序章 狼の森

第1話 とにかく痛い



体が膨張するような、心臓の鼓動に合わせて全身に痛みが走る。

起きているような寝ているような、半覚醒状態とでもいうのだろうか?

今自分がどうなっているのか、どこにいるのか、今とはいつなのか、自分という存在さえあやふやで......。

まどろみから覚醒することなく、意識が沈んでいくのを感じる......。




「..................。」


誰かがすぐ傍に佇んでいるような気配を感じて意識が覚醒する。

目を開けて周りを確認しようとするが目が霞んでよく見えない......。

ふと、何か柔らかく温かいものが顔を撫でるように動いた気がする。

目が慣れてきたのか霞んでいた目がはっきりとしてきた。

ここは......どこだ?

見慣れぬ天井どころか、岩肌ででこぼこしている。

ど、洞窟......とかなのか?

もっとよく調べようと体を起こそうとして体が全く反応しないことに気づく。

脊髄損傷による麻痺とか......?

体が動かないことを認識したことにより背筋がひやりとする......、あれ?感覚あるのかな......?そういうのとは違うか......。

少し落ち着いたのかあることに気づく。

......左目がみえない......気づきたくなかったな......。

左目は見えない、体は動かない、恐らく現在地は洞窟。

なるほどなるほど......うん、中々の絶望感。

絶望を認識したところで先ほど感じた気配の事を思い出す。

顔を向けようと思ったが顔を向けることが出来ないことを思い出す。

うん、ダメだ、二つ以上の事考えられないっぽいな......。

右側に何かが動くのを感じる、辛うじて視界に入ったのはいつか見た白い狼......。

それを確認したところで急速に意識が遠のいていく......。




左側で何かが動いているような......。

それを認識した瞬間左半身に激痛が走る。


「づ......ぐぁ......。」


覚醒したり意識を失ったりを何度か繰り返した気がする。

しかし痛みを感じたのは初めてのような気がする......痛みさえ感じなかったことに比べれば良くなってきたってことだろうか......?

全身に焼けた棒を突っ込まれてかき混ぜられているようだ、そんな経験ないけど......。

いや、痛すぎて泣き叫びたい気がするけど、なんか妙に冷静な気がしてちょっと自分が怖い。

意外ともう死んでるんじゃないの......?

死んでいるのにこんなに痛いって、もう死ねないのに?辛すぎない?

でも痛いのは生きている証拠って誰か言っていた気もするし、生きているね、俺生きているわ。

そういえば左目が見えなかった覚えがあるけど、ものすごく霞んではいるもののなんとか見えるようになっているみたいだ。

全身全霊で右手に力を入れてみると辛うじて動かすことが出来る。

また一つ生の証明が出来た気がするね。

そういえば右側は痛くないし、視界も良好だ。

視界に意識を向けると岩肌ででこぼこしている天井がみえる......。

そういえばなんか洞窟っぽいところにいるんだっけ......?

記憶があやふやだ......。

確か、バイト帰りに晩御飯を買いにスーパーへ行こうとしたら誰かに引っ張られて......なんかすっごい痛かったりしたような......いや、現在進行形ですっごい痛いが......。

しかし洞窟......何がどうなれば街の交差点から洞窟へ移動出来るんだ......いや、今はどうでもいいか......。

それよりも......霞んだ視界に白い塊が見える......なんだっけ......覚えがある......あぁそうだ、白い狼だ。

......多分。

俺が見ていることに気づいたのか伏せていた狼は立ち上がった、んだと思う、ぼやけすぎてよくわからない。

狼(仮)が顔の方に近づいてくる、いや、もしかしたら犬かもしれないけど......というか日本に狼はもういなかったな......ってことは犬か、ハスキーとかかな?

まふっとおでこの辺りに何かが乗せられる、これは前足かな......?肉球が冷たい。

熱があったのか冷たさが気持ちいい、体の痛みも心なしか和らいでいる気がする......この犬のお蔭なのかな......って痛い!爪!爪が立ってる!!

体の痛みが引いてきたのに新たに別の痛みを与えられるとなんだか涙が出てくる。

爪痛い......けど、なんだろうさっきまで動かなかった体が少し動かせるようになった気がする......。

もう一度右手に力を入れてみると先ほどに比べるとスムーズに動かすことが出来た。

おぉ、体が動く......何故だかとても久しぶりに感じるな。

体を起こそうとしてみたが体が突っ張る感じがする、というか犬に頭を押さえつけられていて起こすことが出来ない......後、爪がとても痛いです。

上から覗き込むようにこちらを見下ろしているおかげで、以前見た......犬......狼と同じだと思う。

前も思ったけど、やっぱり綺麗だな。

目だけで彼......彼女......?を見上げている間に体の痛みはかなり引いていた。

すっと、額で爪を立てていた足が引かれる。


「............くっ。」


力を込めて上半身を起こしてみる。

すっげぇ痛い......けど、動かせる。

体を起こしたことで自分の体が見えた......心臓がきゅっとなる。

服が破れていて体が見えていたのだが......左半身が真っ黒だった......。

驚いてとっさに左腕を動かしたが激痛が走り目の前に火花が散ったような感覚に陥る。


「あがっ!?」


左側はダメだ、動かすと激痛が走る......。

激痛で荒くなった呼吸を整えて右手でそっと左手に触れてみる......感触は......普通だった。

少し触った所がぴりぴりするくらいで激痛が走ることはなかった。

これ、左半身真っ黒なのかな......すげぇ怖いんだけど......。

上半身を起こしたり首を動かしたりするとひきつるような痛みはあるけど腕を動かしたときのような激痛はない。

ゆっくり首を動かすと左手側に白い犬......狼が座っていた。

うーん、とりあえず左腕を動かすと痛いのは分かった、それは分かったけど現状が何一つ理解できない......。

一つ一つ確認していこう、俺の名前は狭間圭祐、18歳、とりあえず高校に通いながらバイトで糊口をしのぐ日々。

両親は仲良く離婚して......まぁそれはいい......バイトの帰りに腕を引かれて、洞窟なう。

気温は暑くもなく寒くもなく、洞窟の先から光が差し込んでいるところを見ると恐らく昼間、隣には狼、お腹はすいてない、体の左側が黒くなっていて腕を動かすと超痛い。

足は動かせるけど、あまり力が入らない、左腕が動かせないし、バランスが悪い......これは立てたとしてもそのまま倒れるな......。

外の音は、聞こえてこない気がする。

街中にぽっかり空いた洞窟という線はなさそうだ。

左目が霞んでいるけど、前より見えるようになってきている......と思う。

声は......でないようだ、無理に出そうとすると咳込みそうだな。

全体的に体の左側の機能が怪しいけど、耳は聞こえている、と思う。

現状というより体の状態チェックになったな......まぁつまり現状何が何やらさっぱりだってことを再確認しただけだね。

少し、疲れたな......少し横になって休むとしよう......。

横で伏せている狼の体温を感じながら俺はまた意識を手放していった。



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