第255話 隠し通す
レギさんの全てを射殺しそうな視線を受けながら、リィリさんにレギさんの惨状を説明する。
「えっと......一言では言い表せない程にぼろぼろになっていましたね......最初見た時怪我をしているんじゃないかと慌てましたよ。」
当然だけどレギさんの視線を受けながら面白おかしく説明する勇気は俺にはない。
「そんなに凄いことになっていたんだ。」
俺の言葉にリィリさんがうわぁって感じの顔で応える。
「レギ兄様はお体が大きいので大変なのです。」
ノーラちゃんが心配そうな顔でレギさんに話しかけると、レギさんは無言でノーラちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。
「袖は両方とも肩の部分から外れてしまって、背中は縫い目で完全に真っ二つって感じでした。」
「それはもう服というよりも布の残骸を体に巻いているようなものじゃな。それは着替える必要があったのも頷けるのじゃ。」
ナレアさんがうむうむ、と納得するように頷きながら返答する。
レギさんのこちらを見る目が鋭くなるのを感じる......大丈夫ですよ、下の事は言いませんから。
「しかし......ふむ......。」
俺の言葉に納得していたナレアさんが顎に手を当てながら小首をかしげる。
「んー、それだけだったらレギにぃがそこまで警戒するような話じゃないと思うんだよねぇ。さっきからずっとケイ君を脅している感じだし......。」
レギさん......なんかバレてますよ!?
俺がレギさんに視線を飛ばすと、若干気まずげにレギさんが視線を逸らす。
「まぁ、貸し出してもらった制服をいきなりボロボロにしちゃいましたからね......制服は大事なものですし......。」
当たり障りのないことを言ってお茶を濁してみる。
「それとはちょっと違う感じがするなぁ......何かもっとこう......。」
リィリさんが考え込むように目を瞑る。
駄目だ、全然お茶を濁せていない。
何か手は......そうだ!
ノーラちゃんに作ってきた魔道具、あれの出番は今じゃないのか!?
俺は若干焦りながら新しい話題を始めようとする......先ほど気まずげに視線を逸らしたレギさんだったが、今はお前が始めた話題だろ?と言わんばかりの視線でこちらを凝視してくる。
レギさんが過剰反応するからじゃないですか......と言い返したいところだけど、俺の脳裏にはレギさんに頭を掴まれて力なく揺れるクルストさんの姿があった。
俺は、あぁはなりたくない......その想いから話題を変えようとしたのだが......それよりも一瞬早くリィリさんが声を上げる。
「......そういえば、さっきから上半身の惨状ばっかりだけど......下の方はどうだったのかな?」
......全身が石化したように固まってしまう。
まずい!
不自然だ!
何か言わないと......!
「い、いやぁ......下は......どうでしたかねー?そこまで僕は確認しなかったかなー?」
もはやバレバレな気もするが何とか俺は言葉を紡ぐ。
宙づり......宙づりかぁ......。
「下はどうだったの?レギにぃ。」
「あぁ、まぁ、着替えるときに気付いたが......多少破れていた。制服を貸してくれたトールキン衛士長には悪いことをしてしまったな。」
多少......というか、もはや左右に分かれんばかりに裂けていましたよ......。
「......ふーん、そっかぁ。大惨事だったんだねぇ、その場にいなくて良かったよ。」
リィリさんは納得したのか座っているソファーの背もたれに背中を預けながら言う。
「リィリ姉様、お疲れなのです?ご飯にしますか?」
「大丈夫だよー、ノーラちゃん。」
顔を覗き込んできたノーラちゃんを抱っこして膝の上に乗せるリィリさん。
二人とも幸せそうだな。
その様子を見ていたレギさんが思い出したようにカザン君に質問をする。
「俺が気にすることでもないが......領都の食糧問題は大丈夫なのか?」
「えぇ、その辺は既に手を打っています。物資が無いわけではなく流通が滞っているだけなので、別の場所から地方軍を使って運ばせています。勿論領都を支えられるほどの量が確保出来たわけではありませんが......根本的な解決には少し時間が必要になりますね。」
「まぁ、やはりそうだよな。」
「その場凌ぎでもとりあえずはいいんじゃないかな?日に日に食糧事情が悪化しているから、食料が運び込まれたって事実だけでも明るい話題になると思うよ。」
カザン君の話を聞き、俺が今日まで見て来た領都の状況を基に推測を言ってみる。
「そうですか......当面の問題は領都の食糧と件の地方軍ですが......地方軍の方は早めに片付きそうですが、食料の方は少し時間が掛かりそうです。」
領都の人達にとっては逆の方が良かったのだろうけど......地方軍が片付けば徐々に治安も良くなるって感じなのかな?
地方軍がいる以上他所から治安維持の為の舞台を送り込むことも出来ないだろうしね。
しかし......困った。
いつの間にか話題が真面目な方向に向かってしまったので、ノーラちゃんに魔道具を渡すタイミングを見失ってしまったな。
まぁ先にナレアさんに試してもらう必要があったから今はいいか......。
そう考えていた時、扉がノックされて話が止まる。
「カザン、少しいいですか?」
「母様?えぇ、構いませんが......今レギ殿達がいらっしゃっていますよ?」
「えぇ、聞いていますよ。お久しぶりです、レギ殿、ケイ殿。」
部屋に入って挨拶をしてくるレーアさん。
俺とレギさんは立ち上がり礼を返す。
そこでレーアさんの後ろに控え、頭を下げている方に気付いた。
確か、ネネアさんだったっけ?
レーアさんの侍女で、センザの街に初めて潜入した時にカザン君......いや、カルナさんと一緒に会いに行った人だ。
「ふぅ、カザン。皆様がいらしているのにお茶も出していないではありませんか。」
「あ、すみません、皆さん。」
「ノーラも、そういう所に気付かなくてはいけませんよ。」
「はい。ごめんなさい、姉様達。」
レーアさんに窘められてカザン君達が謝ってくる。
そしてレーアさんは......笑っているな。
「皆様にはお世話になりっぱなしで、本当に頭の下がる思いです。」
レーアさんが微笑みながら俺達に一礼をする。
「いえ、レーア様、お気になさらずに。私達はカザン様達を友人として助けると誓っています。頭を下げられるようなことではありません。」
「うむ、十分妾達も楽しませてもらっておる。ノーラやレーア殿とももっと仲良くさせてもらいたいものじゃ。」
レギさんは至極真面目に、ナレアさんは少し砕けた感じでレーアさんに応える。
暫く傍にいた事でレーアさんと仲良くなった感じなのかな?
「ふふ、ナレア様、私も楽しみにさせて頂きます。さて、ノーラ。お茶の用意をするので手伝ってください。」
「はい、母様。すぐにお茶をお持ちしますね。」
リィリさんの膝の上に座っていたノーラちゃんが笑顔で立ち上がり、レーアさん達と一緒に部屋から出ていく。
「よろしくお願いね、ノーラちゃん。美味しいの期待してるよ。」
「任せてください、リィリ姉様!」
部屋を出ていく直前に振り返りぐっと力こぶを作ってみせるノーラちゃん。
なんとも微笑ましい感じだな。
ノーラちゃんが部屋を出ていくのを見届けた後、カザン君が居住まいを正した。
ノーラちゃんがいるとしにくい話かな?
「アザル達に対する尋問ですが......残念ながら成果は上げられませんでした。」
「あぁ、トールキン衛士長から聞いてはいたが、相当口が堅かったらしいな。」
「はい。内容を少し聞いた限りでは相当な手段を用いたようですが......それでも何一つ洩らさなかったようです。」
「ある程度予想はしていたが......いや、予想以上の精神力だな。」
「情報らしい情報は......悔しいですが逃げた者が残したあの文章だけですね。」
レギさんの言葉にカザン君が苦々しい表情で言う。
そう言えば......檻の事を公表するなって残されていたっけ?
結局どうしたのかは聞いておくか?
「そういえば演説で檻の事は......?」
「言っていません。元々公表するつもりはありませんでしたし......アザルが死んだ今となっては組織の事を追うのも不可能に近いですしね。」
「そっか......アザルの事は?」
「死んだことはまだ公表していませんが、アザルが権力を手に入れるために今回の一連の事件を企んだと発表しています。」
「なるほど......。」
流石にこちらが殺したわけでは無いとは言え、獄中死は体裁が悪いよね......。
「アザル達は私達が領都に戻る直前に逃亡したことにしました。配下を二人捕らえ、全貌を知ることが出来たと言う話になっています。」
何とか別口で二人を捕らえることが出来たのは行幸だったみたいだね。
まさか領都に残った檻の構成員が捕らえた後に全員......一人を除いて死ぬとは思わなかったからな......。
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