第516話 二度目の攻略記念祭



ダンジョン攻略記念祭。

神域の外に飛び出して約一年、俺が参加する二回目の攻略記念祭だ。

しかし、今回の祭りは都市国家で開催された攻略記念祭とは規模がかなり違う感じだね。

通りを埋め尽くさんばかりの人の波は同じなのだが......魔道国と都市国家じゃ道幅とかがかなり違うしな。


「これ......お祭りを楽しめますかね?」


「ほほ、この混雑っぷりは想定以上じゃな。」


俺がナレアさんの手を握りしめながら問いかけると、流石のナレアさんも人ごみに揉まれ苦しそうにしながら答えてくれる。

手をしっかりと繋いで歩いているものの、甘い雰囲気は一欠けらも無い。

唯々はぐれない為だけにしっかりと握っているだけと言った感じだ。

因みに手を繋いでいなかったレギさん達とは早々にはぐれてしまっている。


「シャル、マナス。大丈夫?苦しくない?」


『私達は大丈夫です。ですが、リィリ達とはかなり離れてしまいましたが良いのでしょうか?』


「うーん、この状況だからね......強引に流れに逆らうってのも難しいし......。」


完全に出来上がってしまった人の流れに飲み込まれ......果たしてどこに辿り着くのだろうか?


「何を黄昏ておるか分からぬが、とりあえずこのまま進めばたどり着くのは舞台じゃろうな。」


「舞台ですか?」


「......レギ殿の舞台ではないぞ?ほれ、ケイ達が攻略した際にも攻略者のお披露目をやったじゃろう?あの会場じゃ。」


「あぁ、そういうことですか。」


「どこかで離脱できるなら離脱したいところじゃな。見知った顔が緊張しつつ並んでおる場所を見てものう。」


「まぁ、親しい知り合いと言う訳でもありませんが、いいのですか?」


「全然知らぬ者達や親しい者達であれば見たいと思うが......誰が成し遂げたかは分かっておるし、かと言って親しき仲と言う訳でもない......微妙じゃないかの?いや、祝福する気がないというわけではないのじゃが......。」


「いえ、なんとなく分かります。」


お披露目を見るまでも無く知っている相手を、わざわざ人ごみに揉まれながら見物に行く必要は無いよね。


「頑張って離脱しますか。」


「そうじゃな......とりあえず、少しずつ道の端に移動するのじゃ。」


「了解です。」


人の流れに乗ったまま、じりじりと右手側へと移動していく。

時に肉の壁に阻まれ、時に子供の群れに行く手を遮られ......それでも根気よく移動を続けた俺達は、なんとか大通りの隅に到着して人の流れから離脱することが出来た。


「こちらの大通りは屋台も出ていないのですね。」


「うむ。この先の広間でお披露目があるからのう。人の流れを止めぬようにこの通りは出店を許可されておらぬのじゃ。」


「なるほど......。」


「まぁ、お披露目が最大の催しじゃからな。他の催し物は全てお披露目が終わってからじゃし......暫くは暇じゃな。」


「レギさん達と合流しますか?」


「......まぁ、別に合流せんでも良かろう。リィリも偶には二人きりでレギ殿と過ごしたいじゃろうしな。」


「あー、それもそうですね。レギさん、暇さえあれば仕事をしに出ちゃいますから......。」


二人のデートなんて指輪の調整をしに行った時くらいなのではないだろうか?

流石に下水道デートはリィリさんが不憫すぎる。


「レギ殿はなぁ......ちと遊びが足りぬよのぅ。」


「まぁ、なんというか......真面目を通り越して病気って若干言われていますからね。」


「リィリも難儀な相手を好きになったものじゃな。」


レギさんは頼りになるし、格好いいと思うけど......まぁ、欠点の無い人なんていないしね?

そんなことを考えながら大通りを一本外れると多少は人ごみがマシになった。


「やっぱり道一本程度じゃまだまだ人は多いですね。」


「当然じゃな。まぁ、こちらの道は屋台の出店が制限されておらぬし、大通りとは違った意味で移動はしにくいじゃろうがな。」


確かにこちらの通りの人達は何か食べ物を手に持っている人が多いな。


「僕達も何か買いますか?」


「ふむ......妾はどちらかというと何か飲みたいのじゃ。」


「あぁ......人ごみで暑かったですからね......そう言えば飲み物の屋台って見ませんね?」


「飲み物の屋台は難しいじゃろうな......。」


「なんでですか?」


「その場で飲むなら兎も角、器を持って行かれては採算が合わぬじゃろ?」


「あぁ、なるほど......それもそうですね。」


紙コップとかあればいいのだろうけど......この辺りで使われているコップって大体木で出来たヤツだもんな。

屋台で食べ歩きするには少し邪魔だし......持って行かれちゃったらコストばっかりかかるし......何よりコップを数用意するだけで屋台が埋まりそうだ。


「まぁ、ケイの言う様に飲み物の屋台というのも面白いかもしれぬがのう。提供の仕方に工夫が必要じゃが......器を持参させるとか......かのう?革袋ならそう邪魔にもならぬじゃろうし......。」


「紙コップとかあれば簡単なのですけどね。」


「紙コップ......というと......紙で作った器かの?」


「えぇ、僕のいたところではそういう物があったのですよ。」


「本当に面白い故郷じゃのう。その紙というのは羊皮紙ではないのじゃろ?下手な木の器より高いしのう。じゃが、植物で出来た紙では飲み物を入れては崩れてしまうじゃろ?どういうことじゃ?」


「......どういうことなのでしょ?あ、羊皮紙ではないです、植物紙だと思いますが......なんか水にぬれても大丈夫だったというか......あれ、どうなっているのでしょうね?」


「いや......妾が聞いておるのじゃが......。しかし......ふむ。植物の葉で器を作れば行けるかもしれぬのう。」


ナレアさんが顎に手を当てながらぶつぶつと言う。

別に商売がしたいとかそういうことでは無いのだろうけど......何かしら面白そうだと思ったことに対して集中してしまうのは、実にナレアさんらしいね。

俺は暫く、自分の世界に入り込みながらも歩みを止めないナレアさんが、人や障害物にぶつからない様に気を付けながら歩いていたのだが、喫茶店を見つけたのでそこで休むことにした。

まぁ、その間ナレアさんはずっとぶつぶつと言っていたのだけど......その様子を見た喫茶店の店員さんがちょっと引いてたな。

とりあえず俺は二人分の飲み物を適当に注文した後、適当に通りの様子を見ていたのだがナレアさんが唐突に正気に戻った。


「む?いつの間にこんなところに?」


「大して時間は経っていませんよ。考え事に夢中だったみたいなので適当に連れてきました。」


「ふむ......そうじゃったか。世話を掛けた様じゃな。面白い魔道具を思いついてしまってな。」


「葉っぱで作るコップを考えていたのでは......?」


いつの間に魔道具へと話が飛んだのだろうか?


「うむ、まぁ、最初はその事を考えていたのじゃが......気づいたらのう。まぁ、研究開発に携わる者としての性みたいなものじゃ。」


そう言いながら、ほほほと笑うナレアさん。

まぁ、葉っぱのコップを考えるにしては随分と長い事考えて混んでいるなぁとは思っていたけどね?


「研究者の性と言えば......アースさんってグラニダに着いてからどうなりました?まだ領都には着いてないのですか?」


確かあっちにフラフラこっちにフラフラしながら領都を目指していたはずだけど......最近話を聞いていなかった事を思い出したので尋ねてみた。


「おぉ、すまぬのじゃ。まだ伝えておらなんだが、昨日の夜に連絡があってのう、後数日で領都に到着するらしいのじゃ。」


「あ、結構真面目に領都を目指していたのですね。」


確か前聞いた時は......妖猫様を出た時だったかな?

その時はもうすぐグラニダって言っていたと思ったけど、グラニダについてからは比較的早く領都に向かったみたいだね。


「旅をしながらよりも腰を落ち着けたほうが研究しやすいからの。特にアースは今まで引きこもって研究をしていたからのう。そろそろ形にしたい発想が溜りに溜まっておるのじゃろうな。」


「それで領都に急行しているということですか。」


「ほほ、研究馬鹿じゃからな。」


「アースさんが領都に到着したら、カザン君は苦労するかもしれませんね......。」


「ほほ。その辺はカザンの領主としての腕の見せ所といったところじゃな。じゃが、上手く使うことが出来ればグラニダは発展するじゃろうな。」


「是非とも頑張ってもらいたいですね。カザン君には。」


「まぁ、妾も相談には乗ってやるつもりじゃ。」


近いうちにカザン君の所に行ってあげないとなぁ。

ナレアさんが相談に乗るのがカザン君なのか、それともアースさんなのかでカザン君の心労は大きく変わってくるし。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る