第250話 パレード



俺とレギさんはトールキン衛士長に領都兵の服を借りて人様の家の屋根に立っていた。

やはり動きやすさを重視された作りのようで、飛んだり跳ねたりするのに支障はない。

威圧感を与えない様になのかは分からないけど、鎧ではなく服だけではあるけど......要所要所になめし革が縫い込まれていて急所を守る役目はしっかりとあるようだ。

それにしても......。


「レギさん大丈夫ですか......?」


「......おぅ。」


体格のいいレギさんの着れる服の予備がなかったようで、現在レギさんはかなりぱつぱつな様相だ。

先程動きやすさを重視していると言ったばかりだけど......当然サイズが合っていればの話だ。

当たり前ではあるけど、レギさんの動きは非常にぎこちない。

もしリィリさんが見ていたら捧腹絶倒間違いなしって感じだね。

まぁ、俺もあまり直視するとやばいのだけど......。


「苦しそうですね......。」


「あぁ、あまり息を吸い込むと弾けそうでよ......。」


笑うのは非常に悪いとは思うのだけど......少し窮屈そうに肩を縮こまらせながら猫背になっているレギさんは......やはり直視するのは厳しい......。


「随分楽しそうだな、ケイ。」


「す、すみません。でもレギさん、その状態で屋根飛び回れますか?」


「......あぁ、まぁ、何とかなるだろ。」


......まぁ飛び回るとは言ってもそんな全力で動く必要は無い。

気を付けて動けば多分大丈夫だろう......緊急時は......バトル漫画みたいに筋肉が盛り上がって服が弾けることになりそうだけど......。

まぁ、服を渡してきたトールキン衛士長も無表情ながらそこはかとなく無理かなーって雰囲気を醸し出していたし......破損については気にしなくていいって言ってくれていたからな。

しかし......是非ともこの光景をリィリさんに見せてあげたいな......物凄く喜びそうなものだけど......。


「また余計な事考えてるだろ......。」


「いえ、そんなことは......。」


レギさんが物凄い圧を俺に放ってきたと同時に遠くから歓声が聞こえて来た。


「あ!どうやら到着したみたいですね!」


カザン君、非常に良いタイミングだよ!


「......そのようだな。先頭が街に入って来た......あれは......辺境軍の兵ってやつか?」


ごつい鎧に身を包み馬に騎乗した数十名の兵が門をくぐり大通りを行進してくるのが見えた。


「辺境軍は強いって聞いていましたけど......確かに、見た目から強そうですね。」


この世界に来てあんな感じに鎧をがっつり着込んでいる人を見るのは、龍王国の騎士さん達以来かな?

見た感じ体格もかなりいいし、龍王国の騎士の人達よりも強そうだ。

これが常に実戦に晒されている人達ってことだろうか?

龍王国の人達は基本的に国内の治安維持、東方への警戒が基本任務だってワイアードさんも言っていたしな。

警戒のみならず常に実戦に晒される可能性のある人達との違いってやつだろうか。

身にまとっている雰囲気が遠目から見ても違う気がする。


「辺境軍の中でも精鋭が周りを固めているって言っていたからな。実際相当強いんだろうな。」


一糸の乱れもなく行進を続ける辺境軍は練度の高さも十分に伺える。

そしてその後ろに続くのは歩兵......センザの兵かな?

先頭を進んでいた辺境軍の人達に比べれば些か見劣りするものの、ここまで十数日の行軍の疲れを見せないその動きには頼もしさを覚える。


「歩兵......あの鎧は見覚えがあるな、数も多いし恐らくセンザの兵だな。」


「僕もセンザの兵だと思いますけど......百人くらいですかね?そこまで多くないみたいですけど。」


「センザを空っぽにするわけにはいかないからな。寧ろ連れてきている兵の方が少ない筈だ。」


なるほど......盗賊程度じゃ襲えるはずもないし、魔物も数匹程度なら相手にならないだろう。

一番警戒するべきは反乱に加わった地方軍だけど......足元すら疎かになっているくだんの地方軍が果たしてこちらの動きにどれだけ気付いているのか......流通が滞っていることを考えると、情報の移動もスムーズに言っているとは考えにくい。

アザルが地方軍をほったらかさずにしっかりと統率していれば、もっと厄介なことになっていただろうけどね。


「次辺りカザン君が来ますかね?」


「人数的にそろそろ中程だろうが......恐らくカザンの前に......。」


レギさんが最後まで言うことはなく隊列の雰囲気が変わり、騎馬に乗った一団が姿を見せる。

その中に鎧を着たセラン卿、そして普段より豪華な服を着たエルファン卿が見える。


「あれは、セラン卿達ですね。」


「あぁ、カザンを支持した有力者、その中でも中心となる人間だ。そして次に来るのは......。」


流石に次に来る人物は俺も分かる。

大通りに集まっている民衆も分かっているのか、遠くから聞こえていた歓声やざわめきが小さくなる。

そして次の瞬間、爆発するような歓声が沸き上がった。

門を通過し、馬車に乗ったカザン君が姿を見せたのだ。

質素ながら上品な感じのする衣服を纏い、ローブ......いや、マントを纏っている。

マントに刺しゅうされているのは、グラニダの門に掲げられている旗に描かれているものと同じものだ。


「格好いいですね。」


「あぁ、立派なもんだ。」


胸を張り堂々と前を見据えるカザン君の姿は、その意志の強さが滲み出ているようにも感じられる。

やがて前を真っ直ぐ見ていたカザン君が民衆の声に反応するように、大通りの左右に並ぶ民衆に笑顔を向ける。

笑顔を向けられた民衆が一瞬声を失ったように静かになり、その後先ほどにも勝る歓声が聞こえる。

カザン君は相当なイケメンさんだからなぁ......笑顔を向けられて呆けてしまっても仕方ないという物だろう。


「いい感じですね。」


「あぁ、良い熱狂っぷりだ。とりあえずしっかりと歓迎されているようだな。」


「後はこの後の演説が上手くいけばって所ですね。」


「そうだな。まぁその辺は抜かりないだろう。」


レギさんが窮屈そうにしながら隣の屋根へと移動を始める。

カザン君達のパレードはここから距離があるので、のんびりと移動しても十分視界に収められる。

緊急事態が起こらない限り、レギさんは借り物の制服を破らずに返せるだろう。

ぎこちない動きのレギさんからカザン君のパレードの方に目を戻すと、一瞬カザン君と目が合った気がする。

カザン君には強化魔法が掛けているので向こうからも俺の事が見えたかもしれないな。

俺と目が合った瞬間、少しだけ民衆に向けている物とは違った笑みを口元に湛えた気がするしね。


「今カザン君と目が合いましたよ。」


レギさんに続いて隣の屋根に移動した俺は先ほどの事をレギさんに告げる。


「こっちからはともかく、カザンが気づいたのか?」


「恐らくですけど、目が合った後ちょっと笑ってましたし。」


「そうか......カザン自身も相当周りを警戒しているようだな。全てを人任せにしないのはカザンの良い所だが、気が休まる時がなさそうだ。」


「僕らがいる事で少しは安心してくれるといいのですけどね......。」


「カザンの今後を考えれば悪くないことだがな。俺達はいつまでも一緒にいてやれるわけじゃない。」


「それも......そうですね。」


グラニダにおける問題......カザン君達の依頼はほぼ完了したと言ってもいいだろう。

後は今日カザン君が領主に正式に就任すれば......アザルから情報を聞くくらいしか残ってないかな?

その尋問もトールキン衛士長がやってくれているからな。

どのくらい時間が掛かるかは分からないけど......もしかしたら先に黒土の森に行くのもありだろうか?

今後の事に思いを馳せていると俺の肩でシャルが耳をピクリと立てたのが目に入った。


「シャル?どうかした?」


『......はい。今ファラの配下のネズミから連絡がありました。先日捕らえた者達を捕まえている牢で異変があったようです。今ファラが確認に向かっているようですが......詳しいことはまだわからないそうです。』


アザルを捕まえている牢で異変?

まずい!


「レギさん!アザルを捕らえている牢で何か異変があったみたいです!」


「ち!今日を狙ってやがったか!?リィリ達に連絡を入れてくれ!警戒を強化しろと!」


「はい!」


「俺は牢に行く!ケイはトールキン衛士長の所に行って、異変に気付いていないようならそれを伝えてから牢の方に来てくれ!」


「了解です!マナス!分体を俺とレギさんの所に、本体はカザン君の護衛に回って!」


マナスが分裂するのを尻目に、俺は急いで屋根から飛び降り、トールキン衛士長の元へと走りながら魔道具を使ってナレアさんに呼び掛けた。


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