第256話 ぽえみぃ



俺達がアザルの事について話をしていると部屋がノックされた。

ノーラちゃんが戻って来たのかと思ったが、すぐに男性の入室を求める声が聞こえてくる。


「カザン様。言われていた物をお持ちしました。」


「あぁ、御苦労。入ってくれ。」


カザン君が許可を出すとトールキン衛士長が部屋に入ってきた。

若干俺達の顔を見て気まずげにしているカザン君。

あぁ......これは多分、部下に対しての態度を俺達に見られて気恥ずかしさを覚えているんだな......。

友人に親との会話を見られて恥ずかしがる小学生的なあれだろうか......。

まぁ、なんとなく気持ちは分かるけど。


「お待たせいたしました。こちらです。」


トールキン衛士長が二枚の布をカザン君に差し出す。

受け取ったカザン君は無言でメモに目を通す。


「それでは、私は失礼します。」


そう言ってトールキン衛士長は部屋から出ていくけど、いいのだろうか?

それともカザン君がリラックスした様子だったから気を利かせたのだろうか。


「報告に聞いていた通りの内容ですね。しかし、領主館を調べれば私達が檻に狙われる理由が分かるとありますけど......これは確認する必要がありますね。怪しいのはアザルが調べていた書斎あたりでしょうか?」


「調べてみる?」


「そうですね......後で行くことにします。書庫の方にも皆さんを案内しないといけませんし。」


そうそう、黒土の森の情報を調べないとね......忘れてない、忘れてないよ?


「ところでケイさんが見落としたっていうのは......?」


「あぁ、その二枚目......そっちの裏に書いてある奴だ。」


カザン君の質問にレギさんが応える。


「裏......?あぁ、これは裏にも何か書いてあるのですね......ん?え......これは......。」


裏を見たカザン君の表情が百面相をしている。

一体何が書かれているのだろうか?


「......えっと......リィリさん、これどう思いますか?」


「ん?私?どれどれ......?」


何故かカザン君がリィリさんにメモを見せている。


「......なるほど......これは......ケイ君に読んでもらおうか。」


え?俺?


「机に置いてもらえれば、皆で覗き込めるんじゃないですか?」


っていうか、もう読んでないのは俺とナレアさんだけなのだから回し読みでもいいような......。

しかし俺の言葉にリィリさんは無言でメモを差し出してくる。

俺の意見は一考だにしないということですね。

仕方がないのでメモを受け取り広げる。


「えっと......銀髪の美しい君へ......あの、もう読むのやめていいですか?」


向かい側に座るナレアさんの顔が物凄く嫌そうに歪む。

これ以上読み進めるとナレアさんのご機嫌がかなり悪化すると思いますし......もういいですよね?

そんな思いを込めてリィリさんに視線を送るが......何故かやめていいとのお達しが出ない。

そんなリィリさんがナレアさんに何やら耳打ちをしている。

それを聞いているナレアさんの表情が少し変わった。

何か悩んでいるような......あまり見た事のない、なんとも言えない微妙な表情で口元をもごもごしている。

そして、何かを決心したような表情でリィリさんに耳打ちを返す。

うんうんと頷いたリィリさんがこちらを見て来た。

中止のお達しがでたのだろうか?


「じゃぁ、ケイ君。続きをどうぞ。」


まさかの続行指示!?

ナレアさんの方に目を向けると......すぃっと目を逸らされた。

これはどういうことだろうか......?

とりあえず、これは今すぐどうこう攻撃をされるわけではなさそうだけど......。


「......えー......では、続きを......訳あって貴方の元を去らなければならない我が身を不甲斐なく感じるばかりではありますが、貴方への想いを失ったわけではありません。」


......この人は自分を牢獄に叩き込んだ相手に何を言っているんだ?

後これ読むのきっついわ......。

ナレアさんはそっぽを向いて目を瞑っている。

リィリさんは何故か満足気にしているし......カザン君は咳払いを連発している。

レギさんは......顎に手を当てて考え込んでいる風を装っているが......肩が震えている。

そうか......俺が裏を読んでいないって言った時、レギさんが微妙に話題を変えたのは牢の中の時みたいに皆がいる場で音読させようと企んだからか......!


「......今回は貴方の強さ、そして美しさに完敗を喫しましたが、次は貴方に必ず届かせたい。私の力も、想いも。」


......辛い。

この気持ち悪い文章読むの本当に辛い。

何この拷問?

吐きそうなんだけど。

後文字の大きさが小さすぎて超読みにくい。

表に書いてある情報量と裏に書いてある情報量が違い過ぎるんだけど......。

しかし、リィリさんから中止の指示は出ない......。

ちなみにこのポエムの相手であるナレアさんは微妙な表情で首を傾げている。


「......次は西方で、貴方に逢える日を楽しみにしています。貴方への愛を込めて、トリ......。」


「あ、もういいよ。ケイ君。」


ようやくリィリさんからストップがかかる。

とは言え、ほぼ全部読んじゃったわけだけど......。


「......これ、どういう罰なのですか?」


「まぁまぁ。お疲れ様、ケイ君。それでナレアちゃんどうだった?」


「いや......思ったより悪くないような......いや、やはり微妙じゃが......うむ......。」


「え......ナレアさん、こういうのが好みなのですか?」


「違うわ!戯け!妾が悪くないと言ったのは......。」


俺がうっかり問いかけると、火でも噴きそうな勢いでナレアさんに怒られる。


「......言ったのは?」


「何でもないのじゃ!とりあえずその気色悪い文章はとっとと燃やすがよかろう!」


そう言ったナレアさんは身を乗り出し俺の手からメモを奪おうとする。


「いやいや、駄目ですよ!一応証拠品なのですから!」


慌ててナレアさんの手からメモを守った俺は、布を丁寧に畳んでカザン君へと渡す。


「個人的には、燃やしてしまってもいい気はしますが......流石にまだ不味いですかね。」


カザン君は、微妙に半笑いでメモを受け取りながら不穏なことを言う。


「気持ちは分からなくはないけど......不味いよ。」


俺は出来る事なら朗読した事実ごと滅却したいけど......なんで他人のポエムが俺の黒歴史として刻まれる感じになるんだよ......。

レギさんとカザン君からは何故か生暖かい目で見られるし......なんか俺がこのポエムを書いたみたいになってない?

ちなみにナレアさんとリィリさんは何故か内緒話だ......。


「とりあえず......皆さん満足したようですし、そろそろここに書いてある領主館を調べろっていうのに従ってみますか?」


俺の回復魔法では回復できないダメージで、若干げっそりしている気がするけど......俺は話題を次の段階に進めてみる。


「そうですね......でもその前に書庫でケイさん達が探している黒土の森について調べませんか?」


「そっちは別に急いで調べる必要は無いし、先にこっちの問題から片付けた方が良いと思うけど。」


カザン君の提案に異を挟む。

俺としてはカザン君達がなぜ狙われるのかを調べる方が先だと思うのだけど。


「ですが、こっちは手がかりも無い状態ですからね。とりあえず書庫でケイさん達の必要な情報を探しつつ、私達の方もって感じでどうでしょう?」


まぁ、確かに......どちらも同じ場所で探すわけだから、わざわざ分けて考える必要もないか。


「探し物を始めるのはいいけど......そろそろノーラちゃんが戻ってくるんじゃないかな?」


「......それは最優先ですね。あ、そうだ。ナレアさん」


「な、なんじゃ?わ、妾に何か用かの?」


リィリさんとしていた内緒話を終えた後若干ぼーっとしていたナレアさんが慌てた感じで返事をしてくる。


「えぇ、ノーラちゃんに渡す魔道具を試してもらいたいなぁと思いまして。」


「あ、あぁ。勿論構わぬのじゃ。以前話していた偽装用の魔道具も準備できておるぞ。」


ナレアさんが腰に下げていた袋から魔道具を取り出す。

ペンダント型の魔道具か。

三日月型の金属の真ん中に魔晶石が埋まっている。


「可愛い魔道具ですね。起動させたら光るだけとかですか?」


「まぁ、そんな所じゃな。ケイの方も見せてくれるかの?」


「僕の方は魔晶石に魔法を込めただけですけど......。」


「贈り物であるなら少しは凝ったものを用意しておくものじゃぞ。おなごへの贈り物であるなら特にのう。」


「......気を付けます。」


「まぁ、どうせケイはそんなことじゃろうと思っておったからのう。こっちで用意しておいたのじゃ。」


そう言ってナレアさんは魔道具を取り出した袋からいくつかのアクセサリーを取り出す。

流石ナレアさん......こちらの事をよく分かってらっしゃる。

とりあえず、ナレアさんの気遣いに甘えるとしよう。

俺はアクセサリーを手に取り、どれに魔晶石を付けるか選び始めた。


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