第371話 上級冒険者ならば
レギさんにダンジョンを攻略したのは俺も一緒だと言われたギルド長が、少し困ったように俺の方を見ながら口を開く。
「あ、あー、えっとーイクサル君だったかな?」
「いえ、それはあの舞台の役の名前ですね。ケイ=セレウスと申します。」
イクサルって言うのは絶賛公演中である不屈の英雄に出てくる残念な新人冒険者の名前だ。
流石にあそこまでポンコツでは無かったと信じたいけど......もしかしてレギさん達から見たら俺はあんな感じなのだろうか......。
「あぁ、ケイか。あー君はーまぁ、ダンジョン攻略者と言っても、サポート的な役割だったのだろ?今回はすまないが......。」
「いえ、お構いなく。ギルド長のおっしゃる通り、僕はレギさんのお供としてついて行っただけですので。大した働きはしていません。分相応です。僕は下級冒険者で大丈夫です。」
俺がギルド長にそう言ったところ、ギルド長は少しほっとした様子を見せたのだが......何故か俺の仲間達から胡散臭そうな顔で見られた。
「そうかそうか、いや、すまないな。今もレギについて行っているのだから実力は十分だろうし、あれだったら中級になっておくか?」
「いえ、依頼の解決件数も足りていませんし、そう言った横紙破りは色々と軋轢を生みかねません。お言葉はありがたいのですが、今回は遠慮させていただきます。」
「そうか。うむ、流石レギを師事しているだけあるな。冒険者らしからぬ丁寧さと謙虚さだ。」
「ありがとうございます。」
「レギ、お前は指導者としても素晴らしいな。まぁ、謙虚さは冒険者として必ずしも美徳とは限らんが......っとそうだ、上級冒険者になったことだし、正式な二つ名がいるな。」
そう言ってレギさんの方に話を戻すギルド長。
やはり二つ名はつくのか......確か正式にギルドからつけられるってレギさんが言っていたっけ。
レギさんの最強の下級冒険者って二つ名は正式につけられたものじゃないとかなんとか。
「まぁ、二つ名自体は既に決まっているんだがな?」
「......どんな二つ名が?」
レギさんが警戒を露にギルド長に自分の二つ名を聞く。
物によってはリィリさんのおもちゃになる事請け合いだろう。
現にリィリさんは滅茶苦茶ワクワクした目でギルド長を見ている。
「不屈だ。何なら英雄も着けるか?」
「いえ、それはやめておきます。しかし......不屈ですか......。」
「それか......そうだな。遺跡狂いと一緒に居ることだし似た感じで......仕事狂いとかか?」
ギルド長やめてください。
俺達三人だけじゃなくって受付のおねーさんも吹き出しています。
でもナレアさんの遺跡狂い以上にぴったりな気がするな、仕事狂い。
「流石にそれは......。」
「だよな?じゃぁ、下水大好きとかどうだ?」
「完全に悪口ですよね!それ!?」
......ギルド長、本当にやめてください、死んでしまいます......。
もうリィリさんは声を上げて笑っているし、ナレアさんも肩を震わせている。
いや、俺もレギさんが真面目な顔をして......。
『俺は上級冒険者の下水大好き。』
そんな名乗りをしている所を想像してしまったせいで、顔中の穴から体液が出そうになった。
「しかしギルド長よ。それだと下水自体が好きって感じがするのじゃ。掃除を入れねば色々と危険じゃろう。」
「確かにそうだな......だが、下水掃除大好きって二つ名は......語呂が悪くないか?」
先程の想像の中のレギさんの武器が斧からデッキブラシに変わった!
もはやただの清掃人だし!
「不屈でいいです。」
「そうか?下水大好き、意外と悪くないぞ?畏怖を覚える。そんな名乗りされたら......滅茶苦茶怖い。」
「不屈でお願いします!」
そんな感じでレギさんは上級冒険者『不屈』となった。
下水大好きにならなくて本当に良かったと思う。
ギルド長とのやり取りの後、ギルドを出た俺とレギさんはナレアさん達と別れて、デリータさんのお店に向かっていた。
別れる時にナレアさんの様子がおかしかったのはちょっと気になったけど、リィリさんから大丈夫と言われたのでそのまま別れて来た。
「それにしてもあの劇についてすぐに答えが分かったのは良かったですが......まさか上級になるとは思いませんでしたね。」
相変わらずレギさんは街を歩くだけで注目されているので、極力名前は呼ばずに話さないといけない。
いや、風貌でバレているのだろうけど、一応気を付けておいた方がいいだろう。
もしかして......ってレベルにわざわざ確信を与える必要はないしね。
「あぁ、まさか俺自身が変人の仲間入りをすることになるとはな。」
「あはは。そういえば、以前上級は化け物だって言っていましたね。」
「まぁ、俺は偽物だと思うがな。俺自身は上級と呼ばれるだけの実力はない。」
「そんなことは......。」
俺は否定しようとしたが、レギさんに止められる。
「ナレアがいい例だ。あいつは......ケイと同じ力が無かったとしても、魔道具を作り使いこなす技術、魔術や遺跡に関する深い知識に探求心。あれこそまさに上級って感じだ。」
「確かにナレアさんは凄い方だと思いますけど......。」
でも凄いのはレギさんだって同じだ。
確かにナレアさんのように突出した能力や膨大な魔力は持っていないかもしれない。
しかしその経験や判断力、そして何よりレギさんが居てくれるという安心感は他の誰にも真似できるものではない。
俺は勿論、リィリさんやナレアさんだってレギさんの事を頼りにしている。
それは能力や人柄によるものだと思うけど......俺はナレアさん以外の上級冒険者の方を知らないから、レギさんが他の人に比べてどうなのかは分からない。
「まぁ、ケイが俺を買ってくれるのは嬉しいがな。だが攻略の時もそれ以降も、戦闘においてケイの力に頼り切りだ。魔道具だってケイやナレアが用意してくれたものだからな。」
「それは......確かにそうかもしれませんが......。」
「ははっ!すまねぇ、そんな顔をしないでくれ。」
どうやら言葉に出来ないもやもやした感じが表情に出ていたらしい。
そんな俺を見てレギさんが明るく笑いながら言葉を続ける。
「能力的に劣っている事は自覚しているが、上級として推挙されたんだ。精々あの演劇を観た連中にがっかりされない様にがんばるさ。あー、でも力は貸してくれるとありがたいな。」
最後の一言を冗談めかしながら言うレギさん。
「えぇ、勿論。全力でお手伝いさせてもらいますよ。僕はお供ですからね。」
「そりゃあのダンジョンだけの話だろ。あれ以降は俺がお供しているはずだぜ?」
「まぁ、それもそうですね。付き合ってもらっているのはこちらでしたね。」
そんなことを話しながら歩いているとふと思い出したことがあった。
「話は変わりますけど、ギルドからデリータさんのお店に向かうこの道は何か懐かしいですね。」
「まぁ、この街に来るのは久しぶりだからな。」
「あはは、いえ、そういう意味ではなく。冒険者ギルドで初めて会って、そのままデリータさんの所まで案内してもらったじゃないですか。」
俺がそう言うとレギさんが納得したように頷いた。
「あぁ、ケイと初めて会った時の事か。そういえばそうだったな。最初は随分頼りないというか危なっかしい奴だと思ったが......まさか、あんな事情があるとは考えもつかなかったぜ。」
「まぁ、特殊過ぎますからね......想像できる人が居たら驚きですよ。」
「それもそうだな。しかしお前に常識を教えた方も、ちょっと規格外の存在だからな。色々と今の常識を知らなかったとしても仕方ないよな。」
「あはは、母さんからは色々と教えてもらっていたのですが......如何せん情報が古かったですね。」
「まぁ、情報が古いって問題でもない様な気がするが......そういえばデリータのヤツも随分心配していたな。あいつが他人を気にするなんて珍しいが、そんな奴でさえ放っておけないほどの危なっかしさだったってことだな。」
「それは有難いような、有難くない様な......微妙な感じですが......あ、着きましたね。」
「相変わらず鄙びた店だ。」
俺とレギさんは本当に久しぶりなデリータさんの店に辿り着いた。
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