第249話 帰還当日



レギさんとやることがないなぁとぼやきつつ過ごすこと数日、相変わらずアザルは口を割ることなくダンマリらしい。

しかし、檻から見捨てられているアザル達に助けが来るはずがないにも関わらず、何故耐えられるのだろうか?

尋問にずっと耐えられるのはいつかは終わりが来るという希望があるからだと思うのだけど......違うのかな?

まぁ、今はアザルの事はいい。

今日はカザン君達が領都への帰還を果たす、そして正式に領主へとカザン君が就任する日だ。

センザでの声明は領都を目指し復権することを発表しただけらしい。

領都での声明はもっと突っ込んだ内容になるはずだ。

俺とレギさんは傍で護衛が出来るわけじゃないけど、出来る限り近い場所で見守るつもりだ。

勿論ファラとネズミ君達による警戒網は構築済みだし、怪しい人物がいれば即御用だ。


「そろそろか?」


「えぇ。段取りでは大通りを行進、その後領都中央に設置した舞台で声明......演説ですね。」


いつもの宿の部屋からカザン君達が行進する予定の大通りに人が集まっていくのを見ていると、レギさんが声を掛けてきた。


「リィリ達は少し遅れて到着するみたいだが、演説には間に合うのか?」


「一応間に合うそうです。ノーラちゃん達は壇上には立たないみたいですけど、傍にはいるらしいですよ。」


俺は少し前に入ったナレアさんからの連絡内容をレギさんに伝える。

レギさんは会場の下見をしていたので通信時にいなかったのだ。


「じゃぁ舞台付近はあいつらに任せておけば大丈夫だな。」


「はい。不審人物にはネズミ君達が目を光らせていますが、僕達は一般の方達に混ざって演説を聞きましょう。」


「行進はどうする?一応トールキン衛士長も遠目から護衛に入るみたいだが。」


「ちょっと怪しいですけど、屋根から見ますか?」


「そうだな、俯瞰出来る位置で見るのはいいかもな。トールキン衛士長にそのことを伝えておこう。でないと不審人物として俺達が捕まる......捕まらないにしても無駄に警戒させちまうからな。」


「あー、確かにそうですね。」


何も言わずに屋根の上を飛び回ってカザン君達を見ていたら確実にマークされる。

攻撃されても文句は言えないね。


「じゃぁ忙しいだろうがトールキン衛士長の所に行って話を通しておくか。もし会えなかったら屋根から見るのは無しだな。」


「了解です。その場合は通りに並んでみますか。」


「それがいいだろうな。」


そう言って部屋から出るレギさんに続いて俺も外に向かう。


「トールキン衛士長のいる場所は分かっているのですか?」


「......あぁ、しまったな。いつもあの牢にいるからそこに行くつもりだったが、今はいる筈がねぇか。ケイ分かるか?」


「ちょっと待ってくださいね......シャル、ネズミ君に聞いてもらえる?」


『承知いたしました。』


肩に掴まっていたシャルが飛び降りて路地の方に歩いていく。

俺の位置からは見えないけど、あそこにネズミ君がいるのだろう。


『お待たせいたしました。すぐに調べるそうなので少々お待ちいただけますか。』


「うん、了解だよ。そういえば、ファラは今何処にいるのかな?」


『ファラは今演説の行われる舞台の周りでネズミ達を配置しているようですが、ファラに何か御用でしょうか?すぐに呼び出せますが。』


「いや、大丈夫だよ。ちょっと気になっただけだから。」


『そうでしたか......ファラに聞けば......と、トールキン......の居場所も分かったかもしれませんね。』


若干トールキン衛士長の名前を言う時に言い淀んだけど......俺が言ったことを頑張って守ってくれているんだな。

俺は微笑ましい気持ちになりながら、こちらを見上げてくるシャルをしゃがみ込んで撫でる。


「いや、今ファラは忙しいだろうからね。時間が掛かる様ならファラに聞きたいところだけど、そんなに時間かからないよね?」


『はい、把握している者が近くにいるのですぐに分かるそうです。』


「じゃぁ、問題ないよ。」


俺がそう言って先ほどまでシャルが話しかけていたであろうネズミ君のいた路地に目をやったところ、ちょろちょろっとネズミ君が路地から飛び出してくるのが見えた。


『......ケイ様お待たせしました。あの者が案内するそうです。』


シャルの言葉に俺が視線をネズミ君に戻すと敬礼をするように片手を上げた。

中々可愛い......ファラが仕込んだのかな?

俺が見ているとネズミ君が先導するように走り出す。


「レギさん、あの子がトールキン衛士長の所まで案内してくれるそうです。」


「そりゃ助かるな......ネズミ駆除の依頼は金輪際受けられねぇなぁ......。」


「あはは、かなりお世話になっていますからね......でも駆除の依頼を受けてもいいんじゃないですか?ファラに頼めば悪さはしなくなると思いますよ。」


「それもそうだな。寧ろ率先して受けるべきか?他の冒険者に駆除されちまうほうが悪い気がするしな。」


先導してくれるネズミ君を追いながら、俺とレギさんがまだファラの配下になっていないネズミ君達の事を話し合う。

しかし、ファラはどうやって配下の子達を増やしていっているのだろうか?

一人で全員を説き伏せるなんて不可能だろうし......数日先行するだけで全て掌握した、みたいな感じで来るからな......ファラは。

ネズミ君についてあーだこーだと話しながら着いて行くことしばし、意外と近くにいたようで十分と掛からずにトールキン衛士長の元に辿り着いた。


「こんにちは、トールキン衛士長。忙しいところすみません、少し相談したいことがあるのですが。」


部下らしき方に指示を出していたトールキン衛士長の手が少し空いた瞬間を見計らって俺は声を掛ける。


「ケイ殿、それにレギ殿。どうされましたか?」


物凄く忙しい筈なのに嫌な顔一つせずに......いつも通りの無表情でトールキン衛士長が対応してくれる。


「今日の事で少し......行進の際に僕らは遠目から辺りを監視しようと思うのですが......そうですね......大通りから二つほど離れたの路地の建物の上から見ようと思いまして。」


「建物の上からですか......?」


「えぇ、当然壊さない様に慎重に動きますが......かなり怪しいと思うので先に周辺を警戒しているトールキン衛士長に話を通しておこうと思いまして。勿論邪魔なようでしたら普通に通りで見物しようと思っています。」


「......いえ、お二人のお力は、ご迷惑でなければこちらから助力頂きたいと思っております。是非、遠目からでもカザン様達を見守っていただけますでしょうか?」


トールキン衛士長がこちらに頭を下げてくる。

お節介の押し売りではあったけど、しっかりと許可が取れてよかった。

これで多少怪しい動きをしても、俺とレギさんは咎められないだろう。

まぁ、これでもかって言うくらい不審人物に関しては警戒しているし、何もないとは思うけど......警戒しておくに越したことは無いからね。

特に俺達は近くで護衛が出来ないから......。


「もし良ければ領都兵の服をお貸しいたしましょうか?仮に何かがあって駆け付ける際、領都兵の服装であれば問題は起こりにくい筈です。」


「よろしいのですか?制服って扱いが厳しいと思うのですが......。」


軍服はぱっと見で分かる身分証明証みたいなものだし、そう簡単に貸し出せるものでもないと思う。

盗難にでも合えば軍施設等の諜報がかなりやられやすくなってしまうだろう。

やられ放題ってことは無いだろうけど、面倒には違いない。

相当厳重に管理してしかるべきものだと思うけど。


「えぇ、紛失に気を付けて頂ければ問題ありません。ケイ殿やレギ殿がおかしなことするとは考えられませんしね。」


そう言って少しだけ相貌を崩すトールキン衛士長。

部下の人が物凄い物を見た、みたいな表情でそれを見ていたのがなんか面白かった。


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