第61話 やりたい事
祭り開催中の二日間、色々と面白い食べ物を見つけることは出来たがわたあめを発見することは出来なかった。
非常に残念だったが、商人ギルドで砂糖の産地は教えてもらったのでその内行ってみるのもいいだろう。
それとナレアさんには再会することは出来なかった。
初日に後ろの方で聞こえた悲鳴が最後だ......あれが別人の悲鳴だったらそれはそれで面白いけど......。
非常に惜しい気もしたがこれも縁という奴だろう、それに何となくではあるがナレアさんにはまた会えそうな気もするしね。
とりあえず祭りの間はレギさん達と一緒にぶらぶらと催し物や出店を見学して回った。
殆どが食べ物の屋台だったが......この世界は娯楽が少ないのかな?
遊戯の様なものは殆ど見られず、土産物か食べ物といった感じのものばかりだった。
なんか玩具とか作ったら売れるかな......?
玩具屋か......ありかもしれないな......まぁ定住するわけじゃないからその内だな。
まぁそれはさておき、今は料理に集中しよう。
「ハーネルさんのおすすめのお店は外れがないですね。」
この街に滞在して三週間、晩御飯はハーネルさんのお勧めの店で食べているのだがどこも非常に美味しい。
値段もリーズナブルだし、非常にいい人にお店を紹介してもらえたな。
「あぁ、見た目に似合わず中々のグルメだな。」
なんか失礼なことをレギさんが言っている様だが、なんとなく同意してしまうな......。
ごめんなさい、ハーネルさん。
「レギにぃ失礼だよ。おかげでおいしいご飯が食べられているんだからもっと感謝するべきよ。」
「当然、感謝はしている。なぁケイ?」
「えぇ、当然です。」
俺とレギさんは二人で感謝感謝と言いながら食事を進める。
「祭りは終わりましたし、明日はギルドに朝の内に挨拶に行ってから帰りますか?」
「そうだな、特に急ぐ必要もないが。早い内に街を出る方ががいいだろうな。」
「帰りも送ってくれるのかしら?」
「一応そう聞いている、祭りの翌日に帰ることも伝えてあるから用意はしてくれているだろう。」
そういったレギさんは一拍置いてから俺の方に向きなおる。
「ケイ。宿に戻ったら話があるんだが、いいか?」
「えぇ、大丈夫ですよ?」
レギさんは真面目な表情をしている。
何か深刻な話かな......?
「じゃぁ後で部屋にいく。飲み物なんかはこっちで用意して持っていくから適当に待っといてくれ。」
「わかりました。」
食事が終われば後は特に用事はない、レギさんが来るまでシャルのブラッシングでもしながら待っているとしよう。
宿に戻ってシャルにブラシをかけているとドアがノックされた。
レギさんが来ることは聞いているのでドアを開けるとそこには酒瓶やコップを抱えたレギさんとつまみになる物をもったリィリさんがいた。
レギさんだけじゃなかったのか。
「いらっしゃい。レギさん、リィリさん。どうぞ、中へ。」
二人も招き入れベッド横のサイドボードを部屋の中央に引っ張り出す。
部屋にある小さなテーブルだけじゃつまみの置き場が足り無さそうだ。
「おう、すまねぇな。あれもこれもと持ってきちまった。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
お酒を注いで全員がコップを持ったところでレギさんが音頭をとる。
「ダンジョン攻略に関しては何度も乾杯してるからな......今日は、リィリの下級冒険者昇格に。乾杯。」
「「乾杯。」」
軽くコップを打ち合わせてリィリさんにお祝いを言う。
「それにしても随分早いペースで仕事を受けていましたね。」
「えぇ、ちょっと早めに昇格しておきたかったのよ。」
「何かあるんですか?」
「初級だとギルド証に有効期限があって自由に動くのが難しいからね。下級になってしまえばそれもなくなるでしょ?」
確かに有効期限はあったけど半年くらい猶予なかったっけ?
そこまで急ぐ必要はなかったような......?
「まぁ、その辺は今日話に来たことにも関係あるんだわ。」
レギさんが頭を掻きながら苦笑している。
「何か問題が起きたんですか?」
リィリさんがアンデッドということはうまく隠せているはずだ......デリータさんにも問題ないとお墨付きも貰った。
そもそもこの世界は魔物にも忌避感は特になく人と共存している魔物も少なくはない。
なので万が一バレても何とかなるんじゃないだろうかって軽い感じだったけど......。
「いや、そういうわけじゃない。なぁ、ケイ。初めて会った時に別の国でも使える身分証が欲しいから冒険者になるって言ってたよな?」
「えぇ。」
「普通、そんな理由で冒険者になるやつはいねぇからな......だからな、何か目的があるんじゃないかと思ってな?」
「そうですね、冒険者になったのは僕にとっては行き掛けの駄賃と言いますか......レギさん達には悪いと思いますが......身分証と当面の生活費の為です。僕の目的は......んー結構色々あるんですよねぇ。」
「そうか......。」
......なんだろう?
レギさんから妙なプレッシャーを感じるというか......。
「......。」
黙り込んでこちらを睨んでいるレギさん......冒険者になる動機が気に入らなかったのだろうか......でも前にも言ったことあったような気がするけど、その時は普通だったような......。
「レギにぃ......何緊張してるのよ。」
レギさんはお酒を呷ると大きく息を吐く。
「......そうだな。柄にもない。ケイ、お前の目的を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「僕の目的ですか?それは別に構いませんが......何故でしょうか?」
「ケイの事だからな。不思議な目的であったとしても悪辣なものだとは思わないが......聞いておきたくてな。」
なんかちょっとはぐらかされている気がするけど......不思議って......。
「うーん、簡単に言うと......母の知人に手紙を配達、連絡を取りたい人達がいるから連絡方法の模索。後は母からある物を盗んだ奴を懲らしめる。そんな感じです。」
「取り返すじゃなくって懲らしめるなのか?」
「えぇ、消耗品ですからね......母は全然気にしていませんでしたが......個人的に一発くらいは殴ってやろうかと思ってます。」
ただ手掛かりが何もないんだよね......母さんも心当たりがないって言っていたし。
「なんかどれも些細なものだな......他にはないのか?」
「うーん、後は色々と世界を巡ってみるくらいですかね?土産話は多いほうがいいので。」
「なるほど......。」
レギさんは考えるそぶりを見せた後、リィリさんを見る。
リィリさんはレギさんに微笑みながら軽く頷く。
「ケイ、俺たちを......いや、お前の目的を手伝わせてくれないか?」
「僕の目的を......?さっきレギさんも言っていましたが些細なものですよ?」
「俺はお前に手伝ってもらっただろ?なら今度は手伝いたいんだ。」
「えっと......些細なものではありますけど、手紙の配達はかなり色々な場所を巡らないといけないですし、他の二つはかなり当てもない感じなんですけど。」
「正直に言おう。俺はお前に言葉では言い表せない程感謝している。返しきれないほどの恩があると思っている。」
返しきれないほどの恩を感じているのは僕の方なんですが......。
目を丸くする俺にレギさんは言葉を続ける。
「俺はお前のお蔭で、十年近く果たすことのできなかった誓いを果たし......二度と会えないと思っていた大切な人に再会することが出来た......。」
「それは......。」
確かに手伝いはしましたけど......トラウマを乗り越えてダンジョンに足を踏み込んだのはレギさんの力ですし、レギさんだったら俺がいなくてもいつかは......。
「あの時レギにぃ達がダンジョンに来ていなかったら......そう遠くないうちに私はまた死んでいたと思う。死ぬって表現が正しいかどうか分からないけれどね。」
俺の表情から言いたいことを察したのかリィリさんが言葉を重ねる。
「勿論、押し付けるつもりはない。ケイには魔法って言う俺達にはない力があるし、仲間も頼りになるやつらばかりだ。寧ろ足手まといかもしれない。」
「そんなことはありません!レギさんもリィリさんもとても頼りになります!」
「頼りにしてくれるのは嬉しいが、力不足は事実だぜ?」
おどけたように言うレギさんだがその目は力強くこちらを見ている。
「どれだけ時間がかかるか分からないですよ?」
「俺は今の所他にやりたいことがないんだ。」
「私は今こうしているだけで幸せよ。だから、恩返しに時間を使えるのはとても有意義なことだわ。」
俺の忠告の様なものにレギさんとリィリさんは迷いなく返してくる。
正直、レギさん達が手伝ってくれるのはとても助かる。
この世界についての情報はかなり不足していると思う。
母さんから聞いていることや、シャルの知識もあるが......今現在の知識については少し心もとない。
それに......俺はレギさん達の事を信頼している。
まだ一緒にいたいと思っている。
ならば......。
「シャル、二人に全部伝えようと思うけど......いいかな?」
隠し事はするべきではないだろう......。
『はい。私はケイ様が望む結果を得るための牙です。ケイ様のなされることに否はありません。』
......丸投げ?
いや、違うか......信頼と、何があっても力になってくれるって言ってくれているのか......。
『勿論、間違っていると思った時はちゃんと忠告しますよ。』
少しだけ、感じてしまったプレッシャーにシャルがフォローを入れてくれる。
何というか、まだまだ頼りないね......もっとしっかりしよう。
「うん、ありがとう。」
シャルにお礼を言ってからレギさん達に向きなおる。
「少し長くなるかもしれませんが、これからお二人に話しておきたいことがあります。」
俺の全てを二人に話そう。
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