狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
プロローグ
プロローグ
「圭佑、話があるんだ。」
両親から大事な話があると言われたので話を聞くことにした。
大事な話という割に深刻さは感じられなかったので特に身構えることもなくソファーに座った所、両親から離婚を告げられた。
その上で両親は息子にはなかなかきっついラブラブっぷりを見せつけてくる。
もはや意味が分からない。
混乱する俺は離婚の理由と今後の話を聞いた。
なんというか、なかなか情熱的な二人だった。
両親ともに仕事で海外へ数年出るらしく、その間俺は日本で適当に生きとけってことだった。
高校卒業後の進路も決まったことだし、まぁどうにでもなるだろう......。
バイト先から家に帰る途中コンビニ弁当かスーパー総菜かで悩む。
金額的にはスーパーだけど、ちょっと遠いんだよな......。
でも金銭に余裕は1ミリたりともない、しかしあまりの寒さに一刻も早く帰りたい......。
だがお金が......あ、これ無限ループだ。
よし、信号が赤だったらコンビニ、青だったらスーパーに行こう。
そう決めて信号に目をやった所、信号は点滅......。
なるほど、どっちだこれ?
まぁ仕方ない現実を見よう、スーパーまで遠回りして帰ったとしても死にはしない。
寒さは我慢してスーパーまで歩くことを決意し、強い心で信号を待つ。
両親が離婚してから2カ月、二人はそれぞれの仕事で海外へ、俺は高校に通いながらバイトに勤しんでいた。
中々面白い理由で離婚した両親とは違い、高校卒業までの数カ月をふらふら過ごしているわけだが、とりあえず今現在の目的は30%OFFのお惣菜だ。
取り留めないことを考えながら信号待ちをしていると左手を誰かに軽くひかれたような気がした。
「ん......?」
左側を見ても誰もいない。
気のせいかと思い信号に目をやった瞬間左半身に激痛が走る!
「がっ!???」
あまりの痛みに目の前に閃光が走り同時に左腕をものすごい力で引っ張られ体が宙に浮く。
何が起きているのか分からない。
とっくに地面に倒れてもいいはずなのにどこまでも引かれ、浮遊感は消えない。
うん、これやばい。
次第に痛みが無くなってきた。
おかげで絶賛混乱中ではあるものの少し頭が回るようになってきた。
終わらない浮遊感よりも何の感覚もなくなった左半身にぞっとする。
存在を確かめようと左腕を触ろうとした瞬間地面に投げ出された。
「っ......ぐ......!?」
投げ出された勢いのまま地面を転がり続ける。
地面は柔らかく、ここがアスファルトの上でないことが理解できた。
うつ伏せに止まった体を起こそうとして体がピクリとも動かないことに気づく、感覚のない左半身はもちろんのこと右半身も指すら動かすことが出来ない。
「......っ......っ......。」
声も出すことが出来ず、首を起こすことさえもできない。
自分の置かれた状況も理解できない所か身動き一つとれない。
まずい、まずい、まずい!
焦燥感だけが募るが何一つ出来ることがない。
意識があるのかどうかさえあやふやになっていく。
完全に意識が無くなれば、それは俺の死という結果が残るのだろう。
何が起きたかもわからず、ただ自分が死んでいくという実感だけがある......。
うん、中々の絶望感だ。
そして何より、両親への罪悪感が募る。
それぞれ別の場所で俺の死を知らされるのだろう、その時の両親のことを思うと申し訳なさで心が引き裂かれそうになる。
混濁していく意識の中、不意に聞こえた音により現実へと引き戻される。
霞んだ視界の先に白い塊が見えた。
「..................。」
それは狼。
真っ白な狼がこちらを見ていた。
その狼を見た瞬間、死への恐怖も両親への慙愧の念も忘れ、その姿に魅せられてしまった。
なんて綺麗な......。
そう思った次の瞬間、急速に意識が遠のいていくのを感じる。
このまま死んだらあの狼に食べられるのかな......?
まぁ、死んだ後なら別にいいけどさ......。
......父さん、母さん、ごめん......、本当に、ごめん。
......あぁ......それにしても......ほんとうに......きれいな......。
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