「......僕の把握しているダンジョン内にある扉とは少し道がずれているみたいですけど?」


「......罠を避けて進んでいるからな。」


俺の問いかけに一瞬だけ間があった気がしたけど、何でもないと言った様子でクルストさんが言う。

しかし、すぐ背後にいるレギさんにはその動揺が伝わったようだ。


「時間を稼ごうとするな。もうこちらはある程度ダンジョンを把握している。」


「......。」




View of ???


意味が分からないことだらけだ。

少し前まで、全て上手くいっていた。

対象を油断させ、魔道具を使い無力化。

誰にも見られることなくダンジョンへと連れてきてアイツへと引き渡した。

気分的に楽しい物ではなかったが、俺達の目的を果たす為......仕方のない事だと割り切れる。

とは言え、いい気分とは言えなかった俺はアイツの研究室を離れ、ダンジョンの中を歩いていた。

少し体を動かすのもありかと考え、魔物共のいる方へと足を向けようとしたその時だった......突然腹に強力な一撃を受け悶絶。

抵抗も出来ずに一瞬で組み伏せられた。

これでも戦闘には自信があったし、突発的な事態への対処もそれなりだと自負していた。

しかし、成す術もなく捕らえられ......使うつもりは一切なかった自決用の魔道具まで奪われた。

お陰で歯と顎がズキズキと痛む。

次の瞬間姿を現したのは......俺が今一番会いたくない人物だった。

上級冒険者の『不屈』と『遺跡狂い』、それに下級冒険者の皮を被ったとんでもない実力者の三人組。

こいつらにバレない様に誘拐を成功させたと思っていたにも拘らず、あっという間にアジトにまで踏み込まれている。

ありえなさ過ぎるだろ......!

こいつらの実力が並外れているのは理解していたつもりだった。

だが......こんなにも規格外なのは想定外だ。

戦闘力だけではなく、情報収集、調査能力......とても人の成せるものとは思えない。

しかも迷うことなく自決用の魔道具を狙ってきたという事は、俺が檻の人間だとバレているという事だ。

どうやってその事を調べたのか......正直頭を下げてでも教えてもらいたいくらいだ。

はっきり言って、どのようにしてここに辿り着き、俺の秘密を暴いたのかに比べれば......姿を消した状態で襲い掛かって来たことなんてどうでもいい話だ。

まぁ、先に自決用の魔道具を狙ってくれたおかげで、武装解除される前に緊急連絡が出来たのは不幸中の幸いだった。

それにしてもどうやって誘拐の事に気付いたと言うのか......。

常に仲間の居場所を監視していれば、突然反応が消失した地点として調査することも出来るだろうが......仲間の居場所を常に把握し続けると言うのも現実的ではない様に思う。

そうなると俺が対象を攫った時点で気付いた......?

いや、仕掛ける地点は厳選したし、仕掛けた時も周りに人の気配はなかった。

しかも誘拐と言ってもまだ四半日も経っていない。

攫う前に確認したが、後は宿に帰るくらいしか用事はないと対象は言っていた。

そうであれば......時間的には少し帰りが遅いだろうかといった程度の時間のはず......それから探し始めたとして......いや、おかし過ぎる。

こいつらは完全に武装を整えてここに来ている......街を探すくらいで斧はいらんだろ......。

完全に仲間に何かがあったことを把握していて、かつ荒事になることが分かっていたような動きだ。

それとも仲間が攫われた先が、最初からダンジョンだと分かっていたのか......?

......護衛が常に張り付いていたか?

いや、その場合俺が仕掛けた時点で助けに来ないのはおかしい......。

後悔しても遅すぎるが......やはりこいつらに手を出したのは失敗だったか。

俺は内心の混乱を隠す様にしながら、こいつらの興味を引きそうな話をしながら適当な道を歩く。

既に俺の状況はアイツに伝わっている。

ある程度時間を稼げば何とかなるはずだ。

そんなことを考えながら歩いていたのだが......最後尾を歩く顔色の悪い奴......ケイの質問のせいで時間稼ぎもバレてしまった。

っていうかこのダンジョンの探索も済んでいるってことか?

いや、そうであれば俺を捕まえて案内させる必要は無い筈だが、扉の魔道具の事も調査済みという事か......?

元魔王の評判を聞く限りその可能性も十分あり得るが......そうなると、先程俺が居なければ扉が開かないと言った時は既にそのことを知っていたということになる。

だから俺を生かして......いや、こいつらの性格から考えてもあそこで俺を殺すことはあり得ないか。

もしかすると偵察系の仲間......この場にはいない、俺の知らない仲間がいるのかもしれないな。

まぁ、元魔王の仲間を王都内で攫うのはいくら何でも無理があったか......。

そもそもの作戦では、。南で頻発する魔物の襲撃をこいつらが調べに行くのに同行して攫うつもりだったからな......

俺が気付けない様な密偵が居たとは考えたくないが......今こうして剣を突きつけられている現状が物語っている。

さて......時間稼ぎはそろそろ限界だな。

俺は研究室方面に移動を始める。

......逃げるくらいは何とかしてもらいたいもんだが......。


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