第252話 予想を超えて
アザル達が牢の中で死んでいたことをナレアさんに伝えると、ナレアさんが非常に沈痛そうな声を出す。
『まずいことになったのぅ......まさかアザルが殺されるとは......何が起きたかは分かったのかの?』
「いえ、今レギさん達が現場検証......アザルの死体を調べていますが、望み薄かもしれません......ファラを配置しておけば、この事態は防げたかもしれませんが......。」
ネズミ君達も建物の外から監視するだけで建物の中には配置していなかったんだよな。
せめてネズミ君を建物の中にも置いておけば、ここまで後手に回ることはなかっただろう。
逃げられたり、外部から怪しい人物が侵入してこないかばかりを気にしていて、内部でこのようなことが起こるとは思っていなかった。
自殺をするための魔道具を排除していたことで、こういう事態が起こる可能性をすっかり排除していたのが間違いだったな......。
『それは言っても仕方ないことじゃ。それより、一人見当たらないと言っておったが、そやつは追跡出来ておるのかの?』
「すみません、まだ確認出来ていません。ちょっと待ってください。ファラ、いるかな?」
『はい、ケイ様。』
俺が呼びかけると待ち構えていたようにファラから返答がある。
見えなかったけど壁際に控えていたようだね。
「逃げた一人は追えているかな?」
『はい。現在既に領都の外まで逃げているようです。』
「かなり早いね......。」
『野外で馬に乗られると部下では追跡が難しいと思います。私が追跡してもよろしいでしょうか?』
どうする......?
ファラに行ってもらえば確実に追跡できると思うけど......今この領都からファラがいなくなってもいいのか?
......ナレアさん達も戻ってきているし、守らなければいけない人達も、既に領都に集まっている。
戦力が集中している今ならファラが領都から離れて、追跡に行っても大丈夫か?
「ナレアさん。既に相手は街の外まで逃げてしまっているみたいです。それで、ネズミ君では馬等の移動手段を取られると追跡が難しいみたいなので......追跡をファラに交代してもらおうと思うのですが、いいでしょうか?」
『そうじゃな。そういうことであれば、ファラに追跡してもらうのが最善じゃろう。幸い妾達ももうすぐ領都に入る、戦力としては十分じゃろう。それよりも今はそやつを逃がす方が不味いのじゃ。』
ナレアさんも同じ意見のようだ。
「じゃぁ、ファラ急いで逃げた奴を追跡してくれるかな?マナスの分体を連れて行って連絡だけは取れるようにしておいてね。」
『承知いたしました。ここで起こったことについては、外で見張っていた者に後ほど報告させます。』
その言葉を残したファラが一礼後、駆け出していく。
その背中には極小サイズのマナスが乗っているのが見えた。
「すぐにファラが追い付いてくれると思います。ナレアさん達はもう領都に入っていますか?」
『いや、まだじゃが、既に門の前に待機しておる。逃げた者はカザンやノーラ達の事は狙わぬようじゃな。』
「そうみたいですね......安心したような......もしノーラちゃんを狙っていたらさっさと捕獲出来たと言いますか......。」
『それもそうじゃな。まぁ、相手もそれを警戒して逃げの一手を選んだんじゃろうな。回収した魔道具がどうなっておるかも確認しておいてほしいのじゃ。』
「了解しました。一応注意はしておいてください。そろそろレギさんの所に戻りますね。」
『うむ、そちらもまだ何がある分からぬ。気を付けるのじゃぞ。』
「了解です。」
ナレアさんとの通話を終わらせて、レギさんの所に戻る前に建物の内部を一通り回ることにする。
倒れている兵の方達は例外なく気絶させられているが......やはりぱっと見で外傷はない。
魔法を駆使すれば俺にも出来るとは思うけど......武装解除されている人が魔法も無しにこんなこと出来るものだろうか?
不意を突いて一人や二人なら魔力のあるこの世界の人ならいけるかもしれないけど......ここは重要人物を捕らえている牢なわけで......そこの警備をしている人達が全員油断しているなんてありえない......。
それにここに掴まっている奴等は全員手枷に足枷を付けられている。
一体どんな方法でこの建物を制圧したのか......。
そんなことを考えながら牢を一つ一つ見て回ったのだが、一か所だけおかしな牢を発見した。
他の牢では無人か檻の構成員が倒れていたのだが、この牢の中には牢の外にいる筈の兵士が倒れている。
しかもこの人は他の人と違って少し外傷があるようだ。
俺は慎重に怪我の具合を調べてみたが......そこまでひどい怪我ではないようだ。
恐らくだけど、ここに掴まっていた奴が何らかの方法でこの人を倒して、逃げ出したということだろうね。
この人の服を盗まなかったのは......べっとりと鼻血が着いてしまっているからだろう。
白を基調とした制服なので非常に血が目立つ。
......今の所見かけていないけど......どこかに服をはぎ取られた人がいるかもしれないな......。
奇しくも先ほど、俺達が制服を借りる話をして扱いは慎重にしないとって話をしたばかりだというのにね。
『ケイ様、申し訳ありません。ファラから報告で......ここから逃げ出した捕虜を見失ってしまったようです。』
倒れた人を調べながら色々と考えていた所、シャルから一瞬理解出来ない言葉を告げられた。
「え?ふぁ、ファラが振り切られたの!?」
シャル程の範囲は探知出来ないみたいだけど、ファラもかなりの範囲の生物を感知することが出来る。
野外でシャルの追跡を躱せるような人がいるとは、とてもじゃないけど信じられない。
『いえ、ファラの配下が相手を見失ったようです。ファラが辿り着いた時にはもう探知範囲内に相手はいなかったようで......。』
なるほど......馬でも使われたのかな?
『ファラの配下が言うには、街から少し離れた所で突然相手の移動速度が上がったそうで、着いて行くことが出来なかったとのことです。』
「移動速度が上がった?馬に乗ったとかではなく?」
『......はい。突然動きが早くなったそうです。』
「それって身体強化の魔法を使ったとか......?」
母さんの加護を持っている人間はいないはずだけど......もしかしたら強化魔法の込められた魔道具を持っていたのかもしれない。
『申し訳ありません。ファラの配下ではそこまでの事は分からなかったそうです。』
「それは、仕方ないね。」
まさかネズミ君が振り切られるとはな......持久力は低いのかもしれないけど......それよりも速度的に振り切られたって感じだよね......。
『ファラがこのまま捜索に移っていいか聞いて来ていますが......どうしますか?』
元々ファラに追跡してもらう予定だったから領都からファラが離れること自体は問題ない。
しかし、ここで無条件で捜索させたら......責任を感じて見つかるまで延々と探し続けそうな気がするな......。
マナスの分体が一緒にいるから連絡はとれるけど......。
「五日程捜索してみて、見つからないようだったら戻ってくるように伝えてくれるかな?後、領都にいるネズミ君達に警戒度を上げるように通達しておいてもらえるかな?」
『畏まりました。すぐに伝えます。』
一度体制を立て直してから領都に戻ってこないとも限らないしね。
これから入ってくる人間をチェックしてもらえれば、街に入ってすぐ問題なく捕らえることが出来る筈だ。
少し泳がせた方がいいだろうけど。
一先ずこのことをレギさん達に伝えないとな......。
想像していた以上に相手の能力が高い......。
俺は怪我をしていた人を軽く治療しながらナレアさんに逃げられたことを伝え、レギさん達が調べているアザルの牢へと戻った。
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